再生の夜
ウル様とエドにとっては何年ぶりになる東への帰郷。
王の滞在に合わせ開催された夜会には、当然リンデン家も夫妻揃って招待されている。
その前に、とメッセンジャーが運んできたのは旦那様からの面会希望。といっても僕でなくエドに、だ。
いくら家を出たからと言って、エドは夫妻からの面会希望を拒否したりはしなかった。
「弟が正式に嫡男となった祝いもありますし…ご存知でしたか?母は私たちが不在の間に第三子に恵まれていたようです」
「え?初耳…。リンデンの旦那さまは何も言わなかったし…」
そもそも興味もなかったし。
「今いくつ?」
「三歳だとか」
つまり僕たちが西へ向かったあの頃前後に身籠ったのか…。頑張ったなドローテア夫人…
「父は父なりにお家のことを考えたのでしょう。祝いの品を届けて参ります」
異論はないって示して来るのね。エドはいつも思慮深いなあ…
「エミルとの婚儀もお伝えしなければなりませんし」
色々あって延び延びになっているが、彼らは西に戻り次第教会で結婚式をあげる予定だ。
「エド…、僕も行っていい?」
「……」
「えっ?」
「はあーっ!」
上から順に、オズヴァルト、エド、僕である。
「エミル…君は大丈夫なのか」
絶句する僕とエドに代わって訊ねてくれたのはオズヴァルトだ。やっぱり無関係なぶん平静というか…
「だって結婚の報告なのに妻が行かないのはおかしいでしょ?」
「ま、まあ…」
普通はそうだけと普通じゃないじゃん!
「会ってみたかったの…。ナンナーへのわだかまりと決別したお父様がどう変わったか知りたくて…」
「辛くない?」
「もう平気。僕には優しい夫も僕をウルリッヒだって…多分気付いてて、それでも息子にしてくれたお父さんとお母さんがいるから。それに…」チラ「かけがえのない友達もいるから」
ジーン…「そっか…」
前回が旦那さまにとっての決別ならば、これはウル様にとって本当の決別になるのだろう…
「あ!ウル様一つだけ…」
「なあに?」
「昔やらかしたイタズラのことで叱られたら…ごめんね?」
「フフ」
時効ってことでここはひとつ。
さてその日の夜。ウル様とエドが面会をしている間、オズヴァルトは主賓席、つまり一段高い中央の王座に座っていた。
右横にはリュティガー様もいる。反対隣りは僕の席。けれど僕はジッとしてなんかいない。唯一無二の神子様は何人たりとも指図なんかされないのだ。
「あらまあ…、困った王妃様ですこと」
「ブリッタ様…だって僕は王妃である前に神子ですから」
「西の子爵夫人、オズヴァルトの母から手紙が参りました。彼女はあなたのことを〝賦活の神子”と呼んでおりましたよ」
「そうなんですか?」
「ええ。あなたはこの国に力を与え蘇らせた功労者です。なんでも好きになさいませ」
「…」ニヤリ
王妹殿下からの力強い許可ももらったことだし、今後も自由気ままにやらしてもらおうかな。
「聞きましたよ。第二妃第三妃のご子息たちを神殿都市に呼び寄せたと」
「いけませんでした?」
「いいえ。ですが何故神殿都市に?王族教育でしたら東の方が何かと都合よいでしょうに…」
これは諸々の老王族、有力な後ろ盾、様々な意味を含むのだろうが…西には王族のトップ、オズヴァルトが居るし後ろ盾なら辺境伯も居る。
「ブリッタ様、リュティガー様両名に教えを受けたオズヴァルトは誰よりもお手本に相応しい聡明で清廉な王だと思います。心配いりませんよ」
「まあ!上手いことを」
「本心です。それに東は東でいずれ産まれるリュティガー様のお子が継承なさればいいと思ってます」
「…ウルリッヒ様…そのようなことを…」
ブリッタ様は当然東の副王もいずれはオスビーの子が継承すると思っていたのだろう。僕のとんでも発言に言葉を失っている。
「ナンナーのご長老に聞きました。リュティガー様と亡くなられた長兄はとてもよく似ていたと」
諸々の挨拶に…とナンナー伯爵家を訪ねた僕に、「一族をお救い頂いたお礼を…」と杖をついて顔をだしたご長老。二時間ほどお話ししただろうか。ご長老が疲れてうつらうつらし始めるまで。
「ええ…。面差し、理知的な所もとてもよく似ていました。もっとも兄エラルドの方が勇敢でしたが」
リュティガー様は臆病だもんね。でもお兄さんの暗殺があったから臆病になったんだと思うよ?
「弟リュティガーは兄エラルドを尊敬し手本としていました。いえ、兄は多くの臣下からそれはもう期待されておりました。兄リカードはそれも忌々しかったのでしょう」
ハー「救い難いですね、おっと失礼」
「いえ」
「では代わり…という訳ではないですがリュティガー様の系譜を王子エラルドにお捧げください」
「まあ…」
「神は神がお作りになった命ある全ての安寧こそをお望みです。王座とかそう言ったものは後で付いてきた付属でしょ?神が欲しがったことなどありません。僕も欲しくないしオズヴァルトもそうです」
こうなったからには最後まで責任は取るが、執着する気はサラサラない。王族としての矜持をお持ちのブリッタ様にはその想いが通じるだろうか…
「…やはりあなたは王妃である前に神子なのですね。分かりました。その想いしかと受け止めましてございます」
「東の人々の安寧を」
「ええ。お約束します」
そして終わりなき夜会にキリをつけて僕は…王の部屋でなくウル様にとっても思い出の部屋、神殿の自室へと戻ることにした。
僕とウル様はここに泊まるつもりだ。
「ど、どうしたのウ、エミル!なにか言われたの!」
そこに居たのは涙にぬれるウル様。とエド。
旦那様ー!事と次第によっちゃただじゃおかないからな!
「心配無用ですウルリッヒ様。エミルが泣いているのは悲しさではありませんから」
「え…?」
訪れた長男エドと元使用人の息子、エミルから伝えられた結婚の報告に旦那様は少しの反対もなさらなかったそうだ。
おまけに僕がお屋敷で行った数々の過去の悪行に関しても、何一つ叱責なさらなかったとか。
そしてエドと両親、弟たちの歓談を黙って見続けたウル様が席を立ったその時、旦那様はエミルの手を取り強く握るとこう言ったそうだ。
「馬鹿で愚かな私と違いお前は昔から本当に聡く情深い。お前の存在はウルリッヒだけでなく私にとっても救いであった。いまさらおめおめと私が西へ出向くことは出来ぬが…私が傷つけたウルリッヒとエドヴィン、二人の息子をどうか…どうか頼む」
と。




