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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第10章:あるいは、私という人間の「異世界の【素晴らしき「野蛮」な世界】」

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第49部:崩れゆく秩序の夜

王都の地下水道。 ここを仮の宿とする優作たちは、地上から持ち帰った地図と警備配置図を広げ、最後の作戦会議を行っていた。


「……いいか、目的は『殺人』じゃない。『威信の破壊』だ」 優作は、蝋燭の明かりに照らされた地図上の三箇所を指差した。 「民衆を敵に回すな。ライフライン(水や食料)には手を出すな。狙うのは、宰相ヴォルフガングが築き上げた『管理社会の象徴』だけだ」


優作の指示は、冷徹かつ具体的だった。 スズには「武力の無力化」。 ルカには「行政の混乱」。 そしてペコには「物理的な障壁の粉砕」。


「派手にやれ。……この国の『完璧な秩序』が、いかに脆いかを見せつけてやるんだ」


深夜。作戦が開始された。


【第一撃:スズの「兵器庫」襲撃】


スズは、保管庫の重い扉を音もなく開け放った。 そこには、宰相が国費を投じて揃えた**「最新式の長剣」や、「重装歩兵用の全身鎧」が、壁一面に整然と並べられていた。 どれもが規格統一された工業製品だ。個人の技量や体格に合わせるのではなく、誰が着ても同じ防御力を得られるように作られた、魂のない鉄塊。


スズは、陳列された長剣を一本手に取った。 「……こんな鉄屑に頼るから、お前らは弱くなるんだよ」


バキィッ!!


スズは、剣の刀身を、己の膝を使ってへし折った。 鍛え上げられた鋼鉄が悲鳴を上げ、使い物にならないガラクタへと変わる。 一本では終わらない。彼女は、まるで薪でも割るような手つきで、次々と武器を掴んではへし折り、分厚い鉄板の鎧を踏み潰していく。 それは破壊工作というより、戦士としての矜持を持たない道具への、侮蔑的な処刑だった。


一通り破壊し尽くすと、スズは懐から火種を取り出した。 「……燃えちまえ」 備蓄されていた黒色火薬の樽に火を放つ。 爆発的な炎が燃え広がった。


【第二撃:ルカの「税務署」潜入】


王都の中央、行政区。 ルカは、その小さな体を活かし、厳重な警備が敷かれた「中央税務局」の通気口を這い進んでいた。 「(……うわ、埃っぽい。でも、ここなら誰も気づかない)」


彼女のターゲットは、地下の書庫。 そこには、宰相が民衆から徴収する重税の記録や、国民を管理するための膨大な「登録書類」が保管されている。 民衆にとって、最も憎むべき「鎖」の象徴だ。


書庫に降り立ったルカは、棚に並ぶ書類の山を見て、ニヤリと笑った。 「優作の言った通りだ。『紙切れ一枚で人を縛るなんて、燃やせば終わりだ』ってね」


ルカは、持参した油を書類の山にたっぷりと撒いた。 そして、マッチを擦る。 「バイバイ、嫌なルールたち」


火は瞬く間に紙を舐め、天井まで届く紅蓮の炎となった。 建物からは黒煙が上がり、駆けつけた役人たちが「書類が! 名簿が!」と悲鳴を上げて逃げ惑う。 民衆を苦しめる「記録」が灰になる光景は、翌朝、多くの人々に密かな留飲を下げさせることになるだろう。


【第三撃:ペコの「貴族街」突破】


そして、混乱が極まった王都の北、貴族街の入り口。 平民の立ち入りを拒む、巨大で堅牢な「石造りの大門」の前に、一人の女が立っていた。


「ヒャハハ! 邪魔ですわ! こんな壁で、王の道が塞げるとでも!?」


ペコが、助走をつける。 狙うのは、門を支える巨大な石柱。 踏み込みと共に、石畳が陥没する。


「開けゴマ、ですわーーッ!!」


ドゴォッ!!


渾身の回し蹴りが、石柱に直撃した。 物理法則を無視したかのような衝撃音が響き、強固なはずの石材に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。 次の瞬間、支柱は内側から爆ぜるように砕け散った。


支えを失った巨大なアーチが、悲鳴のような軋みを上げ、ゆっくりと、しかし確実に崩壊していく。


ズズズ……ドゴォォン!!


轟音と共に「貴族と平民を隔てる壁」が瓦礫の山と化した。 土煙の中から、ペコが悠然と現れる。


「これが貴様らの誇る『秩序(壁)』ですの!? ……風通しが良くなって、清々しいですわね!」


***


夜が明ける頃には、王都はかつてない混乱に包まれていた。


武器を失った軍隊。 記録を失った役人。 そして、権威の壁を粉砕された貴族たち。


物理的な被害そのものよりも深刻だったのは、宰相ヴォルフガングが長い時間をかけて築き上げてきた「完璧な管理体制」という幻想が、たった一夜の暴力で脆くも崩れ去ったという事実だった。


翌朝。 焦げ臭い匂いが残る「兵器庫」の跡地に、宰相ヴォルフガングの姿があった。 彼は、瓦礫の中に散らばる「へし折られた剣」を拾い上げた。 爆発ではない。何らかの道具による破壊でもない。 これは、徒手空拳による、純粋な「暴力」の痕跡だ。


ヴォルフガングの脳裏に、封印していた記憶が鮮烈に蘇った。


雨の降る処刑場。 命乞いをする自分。 冷酷に斧を振り下ろすペコ。 そして――その傍らで、息子の首が飛ぶ様を、ただ退屈そうに見下ろしていた、あの**「異国のスズ」**の冷たい目。


「……あぁ……ああああ……ッ!!」


ヴォルフガングの手から、折れた剣が滑り落ちる。 能面のような宰相の顔が崩れ、子を殺された父親の、どす黒い怨嗟が溢れ出した。


「貴様か……! 帰ってきたのか、あの『狂犬』と共に……!」




一方の市街地では


「見たか? あの貴族街の門が、粉々だぞ」 「税務署の書類も、全部燃えちまったらしい」 「おいおい、それじゃあ今年の重税はどうなるんだ?」 「払わなくていいってことか!? ……へっ、ざまあみろだ!」


抑圧されていた不満が、破壊のカタルシスと共に噴出する。 そして、その破壊をもたらした張本人への評価も、一夜にして変質していた。


「……やっぱり、ペコ様は本物の『怪物』だ」 「あんなデタラメな芸当、今の兵隊たちにできるか? いや、できねえ」 「俺たちの王は、狂犬だが……少なくとも、俺たちみたいに牙を抜かれた『飼い犬』じゃなかったってことさ」


恐怖と、畏怖。 その原始的な感情が、管理された理性を凌駕し始めていた。


地下水道の隠れ家で、優作はその混乱の音を聞いていた。 計画通りだ。 これで、宰相は動かざるを得ない。自らの「力」で秩序を取り戻さなければ、求心力を失うからだ。


「……さあ、出てこいヴォルフガング」 優作は、暗闇の中で静かに呟いた。 「お前の『正義』の化けの皮……俺たちが剥がしてやる」

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