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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第14章:あるいは、私という人間の「異世界の【王】」

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幕間:空白の期間(優作編)

数日前の夜。


優作たちは、半壊したセントラルシティの中で異様なほど立派な教会に招かれた。

通された客室は豪華で、旧世界の完璧な排水設備すら整っていた。外の瓦礫の山とは別世界だ。


夕食後の広間で、依頼主の神官が訪れた。

彼は、ハチが行政機関を単独で壊滅させたこと、教会内部が「教義絶対派」とハチを神の使いとする「拡大派」に分裂し、多くの兵がハチ側に寝返ったことを震える声で語った。


そして、額を擦り付けて懇願した。「カオスの子、ハチを討伐してください」と。


優作は冷たく問い返した。

「お前たちが実権を握っていた時、亜人種を奴隷にし、同胞すら搾取して贅沢を貪っていた。それが壊されたから助けろと言うのか?」


神官は顔を上げ、狂信的な瞳で反論した。

「贅沢ではありません。『秩序』の維持です。亜人種はただの『カオス(資源)』であり、我々が管理し労働力という『秩序』に変えることで、彼らは初めて役に立つ『部品』になれたのです」


神官は悪びれもせず言い放った。

「あれは搾取ではありません。**『高度なリサイクル(資源の有効活用)』**です」


優作の中で、何かが冷たく凍りついた。

命を資源や部品と呼ぶその論理は、かつて優作をすり減らした工場のシステムそのものだった。


神官は畳み掛ける。

「ハチが食い荒らすのを放置するおつもりですか? ……いつまでも教会でくつろいでいないで、一刻も早く」


「……くつろぐ?」


優作は静かに立ち上がり、無防備な神官へ歩み寄った。

「ヒッ……ゆ、優作さ――?」


ドスッ。


鈍い音が響き、優作のナイフが神官の心臓を正確に貫いた。

神官は驚愕の表情で崩れ落ちる。


「……お前たちは、神の使徒である私が『休息』を取ることを、無駄だと断じるのか?」


血濡れのナイフを下げたまま、優作は凍りつく下級神官たちを見回した。

「神の所作を人の物差しで測り、急かすなど……。それが『信仰』か? それとも保身か?」


その場の全員が、優作の圧倒的な「恐怖」にひれ伏した。主導権は完全に優作のものとなった。


「このゴミ(死体)を片付けておけ。……それと、スズ、ルカ。部屋に戻れ。ここからは俺の指示に従ってもらう」

コハルより、状況報告が入る。

視界共有により、優作の脳内にダイレクトに送られてくる映像――。


それは、かつて「ハチ」と呼ばれた少年が支配する場所だった。


【ハチの城塞:絶対王政の縮図】

パーティー会場となるその建物の構造は異様だった。

それは、円形のコロセウムのような巨大なホールで、一階と二階のフロアが明確に分離されていた。

一階の中央には、支配層のための豪奢なパーティー会場が設えられており、その絢爛さは支配層の退廃を象徴していた。

そして、その光景を二階の円形回廊から見下ろす形になっていたが、その会場を見上げる一階からの視線には、異様で切迫した空気が満ちていた。


建物から離れたウォルフェンスの町中の様子も異様だった。

かつて、町の広場では歌や演奏が響き、子供たちの歓声が上がっていたはずだ。しかし、映像に映る広場は、今は誰もいない。住民たちは外出すら控え、家の中に閉じこもって何かにおびえているようだった。

広場に集う人々の代わりに、互いの窓や戸を厳しく監視する視線だけが存在し、密告が奨励される極限の監視管理社会が形成されていた。もしハチが国王になれば、そこに寛容な統治など微塵も存在しないだろう。


 観衆の前に立つハチの姿があった。彼はバイオリンを弾いている。 その音は、優雅であるはずの旋律とはかけ離れ、観衆への命令そのものだった。ハチは観衆に陶酔した賞賛の声を強要し、わずかでも反抗の意思、あるいは無関心の視線を見せる者は、容赦なく皆殺しにしていた。

