第39部:『点』の収縮と、地獄の窯
(スズ視点)
「ズドン!!」
二発目の爆発音は、一発目とは比べ物にならないほど、近くで炸裂した。
鼓膜が破れるような甲高い『キーン』という耳鳴りが、私の意識を白く塗りつぶす。直後、凄まじい爆風が室内の空気を容赦なく引き裂き、私は、抱き合っていたペコごと、部屋の隅の壁に叩きつけられた。
瓦礫の山に埋もれ、一瞬、意識が遠のいた。
(……く、そ……!)
私は、即座に意識を取り戻し、一瞬でも気が緩んだ自分自身を心底恥じた。
(優作のやろう……!!)
額から熱い血が流れているのを感じたが、幸運にもそれ以上の深手を負った様子はなかった。私はすぐに、ペコの体を抱え起こしながら、瓦礫の山から立ち上がる。
辺りを見渡せば、そこは地獄絵図だった。部屋の天井と廊下の壁は派手に崩落し、崩れた瓦礫の隙間からは、炎が勢いよく噴き出している。
「ハッハッハ! スズ! 安心しろ! 俺が助けに来たぞ!」
瓦礫の山の中央で、狂気じみた笑顔が揺らめいた。
ゲオルグだ。彼は上半身裸で、胸には深い矢傷が何本も走っているにもかかわらず、その血まみれの体で重い瓦礫を軽々とよけている。その顔は、喜びと執着に満ちていたが、私にとってはその「俺の女」という勝手な決めつけが、ただただ気持ち悪かった。
「(……今は、利用するしかない)」
私は、瓦礫からペコを救い出し、ゲオルグの力を借りてこの崩壊した施設から脱出する道を選ぶ。助けを断るという選択肢は、今の私にはなかった。
私が促されるままに、崩壊した通路を駆け抜けると、施設のエントランスホールはすでに混乱の極みだった。大勢の奴隷たちが、炎と煙の中を出口目指して殺到している。しかし、施設の入り口に陣取る100名を超える衛兵たちは、逃亡奴隷を顧みることもなく、代わりにゲオルグただ一人を待ち構えていた。彼らは統制の取れた軍隊であり、ゲオルグを討つために鉄壁の陣形を組んでいた。
衛兵隊の弓矢が、私たちに向けられた、その瞬間だった。
軍隊の、まさにその先頭に、小さい、球形の『空間』が突如として出現した。
それは、ピンポン玉ほどの大きさだったが、そこに存在するだけで周囲の光を歪ませていた。衛兵たちはその不気味な現象に一瞬足を止め、弓矢の向きを変えかけた。
球形の空間は、一瞬だけ目を見張るほど大きく膨張したかと思うと、次の瞬間、一点の『闇』になるほど急激に収縮した。
空間が完全に消滅した後、そこに立っていた衛兵隊の姿は、もはや人間のそれではなかった。
爆心地に近かった兵士たちは、足が飛び、腕がちぎれ、黒焦げの頭のない胴体が無造作に転がっている。内臓が散乱し、転がった頭部の目だけが、恐怖に見開かれたままこちらを見ていた。
その凄惨な様相は、まるで地獄の窯の蓋が開いたようだった。
「(……な、んだ……これ……)」
今まで冷徹な『計画』を遂行してきた私でさえ、その甘い厚遇の空間と、眼前の凄惨な現実とのギャップに、理解が追いつかず、ショックを受けて立ち尽くした。
この時点で、もう状況は完全にカオスだった




