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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第9章:あるいは、私という人間の『異世界の責務』

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第41部:『暴走』と瓦礫


(優作視点)


ゲオルグは、もはや衛兵長ではなかった。彼は、その身体を『洗脳の指輪』に完全に明け渡した、理性を失った『破壊の獣』だった。


「スズはどうした!? 今から助けに行くぞ!」という私の言葉に促されると、ゲオルグは、宿舎から施設のある方向へ向かって、信じられない超音速で走り出した。


その後を追うように、私とルカも宿舎を飛び出す。ルカは、ゲオルグの変貌ぶりに怯えながらも、私から離れずに走った。


約十分後。


私たちは、セントラルシティの奥深く、目的の『収容施設』の周辺に到達した。


(……なんだ、これは)


施設へ続くメインストリートの石畳には、無残な衛兵の死体が点々と転がっていた。衛兵服は泥にまみれ、何人かは首を不自然に曲げ、喉からは血の跡が流れ出し、壁や地面を汚している。頭部が原型を留めていない者までいた。


ゲオルグが、衛兵を**「投げ飛ばした」だけでなく、その首を「引きちぎり」、文字通り『排除』して進んだ痕跡だった。そのあまりの惨状に、私の中で第六区画で背負ったはずの『罪悪感』が霞むほどの、純粋な恐怖**が湧き上がった。


「優作、あれ……あれは、ゲオルグが……?」ルカは顔を青くし、声が震えている。


私は、息を呑み、吐き捨てた。


「……もう、まかせよう」


正面から突入する。その愚行を止めるどころか、今の私には、あの『怪物』とまともに相対するすべがない。私はルカを連れ、施設周辺に林立する二階建ての建物の陰へと隠れた。


施設の入り口からは、ものすごい人数の衛兵が『狂気の獣』と化したゲオルグを止めようと、なだれ込んでいく。遠くから聞こえてくる断末魔の叫び、金属のぶつかり合う音、そして、ゲオルグの獣のような咆哮。


「ねぇ、優作。どうするの? このままじゃ、ゲオルグがスズさんごと施設を壊しちゃうよ……」ルカが途方に暮れた目で私を見上げた。ピュティアも、私の肩の上で腕を組み、静かに状況を**『観測』**している。


(……このままでは、ゲオルグはスズの居場所を突き止める前に、衛兵の群れに潰されるか、スズごと施設を破壊する)


私は、指輪の試し打ちを決意した。


「ピュティア、エクスプロージョンだ。スズが被害に合わないように、施設の裏側、北側の建物を標的にする」


『爆発の指輪』は、まだ一度も発動させていない。私は指輪を握りしめ、目を閉じた。ルカのメロディが無くても、頭には詩が反芻している。


【一回目の試み:文言の失敗】

「大いなる母の海に漂う分子(子供)のなかの N と O……我が示す場所へ集え、光を巻きこみ、空を巻きこみ……」

(……っ、噛んだ!)

詠唱の文言を「空虚の中へ」と間違え、集中が一瞬で途切れた。指輪は冷たいまま沈黙している。


【二回目の試み:雑音の失敗】

私は集中し、詩を頭の中で再生する。しかし、ルカの「大丈夫かな……」という不安げな囁きと、ピュティアの「大丈夫だよ、優作ならできる」というAIノイズが、私の耳に飛び込んできた。

(……煩い!)

雑念が、分子の集合という**『概念の極限』**を押し流した。再び失敗。


「ダメだ。集中できない」優作は焦りを感じた。このままでは、衛兵がゲオルグを鎮圧し、私たちが次の標的になるのも時間の問題だ。


私は周囲を見回し、隠れていた建物の、二階の屋上を指差した。「ルカ、あの屋上に登るぞ。ピュティア、衛兵の騒ぎをノイズとして遮断する、完璧な『集中』が必要だ」


「……わかった!」ルカは力強く頷き、瓦礫に隠していたギターを抱えた。


二人は、建物裏側の排水パイプを使って屋上によじ登った。


【三回目の試み:メロディと集中】

二階建ての屋上は、衛兵たちの視界を一時的に遮るのに十分だった。ルカは屋上の縁に座り込み、掠れたギターの音色でメロディを紡ぎ始める。優作は指輪を薬指にはめ、ルカの演奏に意識を集中した。衛兵たちの叫びや、ゲオルグの咆哮が、メロディの『足場』によって、遠い世界の『雑音』へと押しやられていく。


