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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第9章:あるいは、私という人間の『異世界の責務』

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第37部:『中継都市』と『潜入』

村を出てから、どれほどの時間が経っただろうか。

『小型竜』での移動は、徒歩に比べれば圧倒的に速かったが、それでも地底の荒野はどこまでも続いていた。


やがて、視界の先に、これまで見たどの集落よりも巨大な『光』の集合体が見えてきた。

『セントラルシティ』の手前にある、大規模な『境界都市きょうかいとしリンボ」』だ。


「(……すげえ……)」

ルカが、その活気に気圧されたように呟いた。

辺境(優作たちの村)と『セントラルシティ』を結ぶ物流の拠点らしく、酒場や宿屋が立ち並び、様々な人種(地底人)で溢れかえっている。


三人は『小型竜』を宿の獣舎に預け、情報収集を開始した。

だが、そこで判明した事実は、優作を絶望させるのに十分だった。


「(……『ヘスティアに認められた者だけ』が入れる、選民思想の都市、か……)」

酒場で得た情報を反芻し、優作は吐き捨てた。

正規の入市許可証を得るには、莫大な金か、あるいは『貴族』の推薦状が必要らしい。辺境の民である俺たちには、絶望的に困難だ。


「(……どうする、優作。これじゃ入れないぞ)」

ルカが不安そうに言う。

「(……とにかく、目立つな。俺たちはただの旅人だ。潜入ルートを探る)」

優作がそう指示した時、スズが静かに立ち上がった。


「(……私は、別の『情報』を集めてくる)」 「(……は?)」 優作が聞き返す間もなく、スズはそう言い残し、宿屋の雑踏の中へと一人で姿を消した。 優作は、スズのその言葉の『本当の意味』を正確に察し、こめかみを押さえた。 (……あいつ、またかよ……) 「次の町の男も楽しみだ」と宣言していた、あのドライな横顔が蘇る。


スズが姿を消してから、数日が経過した。 優作は、宿屋の一室で焦りを募らせていた。 「(……クソッ、情報が集まらん……)」


情報収集は、優作が一人で担うしかなかった。 ルカは、この『境界都市リンボ』が、彼女にとって生まれて初めて経験する『人混み』であり、その喧騒と人の多さに完全に気圧され、宿屋から一歩も出たがらない様子だった。 「(……悪い、ユウサク。……なんか、人が多すぎて……頭がクラクラする……)」 そう言って、彼女は宿屋の一室にこもり、ピュティアと製作していた『手作りギター(弦楽器)』の演奏に夢中になっていた。


ピュティアもピュティアで、「(ルカの『音楽データ』の揺らぎは、ボクにとって非常に重要な観測対象なんだ!)」と宣言し、ルカの演奏につきっきりで、そばを離れる様子はなかった。


「(……どいつもこいつも、自由すぎるだろ……)」 優作は悪態をつきながら、情報収集の定石である『酒場』へと一人で向かった。


酒場は、辺境の村とは比べ物にならないほど広く、活気に満ちていた。 優作は、カウンターの隅で、この町で初めて口にする『酒』を注文した。 それは、芳醇な『果実』を蜜に漬け、発酵させた酒らしかった。ほのかに感じる甘みと、鼻に抜ける芳香な匂いが、荒んだ優作の心をわずかに潤す。 「(……悪くない。……こいつは、当たりだ)」


その時だった。 ガヤガヤとした酒場の入り口から、ひときわ大きな声が響いた。 昼間だというのに、町の『近衛兵』たちの一団が、ずかずかと酒場に入ってきたのだ。 その中心には、一際態度の大きい、横柄な男(リーダー格)がいた。彼らは、些細なことから店主に因縁をつけ、威圧的に詰め寄っている。


(……最悪だ。関わらないようにしないと……) 優作が目をそらそうとした瞬間、その近衛兵たちの輪の中にいる『女性』に気づき、息を呑んだ。 スズだった。


スズは、あの『リーダー格の近衛兵』の隣に座り、まるで旧知の仲のように、楽しそうに彼らと談笑している。 スズが、ふと優作の視線に気づいた。 だが、彼女は、優作に目配せするでもなく、フイと目をそらし、再び近衛兵との談笑に戻った。 ……あからさまに、無視された。


「(……ああ、そうかよ)」 優作は、その態度で全てを察した。 (……スズなりに『情報収集ハニートラップ』の最中なんだろう。……邪魔しないようにしよう) 優作は、罰が悪くなり、飲みかけの酒の代金をカウンターに置くと、争いを避けるように、こっそりとその場を離れた。


宿屋に戻ると、ルカの『ギター演奏』が、数日前とは比べ物にならないほど上達していた。 彼女は、ピュティアの調律(あるいは伴奏)に合わせ、速いテンポの、どこか楽しげなメロディーで、故郷コンテナツリーの歌をうたっていた。


その翌日だった。 優作とルカが、宿屋の一室にいると、スズがふらりと戻ってきた。 その首筋には、あの酒場で見た時よりもさらに豪華な『首飾り』が下がっていた。


「(……報告)」 スズは、まるで任務報告のように、淡々と切り出した。 「(この町は『悪徳商人』が支配している。町の『衛兵隊長(あのリーダー格の男だ)』と『親しく』なって、聞き出した)」


