触れてはならない過去
「リュティガー様、ここ本宮殿へ呼び出すなど…何用でございましたか?」
これが第三妃、フリーデリケ様。キレイだけど今一つ華の無いお方だ。
けれど彼女の生家はそれなりの序列を持つ名家。前王リカードが娶った妃の中では頭一つ気品が抜きん出ている。
「今日は伯爵夫人の屋敷で寄付金集めの茶会でしたのに…、急な呼び立ては困りますわリュティガー様」
これが第二妃、アデライデ様。実に華やかな美女である。
王妃エメリンもたいそうな美女ではあったが、エメリンが氷の国の女王だとすれば、こちらアデライデ様は南国の女王。陽の空気を纏っている。
前王リカードは後宮にそれぞれタイプの違う美女を揃えていたが、もっとも足繁く通っていたのがこの第二妃だ。
わかる。わかるよ。
多少金遣いが荒かろうが派手好きだろうが、日頃あの正妃といたらこういう明るい人と居たくなるよね!
だからこそエメリンはこのアデライデ様を目の敵にして嫌がらせを続けていたのだ。王様のお気に入りじゃなきゃとっくに逃げ出していたに違いない。
現に戦闘力の欠片もない第三妃、フリーデリケ様は常にエメリンの顔色を伺っていた。
名家から嫁いだのであれば生家は王の血をひく男の子を望んだはずだ。その彼女までもがあの後宮で王子を産まなかったのはエメリンを相当恐れてのことだと思っている。
「急な呼び出しすまなかったね。だがこれは王の望んだ会見なのだよ」
リュティガー様に何も言わないようお願いしたのはこの僕だ。何かを勘ぐられて事前に動きがあっても困るから…なんだけど、何の動きを懸念したかは今からね。
「これは!王オズヴァルト陛下ではありませんの。失礼いたしました」
「あらいやだ!おっしゃってくださればよかったものを…陛下、お会い出来て嬉しゅうございます」
慇懃に礼をとる二人の元妃。けれどその顔には一瞬にして緊張がただよっている。
彼女らはブリッタ様によって幼いオズヴァルトに引き合わされたようだが、王妃の機嫌を損ねないようそれきり交流はしていない。
「気を楽にしてくれ。私はあなた方に何の遺恨もない」
ホッと息をつく二人。彼女たちは西への神殿替えとオズヴァルトの同行がリカードとエメリンによる廃棄行動だと知っていたのだろう。そして自分たちはその側妃。
オズヴァルトの呼び出しと聞いて何の処分かと飛び上がったのだ。
「そもそもあなた方に会いたいと願ったのは私の妃、神子ウルリッヒなのだよ」
「…ま、ウルリッヒ様が…」
「神子様、わたくしたちにどんな御用がございましたか?なんなりとお申しつけくださいませ」
二人は自分たちがあの伝染病から逃れたのがブリッタ様のおかげだと暗黙のうちに理解している。そしてそれが、ブリッタ様に僕が与えた〝神子の妙薬”のおかげだと言うことも薄々分かっている。
ふたりの態度はとても恭しい。
「えー、では今から聞くことにお答えください。包み隠さず正直に」
「よろしくてよ」
「なんでございましょう」
「お二人は僕が神子の紋様を発現し神殿に上がる前、それぞれお里帰りをしていますね?」
「え?ええ」
「まぁ…」
スッと逸らされる視線。やっぱりな…
「記録によれば第二妃は他にも二度ほど生家にお戻りだったようですね?」
「まあ…わざわざお調べになりましたの?」
「ちょっと気になって」
「一度目は高齢だった祖父の容体が、二度目は妹の具合が芳しくございませんでしたの。いけないかしら?」
「いいえ」
側妃方のお里帰りには大変な調整が必要となるためホイホイ許可されることはない。家族に会いたければあっちが王城に来ればいいのだから。
そんな里帰りのもっとも許可されやすい理由が《《近しい血縁》》のお見舞い、葬儀、などである。
「第三妃、あなたも僕が神殿に上がった頃ちょうど生家へお戻りでしたね。はじめましてのご挨拶は僕が神殿入りしてから半年以上も後でした」
「その節は失礼いたしました。弟が大怪我を負ったものですから」
「聞いています。当時神官は言っていました。第三妃は慎み深いって。ううん、二人とも遠慮深い。王に一言いえば僕の癒しを受けることも可能でしたでしょうに」
無言の二人。けど僕にはわかっている。といっても今はまだ憶測の域を出ないのだが…
彼女らは第三妃がお腹の子を何かの企てによって流されてしまったあの事件以後、王妃エメリンを警戒し、男児の出産に備え全ての出産を生家で行う事にしたのだろう。
「もう何かを警戒する必要はありません。はっきり言ってください。あなた方は秘密裏にお産をしていたんですね?」
側妃方はそれぞれ里帰りを終えた数か月後、早産だったという名目で一人づつ女児を出産しているが、僕が思うにあれは里帰りですでに出産を済ませていたのだ。
こうして第二妃には二人の姫、第三妃には一人の姫が手元にいるのだが…
「僕から言いましょうか?あなた方には養子に出した男児がいる。第二妃に二人、第三妃に一人、そうですね?」
黙り込む二人。先に口を開いたのは気丈な第二妃だ。
「養子に出したのは一人ですわ。初めての男の子はエメリン様にことが知れ…うぅ…産まれてすぐに奪われてしまいましたから…」
「え…」
衝撃の事実。う、奪われた…それってつまり…
「だからこそわたくしたち二人とも正妃にだけは逆らってはならぬと心得たのです…」
「ああ…わたくしの可愛いカールをこの腕に抱けたのはほんの数日間。あの女は人の心を持たぬ悪魔ですわ!」
崩れ落ちる第二妃。それを支えるのは第三妃。彼女たちはライバルでありながら、王妃の脅威に対し共闘する仲間でもあったのだ。
「エメリン様はアルトゥール以外の〝王子の存在”をけっしてお認めにはなりませんでした。それはオズヴァルト陛下、あなたが一番ご存じでございましょう!あの方は蛇のように執念深いのです!」
「…ああ、よく知っている…」
「あの女の訃報を聞いてどれほど胸のすく想いがしたか!」
「ウルリッヒ様、すでに治世はオズヴァルト様のもの。いたずらに過去を掘り起こしてどうなさいます。わたくしたちはようやく身の危険を感じることなく親子の名乗りをあげたところですのに…」
「僕はただ…ただ王子だったはずの二人に本来の立場を、王家の血を引く少年たちに正当な地位を与えたい、そう考えただけです」
「え?」
固まる空気。その中にはオズヴァルト、リュティガー様も交じっている。
やだなぁ、驚かしちゃった?