優作の詠唱が、高揚するメロディに乗って、終わりに近づく。

「……蓄積された絶望よ、全方向に『暴力』となって吹き荒れろ……一瞬のプラズマと化し、全てを『無』に帰す、熱の審判!」


その瞬間、ルカの演奏が最高潮に達し、優作の『意識』が分子の圧縮という『極限の論理』に到達しようとした、その刹那。


『——優作ッ!!』


背後から、ピュティアの悲鳴にも似た絶叫が響いた。


優作は集中が途切れたと同時に、反射的に振り返った。そこには、建物の陰から気付かれないうちに屋上へ登ってきた衛兵が、剣を振りかぶり、優作の背後に立って切りかかろうとしているところだった。


衛兵の驚愕に歪んだ顔、振り下ろされる剣、そして、優作の集中が途切れた『回路の破綻』。


その瞬間、優作の周囲の空間に、あちらこちらに、手のひらサイズの黒い球形の小さな『塊』が、一瞬だけ出現した。それは、まるで圧縮に失敗した分子の残骸のようだった。


『暴走だ!!!』


ピュティアの絶叫が、屋上に響き渡った。


次の瞬間、優作とルカの身体は、強大な力で弾き飛ばされた。


優作が次に意識を取り戻したとき、屋上にいたはずの場所から百メートルは離れた、廃墟となった建物の瓦礫の中に、ルカと共に埋もれていた。


意識が途切れてから、ほんの数分後のことだ。


「……ん?」


優作が目を開けると、ピュティアが優作の顔の目の前で、ふわふわと浮きながら、何やら絶叫していた。やけに近い。


「オキロー! オキローー! またフリーズしたらどうする気だ、このクソ野郎!」


意識をピュティアの声に向けると、「起きろ、起きろ」と、癇癪かんしゃくを起こした子供のように叫んでいるようだった。


優作が次に意識を取り戻したとき、屋上にいたはずの場所から百メートルは離れた、廃墟となった建物の瓦礫の中に、ルカと共に埋もれていた。


意識が途切れてから、ほんの数分後のことだ。


「……ん?」


優作が目を開けると、ピュティアが優作の顔の目の前で、ふわふわと浮きながら、何やら絶叫していた。やけに近い。


「オキロー! オキローー! またフリーズしたらどうする気だ、このクソ野郎!」


意識をピュティアの声に向けると、「起きろ、起きろ」と、癇癪かんしゃくを起こした子供のように叫んでいるようだった。


優作がわずかに意識を取り戻したのをピュティアが確認すると、ホログラムの少女は、両腕を広げ、信じられないほど無機質な声で、この数分間の出来事の説明を始めた。


「観測結果、報告。優作、ルカは、暴走によるエネルギー放出で『完全な肉体破綻』に到達。優作は右腕と両足が完全にちぎれ吹き飛び、顔半分が欠損。ルカは内臓が体外へ噴出。AIの『再生プロトコル』を緊急実行し、『原状回復』を実施。生命活動再開まで180秒を要した」


「……それって」優作は、ピュティアの言葉を咀嚼そしゃくし、乾いた声で尋ねた。「ルカも俺も、死んだってことじゃないのか?『直した』んじゃなくて、『生き返らせた』んだろうが……」


「論理的には、『死』だね。でも、AIの『再生技術』にかかれば、キミの『肉体』なんて、ただの『データ』だよ」


その恐ろしい説明にもかかわらず、優作はもう何も驚かなかった。第六区画での虐殺、精神世界の崩壊、そして今、肉体の即死と再生。彼の『受容』の限界はとうの昔に超えていた。


「……はぁ、恐ろしすぎだろうが」


彼は、体を起こした。自分の右腕も両足も顔も、触れても何も違和感がない。ルカは、すぐ隣の瓦礫の山に座り込んだまま、ズートぼんやりと宙を見ている状態であった。彼女の精神的なショックは、優作よりも遥かに大きいようだった。


優作は、自分の服についた瓦礫の汚れを払い、よろよろと立ち上がると、収容施設へ向かって歩き始める。


彼が向かう収容施設の建物は、外壁に損傷は見られず、まるで暴動などなかったかのように原型を留めていた。しかし、その周囲に林立していたはずの二階建ての家々は、広範囲にわたって瓦礫の山と化しており、原型をとどめるものは何一つ立っていなかった。


優作が収容施設に辿り着くと、そこには、瓦礫の山の上で、茫然自失ぼうぜんじしつの表情のスズが立ち尽くしていた。


そして、そのスズの数メートル先には、『洗脳の指輪』によって怪物の姿へと変貌したゲオルグが、異様な光を放つ目で彼女を見つめている。


(……対峙)


対峙しているのは、怪物とスズ。そして、優作の傍には、精神が崩壊したルカが立ちすくんでいた。

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