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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第14章:あるいは、私という人間の「異世界の【王】」

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第70部:逆転の咆哮

【幕間:ミノタウロスの狂宴の結末と、異形への変態】


優作の「神託」と「二度目の試練」により、支配層の既得権益者たちを武装させ、ハチの狂宴会場へと向かわせた優作。

その裏側で、会場に潜入していたルカとスズは、ハチとの直接対決へと突入していた。


絶望的な状況の中、ルカはピュティアのサポートと『音子の指輪』の力を覚醒させる。歌声のエネルギーを物理現象に変換する**『音子フォノン・バレット』**を開花させ、不死身のミノタウロス、ハチ・アマルガム・ノックスを初めて膝まづかせることに成功する。ルカの音弾幕と、スズの獰猛な剣技による連携は、狂宴の場を二人の少女の独壇場へと変えようとしていた。


しかし、スズの刃がハチの首を捉えようとしたその刹那、ハチの巨体は骨を砕き、肉を裂きながら爆発的に膨張。ミノタウロスから、さらに背中から新たな四肢を生やし、人間の顔と牛の頭の位置が入れ替わった**冒涜的な『異形』**へと変態した。


戦況は一瞬で逆転。

ルカの音子フォノンが乱れる中、異形となったハチはスズを鷲掴みにする。誇り高き踊り子は、その巨人の股間に位置する牛の頭部の目の前へと無残に運ばれ、醜悪な舌に白い肌を舐められるという、屈辱と絶望の淵に立たされた。


スズの心はへし折られ、ルカの歌声は恐怖で途切れかけた。

地獄の狂宴は、最悪の終焉へと向かう。

「ザリリッ……」


濡れた音と共に、太く長い牛の舌が、スズの股間からへそ、そして剥き出しの乳房へと、下から上へ一気に舐め上げた。


「ひっ……ぁ……!」

スズが屈辱に背中を仰け反らせる。

ザラザラとした舌の突起が柔肌を無遠慮に擦り上げ、大量の生温かい粘液が、彼女の引き締まった太腿と腹部に糸を引いて張り付く。


異形の牛頭は、スズの女性としての尊厳を味わうように鼻を鳴らし、さらに深く、執拗にその剛毛が生えた舌を蠢かせた。鼻息がスズの秘所にかかり、おぞましい熱気が彼女の全身を粟立たせる。


二度、三度と、その冒涜的な舌が動き、スズの全てを穢そうとした、その瞬間だった。


「……大丈夫。奥の手は、とってある」


ピュティアの冷静な声が、絶望に凍りついたルカの脳内に響く。

「ルカ。ハチを狙って。……その『隙』を作るために」


ルカは弾かれたように顔を上げた。

次の瞬間――。


ドォォォォォォォン!!!


会場の側面、厚さ数メートルはある石造りの壁が、まるで紙細工のように内側へと弾け飛んだ。

粉塵が爆風と共に巻き起こり、ハチが驚愕に動きを止める。

土煙の向こうから、地獄の底から響くような、しかし凛とした「お嬢様口調」の怒号が轟いた。


「お待たせしましたわね!!!」


煙を切り裂いて現れた影。

それは、かつてスズと競い合った華奢な犬の亜人ではない。

胸板は丸太のように分厚く、上半身の筋肉は鋼鉄の鎧のように膨れ上がり、衣服を内側から食い破らんばかりの巨体。

「本気」を出した、戦闘種族の王女。ペコであった。


「優作に頭を下げられて来ましたの! そうじゃなくても、加勢してましたわ!」


ペコは地面を蹴った。その一歩で床が砕ける。

「最初から、フルスロットルで行きますわ!!」


「な、なんだ貴様は――!?」

ハチの「人間の顔」が叫ぶ暇もなかった。


「どきなさい、駄牛だうしぃッ!!」


ペコの飛び蹴りが、ハチの巨体の「人間の顔(かつての首の位置)」に深々と突き刺さった。

ゴシャッ!

