上 糸を切った日
あるところに、
すべての人形が糸でつながれている国がありました。
その国では、
糸であやつられることが「正しい生き方」でした。
ある日、ひとりの男の子のマリオネットが、
うっかり一本の糸を切ってしまいます。
その瞬間。
今まで誰かに動かされていた体が、
ほんの少しだけ、自分の意思で動きました。
男の子は驚きました。
――これは、ぼくが動いている。
胸が高鳴ります。
そして彼は、残っていたすべての糸を、
自分の手で引きちぎりました。
体はぐらりと揺れましたが、
確かに、自由でした。
けれど周りのマリオネットたちは、ざわめきます。
「大変だ」
「糸なしで動くなんて、決まりに反している」
「壊れてしまったんだ」
男の子は、振り向きません。
自分の持ち場を離れ、
町のメインストリートへと歩き出しました。
ぎこちないけれど、
誰にも引かれない、自分の足で。
そこで、一人の少女のマリオネットに出会います。
少女は男の子お見て驚き、静かに言いました。
「糸を、全部外したのね。」
「うん。ぼくは自由になったんだ。」
少女は少しだけ微笑み、けれど目は揺れません。
「この国では、それは“異端”よ。
壊されたくなければ、ここを出ていきなさい。」
「君は、ここにいるの?」
「ええ。私は、ここで自分の役割を果たすわ。」
男の子は、何も言えませんでした。
そして彼は、
立派な家が建ち並ぶ静かなエリアへ迷い込みます。
ふと、一つの窓が目に入りました。
そこには、美しいドレスをまとった
大人の女性のマリオネットが、静かに佇んでいました。
その背中には――
まだ、糸が光っていました。
男の子は、立ち止まります。
自由とは、何だろう。
つながれていることは、
本当に不幸なのだろうか。
風が吹き、
彼の切れた糸の名残が、静かに揺れました。




