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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第13章:あるいは、私という人間の「異世界の【桃源郷】

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第64部:新国王の誕生と消えない依頼書

地底世界に存在する湯治場、『桃源郷』。 巨大な地下空洞を利用したこの場所は、人工天蓋に描かれた「偽りの青空」と、絶えず湧き出る温泉の湯けむりに包まれ、外界の退廃から切り離されたような穏やかな空気が流れていた。


しかし、そのかりそめの平穏は、一夜にして砕け散った。


翌朝。優作たちが宿の食堂へ降りると、そこは異様な喧噪に包まれていた。

宿泊客たちが掲示板の前に群がり、口々に何かを叫んでいる。


「……どうなってるんだ、これは!」

「あの賞金首が……国王だと!?」


優作は、人混みを強引にかき分けて掲示板の前に立った。

そこには、昨日まで貼られていた『ハチの指名手配書』は跡形もなく消え去っていた。代わりに、豪華な金枠で飾られた『新国家樹立記念パーティー』の告知が、威圧的に貼り出されている。


【新国王ハチ陛下、万歳!旧体制の腐敗は一掃された。力こそが正義である】


「……国家転覆が、成功しただと……?」


優作は、その信じがたい現実を前に、息を呑んだ。

あの時、俺たちが見捨てて逃げた「災害」は、単なる反乱分子として鎮圧されるどころか、国家そのものを転覆させ、新たな支配者として君臨したのだ。その背後にある、化け物じみた「力」と、理性を失った「狂気」を想像し、優作の背筋に冷たいものが走る。


ルカは、元仲間であるハチの暴挙に言葉を失っている。優作は知っている。あれはもう、言葉の通じない怪物だ。


「指名手配が消え、懸賞金は無意味になったな。……優作」


スズの声は冷静だった。彼女の指差す先には、ハチの派手な告知の隣に、依然として剥がされずに残る、一枚の古びた紙があった。


【情報提供依頼】


人物:ユ・ウ・サ・ク なる人物の情報求む。


特徴:異界のごとき服装、四十代男性


有力情報:金貨 五〇枚


優作が、掲示板の依頼書に貼られた紙の情報を確認した、その瞬間だった。


優作たちが宿屋に戻るや否や、神官たち数名がなだれ込んできた。彼らは優作の姿を見つけるなり、わっと涙を流しながら歓喜の声を上げ、優作一行を否応なしに連行していく。


連行された先は、桃源郷の奥まった場所にある、一際豪奢な建物を教会として使っている小さな建物だった。


パート2:狂信的な「願い」の引受


優作たちが連れ込まれたその場所で、神官たちは一様に頭を下げ、地面に額を擦り付けるように平伏する。地面に伏しながら、彼らは声を震わせて優作に訴えた。


「お助け下さい!」


それは「依頼」や「交渉」の態度ではない。

絶対的な存在に対する、全身全霊の「服従」と「哀願」だった。


「やはり、生きておられたか……! ゲオルグという悪魔を退けた、我らが希望、神の使い……ユウサク様!」


神官は、泥に額を擦り付けながら、涙を流して叫んだ。


優作は、ここでやんわりと断ろうと試みる。


「おまえの国で起きたことは、おまえたちで解決するのが道理ではないのか? よその世界のものが、勝手に世界をただすなどできるわけないだろう」


スズが間髪入れずに言葉を継ぐ。 「たしかに、戦力もわからない。何考えているかわからない者と、戦えない」


優作は、スズが自分の意図を理解せず、「戦力不足」というロジックで断ろうとしているのを感じた。(まずい。話の流れがそれ始めている……) 優作は軌道修正し、やんわりと否定する言葉を選んだ。


「神が、そうやすやすと奇跡を見せるわけなかろう。試練は乗り越えるから与えるものだと、いうのが道理ではないか」


「そうだぞ、戦略が大事だ! 相手の戦略は、おそらく多くの兵がハチ側についたんだろう? 奇跡のような兵器が必要だ!」

スズは戦と聞いて理性が飛び、強敵を求めている。優作は内心、焦りを覚えた。(止められない……)


ルカが不安そうな顔で優作を見つめる。

「ルカも、争いは嫌だよな。多くの人が死ぬんだ」優作はルカに助けを求める。

「かわいそうだよ。たすけてあげないと」しかし、ルカの答えは優作の期待と真逆だった。


(まずい。こはる……) 優作の足元で、コハル(狐)がじゃれついている。(だめだ、狐になって俺の足にじゃれついている……)


しかし、狂信的な神官たちにとって、優作の言葉は全て「試練」か「神託」にしか聞こえない。彼らは優作の足を抱きしめ、さらに哀願を強めた。


優作は、背筋に冷たいものを感じながらも、あえて尊大な態度をとった。かつて「神」を演じた時のように、この狂信を利用するために。


「……頭を上げろ。話は分かった」


優作は、神官を見下ろして言った。


「俺が、その『悪魔』を裁いてやる。……だが、俺のやり方に口出しはさせんぞ」


「もちろんです! 神の御心のままに!」神官は涙ぐんで縋り付いた。「さあ、こちらへ! 王都への『裏道』を用意してあります!」


こうして、優作一行は狂信的な神官たちの手引きにより、新国王ハチが支配するセントラルシティへと連行されていった。

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