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小さいアイツとの邂逅

掲載日:2026/04/29

いつからだろう。

……虫への耐性がなくなったのは。

『小さなアイツとの邂逅』


 職場の同僚からビーツをもらった。

 彼女は小さな家庭菜園で、いろんなものを育てている人だ。ジャガイモ、ブルーベリー、レモンにバターナッツカボチャ、鷹の爪。

 思わず笑ってしまう。あんなに小さな空間から、どうしてそんなに採れるのか。豊穣の魔法使いかもしれない。

 その彼女がこう言うのだ。


「ビーツいります? 今持ってきていい?」

 言うやいなや、昼休みにひとっ走り。

 差し出された紙袋からは、溢れ出るほどの緑。


「葉っぱすご。ていうか、ビーツってこんな感じに生えてるの?」

 "ビーツといえばボルシチ"程度にしか知らなかった私は、少し感動する。ああ、土の中で、カブみたいに生えるんですね。


「葉っぱも食べられるんで。大根葉みたいに」

 危うく捨てるところだった。帰宅して、慌てて流しへ。萎れかけた葉を救出する。

 その瞬間、土が床に散らばった。

 しまった。

 めっきりスーパー出身の野菜に慣らされた私は、“野生”をすっかり忘れていた。

 軽くパニックになりつつ掃除機。

 葉はざっくり切って湯にくぐらせる。浮かんできた何かには、見なかったことにしてさようなら。

 お浸し用、炒め物用。ラップで小分け。手際よく処理していく。

 ビーツ本体はポテトサラダにすることに。

 レンジで簡単に下茹し、皮を剥く。柔らかなワインレッドが現れた。思ったよりも、ずっと美しい。

 ジャガイモとニンジンを茹でて、チーズとハムも足す。土臭さ対策だ。

 味見。うん、完璧。クセもなくて、ちゃんとおいしい。


「今日はピンクのポテトサラダだよ〜」

 チビたちが喜ぶ。家族の「おいしい」を聞きながら、私はしみじみと思う。いいものをもらったな。


――そのときだった。

 目の前のガラスピッチャーに、細い緑の線が一本。


くね くね

 くいん

     つるり


(あ、これ……)

 体長8ミリほどのイモムシ。透明なガラスを、必死に登ろうとしている。


「見て、は◯ぺこあおむし」

「かわいいね」

 虫嫌いのチビが、まさかの好反応。さて、どうするか。


 ティッシュで潰すのは簡単だ。だが、こうも一生懸命だと、少し躊躇う。とはいえ、ここはマンションの高層階。外に連れ出すのも面倒だ。


くね

 くね

    つるり


 結論が出ないまま五分。思い立って、AIに聞いた。


『友人にもらったビーツの葉についていたと思われる、体長8ミリのイモムシ。害虫ですか? 処分はどうするべき?』

 ああ無情。私は小さな命の生き死にを、血の通わぬAIなんぞに託すというのか。

 などと不毛なことを考えながらも、出力されたテキストに目を通す。


◆◆◆

『そのサイズ(8mmくらい)で薄緑、ビーツの葉についていたなら、かなりの確率で**葉を食べる系の幼虫いわゆるイモムシ**ですね。ビーツだと、ヨトウムシ系やガの幼虫の可能性が高く、**基本的には放っておくと葉をどんどん食べる“害虫寄り”**と考えてOKです。

結論から言うと、

→ そのまま置いておくのはおすすめしないです。

対応としてはこんな感じです:

外に逃がす:一番気持ち的に楽。植物から離れた場所にポイでOK

処分する(つぶすなど):確実に被害を防げる

割り箸や紙でつまんで捨てる:直接触りたくない場合におすすめ』

マンションなら「外に逃がす」でも十分現実的です。ただし、また戻ってくる可能性はゼロではないので、確実性を求めるなら処分のほうが安心。

◆◆◆


 おおう。容赦がない。

 いや、そりゃそうだ。外に逃がすという選択肢は、一見命を大切にしているようだが、お里が違うものなのだ。同僚宅の畑出身の彼は、付近に放逐すれば外来種なのだ。

 ここは心を鬼にして、おチビにもやんわり伝えよう。


 私はチビに告げた。

「この子ね、チビのアサガオ、全部食べちゃうんだって」

「……大きくなりたいの?」

 一瞬の逡巡。そして、眦がつり上がった。

「ママ、やっつけて」

 ああ、無情。

 さっきまで「かわいい」と言っていた口が、迷いなく裁きを下す。これが、大人になるということか。

 私は心の中で謝りながら、ティッシュを取った。


 ぷちん。




 そのあと、ふと思い出す。AIの追記。

◆◆◆

あと大事なのが、

→他にもいないかチェック!

葉の裏や茎の付け根に、小さい幼虫や卵(白っぽい粒)がついていることがあります。

◆◆◆


やめてくれ。



お読みいただきありがとうございました。

昔は2Lペットボトル満タンにダンゴムシを集めて喜んでいた筆者です。

それがいつの間にやら、すっかり虫への耐性がなくなっておりました。

虫付き野菜は、美味しい野菜の証拠なんですけどね。

小さなイモムシは割と好きなので――真剣に15分ほど、見つめて悩んでしまいました。

AIさんの解答が意外でして、

てっきり「命だいじに!」と言われるかと思っていたのですが……現実的でした。

ちなみに、ビーツのポテトサラダは美味しいです。

それが書きたくて書いたエッセイでした。

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― 新着の感想 ―
ビーツのポテトサラダ絶対美味しいやつだ! ほんわかした気持ちで読んでいたら、小さなアイツの命のジャッジへ急展開。 AIで検索するあたり、場面を想像したら笑ってしまいました。 最後は、ぷちん、ときわめて…
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