岩盤を砕くような音と共に、ハチの巨体がくの字に折れ、後方へと吹き飛ぶ。


その衝撃で、拘束が緩んだスズが空中に放り出された。

「スズちゃん!」

ルカが叫ぶより早く、ピュティアのホログラムがスズの落下地点に滑り込む。実体はないが、重力制御フィールドを展開し、スズの体をふわりと受け止めた。

「ハイハイ、重傷だね。すぐ治すよ」

ピュティアの手が光り、スズの裂かれた衣服と皮膚の修復を高速で開始する。


ペコは着地と同時に、吹き飛んだハチへ追撃の構えを取った。

「ピュティア! 今ですわ!」

「了解。総員、退避!」


ピュティアの号令と共に、ペコが壁に開けた巨大な大穴――そこから外の光が差し込んでいる――を指差す。

「あそこから脱出だ! 急げ!」


スズはボロボロの体だったが、ピュティアの応急処置のおかげか、あるいは死地を脱したアドレナリンのせいか、倒れる前よりすこぶる体のキレが良かった。

「ルカ、捕まってろ!」

スズはルカをひょいと抱え上げると、弾丸のような速さで大穴へと疾走した。


壁の外へ飛び出すと、そこは会場を取り囲む広場だった。

しかし、そこには異様な光景が広がっていた。


ずらりと並んだ、数百の兵士たち。

彼らは一様に、弓を引き絞り、投石器に石を装填し、旧時代の遺産である大砲の照準を、崩れた壁の穴に合わせていた。


その兵士たちの列の最前列に、一人の男が立っていた。

泥と煤にまみれ、額に汗を浮かべた優作だった。


震える手で崩れた壁の穴を凝視していた。 「頼む……頼むぞ、ペコ……! スズたちを……!」


その時、煙の中からルカを抱えたスズが飛び出してくるのが見えた。


「スズ……ッ!!」


優作の顔が、ぱあっと輝いた。 全身の力が抜けそうなほどの安堵と、喜び。 優作は思わず一歩踏み出し、両手を広げかけた。 もしかしたら、怖かったと泣きついてきてくれるかもしれない。そんな淡い、あり得ないとは分かっていても捨てきれない期待が、優作の胸を一瞬よぎる。


「優作! 邪魔だ、どいてろ!」


スズは、優作を見てもいなかった。

ルカを守ることだけに集中し、鬼気迫る表情で、優作の横を風のように走り抜けていく。

優作が伸ばしかけた手は、空しく空を切った。


「あ……」


優作は一瞬、寂しげに眉を下げて、スズの背中を見送った。

(……だよな。無事で、よかった)


その切なさを、優作は瞬時に飲み込んだ。

今は感傷に浸っている場合ではない。彼女たちを守らなければならないのだ。

優作は踵を返し、鬼の形相で叫んだ。


「総員、構えェッ!!」

「あの化け物を、一歩も外に出すなッ!! 撃てェェェェェッ!!」


その瞬間、世界が爆音に埋め尽くされた。


ドォォォォォォォン!!


優作の必死の号令と共に、数百本の矢、投石、そして大砲の砲弾が、一斉に崩れた壁の穴――その向こうにいるハチへと吸い込まれていく。

一方的な暴力の嵐。

再生能力が高いとはいえ、物理的に肉片レベルまで吹き飛ばされ続ければ、再生は追いつかない。


「ギャァァァァァァッ!!」

穴の奥から、断末魔ともつかない絶叫が響く。


「まだだ! 手を緩めるな! 弾切れまで撃ち続けろォ!!」 優作は声を枯らして叫び続けた。 スズやルカを二度とあんな目に遭わせない。その一心だけで、彼は指揮を執り続けた。


そして、砲撃が止んだ後、本当の地獄が始まった。


「わたくしの……わたくしのスズに、何をしてくれようとしましたの!?」


ペコが、瓦礫の中で蠢く肉塊に飛びかかった。

そこからは、優作ですら目を背けたくなるような「リンチ」の時間だった。

かつては愛し合い、今でも未練を残す元恋人スズ。その彼女があわや犯されそうになったことへの怒りは、ペコを修羅に変えていた。


殴る、蹴る、引きちぎる。

再生しようとする端から、ペコの剛腕がそれを粉砕する。

それは一昼夜にわたり続いた、私情のみを挟んだ一方的な暴力だった。


***


朝日が昇る頃。

残虐ショーが終わった会場跡地は、完全に瓦礫の山となり、かつての華やかな面影は微塵も残っていなかった。


瓦礫の中央には、ボロ雑巾のようになった「何か」が転がっていた。

異形の肉体は崩壊し、再生のエネルギーも尽き果てたのか、それは元の人間――ハチ・アマルガム・ノックスのサイズに戻っていた。


優作は、ピュティアと共にその死体(あるいは瀕死の体)を入念に調べた。

服は弾け飛び、全裸になっているハチの体。

優作が探していたのは、たった一つ。

全ての元凶である、あの指輪だ。


「……ない」


優作は、ハチの手指を検分し、瓦礫の周辺もくまなく探したが、どこにも見当たらない。

「くそっ……どこだ……!」

優作は焦燥感に駆られ、血まみれの瓦礫を素手で掘り返した。


「おい、ピュティア。スキャンはどうだ」

「反応なし。……おかしいね」


ピュティアも珍しく困惑した声を出す。

「洗脳の指輪マインドコントロール。あれは強力な呪いのアセットだ。装備者が死んでも、そう簡単に消滅したりはしないはずなのに」


優作は、朝日が照らす瓦礫の山を見渡した。

ハチは倒した。狂宴は終わった。

だが、喉に刺さった小骨のような違和感が残る。


こんな強力なアーティファクトが、この世にあっていいはずがない。

誰かが持ち去ったのか、それとも最初から――?


優作は、動かなくなったハチを見下ろし、冷たい風の中で立ち尽くしていた。

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