「(……お前、本当にやったのか……)」

優作は、その『成果』に頭痛を覚えた。

「(あの男(隊長)は、そこそこ強かった。……だが、もう飽きた)」


スズの『報告』は、核心に触れた。

「(この町は『人身売買』が横行している。商品は『セントラルシティの貴族』に送られる、と。……どうやら、これが『神に認められる』ための、唯一の正規ルートらしい)」

「(……なんだと?)」


まさにその時だった。

宿屋の表が、急に騒がしくなった。

窓から見下ろすと、町の衛兵たち――その中心には、スズが『飽きた』と言った、あの『衛兵隊長』の姿もあった――が、この宿屋の主人に詰め寄っていた。


「今月分の上納金が足りないだと? ならば、お前の『娘』を差し出せ! ちょうど『貴族』様への商品が一つ足りなかったところだ!」

宿屋の娘(18歳くらい)が、父親の腕にしがみつき、絶望に顔を歪めている。


「(やめなよ! 最低だ!)」

ルカが激怒し、部屋を飛び出そうとする。

「(よせ、ルカ! 俺たちの目的は……!)」

優作が、必死にその腕を掴んで制止する。


その時、スズが、二人の間をすり抜け、部屋の扉を開けた。

彼女は、階段を降り、衛兵隊長の前に静かに立った。


「(……スズ!? 何を言っている! お前には関係ないだろう!)」

衛兵隊長が、突然現れた『恋人スズ』に狼狽する。

スズは、衛兵隊長を(そして、その奥で下卑た笑いを浮かべる『悪徳商人』を)冷徹に見つめ、ゆっくりと告げた。

「(……待て。その娘はやめろ)」


「(……その娘より、私の方が『上物』だろ?)」


優作とルカ、そして衛兵隊長が、絶句した。

優作は、スズの『真意』を瞬時に理解した。

(……こいつ、正義感じゃない。……『セントラルシティに潜入する唯一の正規ルート(人身売買)』を、自ら『選択』しやがった……!)


悪徳商人が、スズのその類いまれな『容姿』と、この状況での『胆力』を見て、舌なめずりをした。

「(……ほう。極上の『商品』が、自ら名乗り出たか! よかろう! そいつを連れて行け!)」


「(スズ!? お前、本気か!? 俺のことはどうするんだ!)」

衛兵隊長が、詰め寄る。

スズは、彼に一瞥をくれただけだった。

「(……言っただろ。『飽きた』と)」


衛兵たちが、スズを『商品』として拘束しようと取り囲む。

スズは、その衛兵たちに囲まれながら、宿屋の上階(優作とルカ)に向かって、二人だけに聞こえるように告げた。


「(……優作。このルート(人身売買)が、最短で『貴族』に会える道だ。私は先に行く。……お前たちは、後から来い)」

「(ルカ。歌、頑張れよ)」


スズは、悪徳商人の『商品』として、衛兵たちに連行されていった。

彼女は、一度も振り返らなかった。


宿屋の娘は結果的に助かったが、町の『悪』は放置されたままだ。

優作とルカは、最強の戦力である『スズ』を失い、この『中継都市』に取り残された。


「(……どうするんだよ、優作! スズが行っちゃった!)」

ルカが、半泣きで優作に詰め寄る。


「(……ああ、分かってる!)」

優作は、頭をかきむしった。

「(……あの馬鹿スズを追うしかねえだろ!)」


……地上の『正規ルート』が「神に認められた者(貴族や商品)」のためのものなら、 優作は、目の前の『境界都市リンボ』の、最も汚い『裏路地』を睨んだ。 (……俺たち『卑怯者』には、お似合いの『汚れ道』があるはずだ)


優作は、宿屋から出た後、ルカと共に数日間、『境界都市リンボ』の『外縁部』を徹底的に調査した。 目的は一つ。この巨大な都市の『地下』に存在するはずの、『旧文明』の遺物を探すためだ。


そして、ついに発見した。 町の『スラム街』の、さらに奥。立ち入りが禁じられた区画の、崩れた巨大建造物の地下基部に、それはあった。 かつて都市間の高速移動を担っていたとされる、『気圧推進式』の地下鉄ポートだ。


(……見つけた) 優作は、埃をかぶった端末にわずかに残る構造図スキーマを指差した。 そこには、闇の奥へと無限に続く、直径数メートルほどの『巨大な円筒状のチューブ』が描かれていた。 (……レールじゃない。これは『空気の圧力』で、カプセル型の車両を弾丸のように射出して運ぶシステムだ。このパイプラインは、間違いなく『セントラルシティ』の地下・・・・・・に直結している)


第六区画の時、AI(神)の監視が厳しい『地上ゲート』よりも、忘れ去られた『地下ダクト』にこそ『穴』があった。今回も同じはずだ。 だが、その速度と圧力は、生身の人間が歩くためのものではない。


優作は、その暗い穴の奥から吹き荒れる風圧に、足がすくんでいるルカの肩を強く掴んだ。


「(……行くぞ、ルカ。俺たちにふさわしい『非正規ルート』だ)」 「(……この『忘れられたチューブ』を通って、セントラルシティへ潜入するぞ!)」

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