その姿は、もはや人間のそれではない。皮膚は硬質な甲殻のように肥大し、四肢は異様に伸び、おとぎ話に出てくる**「ミノタウロス」のような、異形の怪物**へと変貌していた。


その光景を目撃した瞬間、優作の精神は震撼した。

脳裏に焼き付いたのは、あまりにも恐ろしい、**ミノタウロスの「食事風景」**だったからだ。


広間の中心、豪奢な食卓の周りには、一糸まとわぬ女たちが家畜のように並べられていた。

ハチの巨体は、そのうちの一人に覆いかぶさっている。

獣のような荒い息遣いと共に、その腰は無慈悲に打ち付けられる。女の口から漏れるのは、言葉にならない悲鳴と、純粋な絶望だけだ。


だが、ハチの欲望は性欲だけに留まらない。

彼は快楽に歪んだ顔のまま、犯している女の柔らかな肩口に、躊躇なくその巨大な牙を突き立てた。

肉が裂け、鮮血が噴き出す。

女が生きたまま痙攣し、断末魔を上げるその瞬間こそが、彼にとっての最高のスパイスであるかのように、ハチは咀嚼し、喉を鳴らして肉を嚥下した。


犯し、喰らい、そしてまた次の獲物へ手を伸ばす。

その所業には、人間的な倫理など欠片もない。ただ、膨れ上がった本能と、歪んだ美学があるだけだった。


(……これが、お前の憧れだったのか?)

ハチがかつて目を輝かせて語った、追い求めた「マエストロ」の像。

その成れの果てが、こんなにも醜悪な、欲望の汚泥に塗れた怪物だったとは。


(……とりあえず、ハチを討とう)

優作の中で、迷いが完全に消え失せた。

どうしたいのか。自問するまでもない。

この状況を変える「権限」と「力」が、今の俺にはあるはずだ。

奴らの宗教というシステムに組み込まれることなく、俺自身のやり方で終わらせる。


(もう、誰かを見殺しにはしない。ゲオルグ戦のようなへまはしない)

泥臭い戦いは終わりだ。

圧倒的な火力で、最小限の被害で、勝利を得る。

優作は、支配者層が集まり、最も警戒が解かれるであろう「パーティー会場」を狙うことに定めた。

全員、薙ぎ払う。


【シーン:使徒の演説と「二度目の試練」】


作戦の前提として、このヘスティア教の汚泥に、スズやルカを関わらせたくはなかった。こんなドロドロとした醜悪な現実を、彼女たちに見せたくない。


優作は、神官や商人など、既得権益者が一同に集まった会場へ踏み込んだ。

呆然とする彼らの前で、優作は冷徹に言い放つ。


「我はヘスティアの使徒なり」

その声は、会場のざわめきを一瞬で凍り付かせた。


「汝らの行いに、ヘスティアは深く失望し、再びこのセントラルシティに使徒を遣わせた!」

「お前たちの教義は、ヘスティアの意向を曲解し、九つの大罪を犯した!! 先のゲオルグとの大戦を忘れたのか!」


優作は彼らを指弾する。

「お前たちは行動を改めるどころか、セントラルシティの復旧を遅らせ、奴隷貿易を活発化させ、あまつさえ天をも制するほどの権威を振りかざした」

「一度目はチャンスを与えたが、二度目は許されない!!」


恐怖に震える支配層を見下ろし、優作は残酷な「救済」を提示した。


「しかし、ヘスティアより『カオスのハチ』の討伐の命を受けたこの魔術の使徒が、そなたら民衆の願いに応えよう」

「そこで、お前たちに『二度目の試練』を与える!」


優作は声を張り上げる。

「武器を取れ! 今まで人の後ろで支配していた愚かな者どもよ、武器を集めよ! その行動で神に命を捧げ、許しを請うのだ!!」


反対や不平を言う者は、一人もいなかった。

それは神の使徒直々の命令であり、逆らうことは死を意味するからだ。


【イレギュラーと戦力分析】


パーティー前日。

コハルから、ルカとスズに関する状況報告が入った。

彼女たちは、すでに動いていた。

慌てて止めようとも考えたが、準備は既に完了しており、もう止まらないだろう。

不本意だが、それならば利用させてもらうしかない。


(大丈夫。こっちにはコハルと、ピュティアがいる)

優作はピュティアに、ハチの戦力分析を命じた。


『……分析、完了だよ。兵は王の警護につくけど、少ない。兵のこと、気にする必要はないよ』

ピュティアの報告は冷静だが、絶望的な予測を含んでいた。


『だけど、ターゲットの「ハチ」の戦闘能力は、絶望的だよ。異次元の力って言っていいくらい』

『もし、スズとルカが捕まっちゃうようなことになったら、ボクらには助け出す手段がないよ』


俺は部屋で、ピュティアに告げた。 「ピュティア、ペコを探し出せ。この状況をひっくり返すには、あいつの武力が必要だ」


「わかった。生体反応をスキャン……見つけたよ」


武者修行の旅に出ていたペコの姿だった。 彼女はちょうど、野盗に襲われていた行商人を救出したところらしく、逃げ遅れた野盗のリーダーを一方的にボコボコに殴りつけている最中だった。


拳を振り上げたペコの目の前に、ピュティアのホログラムが出現する。


『大変だよ、ペコ! スズが危ないんだ! 助けてあげて!』


ペコはピクリと動きを止めた。 『……なんですの、藪から棒に。ピュティアですわね?』


『優作からの緊急要請だよ。ハチが暴走して、スズたちが会場に閉じ込められちゃうかもしれない。……助け出せるのは、ペコだけなんだ』


ペコは、掴んでいた野盗の首根っこを離し、ゴミのように投げ捨てた。 その表情から、戯れの色が消える。


『スズが……危険?』


『ええ。当日、優作の合図に合わせて、会場の壁を外からぶち抜いてほしいの。……距離があるけど、間に合う?』


ペコは、鼻を鳴らして笑った。 『愚問ですわ! スズの危機とあらば、地獄の果てからでも飛んでいきますわ!』


ペコは地面を蹴った。 その爆発的な脚力は、野盗たちを置き去りにし、砂煙を上げてウォルフェンスへと疾走を始めた。


パーティ-当日


ピュティアに、次なる一手(切り札)を命じた。 「ピュティア。ウォルフェンスの兵士たちは狂信者だ。まともに説得しても動かない」


「だから、」 俺は冷徹に指示を出した。 「お前の声で、兵士たちの**脳に直接『神託』**を告げるんだ。『神の使徒がこれから関所を通る。通せ』と」


ピュティアはニヤリと笑った。 「……ひどい手だね。でも、合理的だよ。わかった、脳みそごとハッキングしちゃう」


ピュティアが電脳空間へダイブすると、ウォルフェンスの警備システムの灯りが明滅した。

その瞬間、門前で待機する兵士たち全員の頭蓋内へ、ピュティアの加工された「神の声」が直接響き渡った。


『――告げる。神の使徒、優作がこれより関所を通る』

『これはヘスティアの意思である。汝ら、道を空けよ』


兵士たちは顔を見合わせ、そして一斉に跪いた。 恐怖と信仰心。それらをハッキングで増幅された彼らに、抗う術はない。。


その直後、ウォルフェンスの関所のゲートが、ゆっくりと、しかし確かな金属音を立てて開く。

そこを最初にくぐったのは、優作の背後に控える武装した兵士たちの集団だった。

彼らは優作が放った「武器を取れ」の指示に従った既得権益者たち――慣れない手つきながらも、強奪してきた剣や火器を握りしめた、異様な集団だ。

その中央で、優作はピュティアとコハルを伴い、まるで軍の指揮官のように悠然と歩を進めた。


厳重な警備が敷かれた関所も、兵士たちは俺を見るなり敬礼し、無言でゲートを開けた。


「神官はいない。ここからは私が指揮を執る!」


俺は、ハッタリと、事前の計算による裏付けで、数百の兵士の前に立った。 彼らの背後には、街を守るために配備された大砲が、黒々と口を開けていた。


地獄の釜の蓋は、俺が開ける。染め上げた。

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