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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第八章:あるいは、私という人間の『異世界のはじまり』

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第28部 【地底世界への降臨と偽装】

【地底の偽りの空】


転移の光が消えた瞬間、優作の視界を埋め尽くしたのは、圧倒的な「違和感」だった。

頭上に広がっていたのは、絵の具を溶かしたような、不自然に均一な『青空』。

そして、その中心に張り付いた、白熱灯のように無機質な光を放つ**『人工太陽』**。


それは、岩盤の天井に投影されたホログラムの『偽りの空』だった。


人工的な光が、足元の『空き地』と、その先に広がる巨大な傘状の菌類や毒々しい紫色の植物を、白々しく照らし出している。


「(……地底、か)」


優作は、湿った『泥』のような冷たい感触に膝をつきながら、その異様な光景に息を呑んだ。

鼻をつくのは、地上の乾いた砂塵とは全く違う。カビと腐葉土、そして微かな『鉄の匂い』が混じった、生々しい空気だった。


「な、なによここ……。天井が、光ってる……?」


隣でルカが、信じられないものを見るように目を見開いて呟いた。彼女の声は震え、その手は無意識に自分のギターケースを抱きしめている。未知への根源的な恐怖が、彼女の顔から血の気を奪っていた。


スズは無言だった。だが、その瞳孔は針のように収縮し、腰のナイフに手をかけながら、油断なく周囲を警戒している。


「……空気が、淀んでいる。……嫌な気配だ」


その冷静な声の下に、獣のような本能的な警戒心が張り詰めているのを、優作は感じ取った。


【ガイドの宣言】


「どうやら、着いたみたいだね、ユウサク」


呆然とする優作の視界に、キラリと光る粒子が割り込んだ。

一陣の冷たい風が形を結ぶように、淡い残光を残して実体化したのは、手のひらサイズの**『妖精』**の姿をしたピュティアだった。

透き通るような肌、光沢のある黒髪、そして背中には光の分子で編まれた半透明の『翅はね』。


優作が(声に出さず)戸惑いを隠さずに問うと、その小さな姿はくるりと一回転し、無邪気な残酷さを湛えた瞳で優作を覗き込んだ。


ピュティア:「(優作にしか聞こえない声で)今日からボクは『妖精』だよ。この世界でキミをナビゲートする、ガイドさ」


ピュティアは、何も気づかずに森を警戒しているルカたちを一瞥し、ニヤリと笑った。


ピュティア:「さあ、ここからが本当の『冒険』の始まり。この森の『理ことわり』は、キミが思ってるよりずっと厳しいよ」


優作は唇を噛み、ピュティアの薄ら笑いを睨み返した。

(……悪趣味なガイドだ。また俺を『実験』する気か……)


【断たれた退路と亡霊】


ピュティアの言葉に弾かれたように、優作は背後を振り返った。

彼らが立っていた転送ゲートの光が、音もなく霧散していく。

地上へ戻る道は、一方的に断ち切られた。


その、何もなくなったはずの空間に――**『影』**が立っていた。


細い眼鏡の、青白い少年、和樹。

あの『亡霊』だ。


ゲートが消え、退路が断たれたその場所に、優作の『罪』だけが置き去りにされている。

哀しみを帯びたその視線が、泥にまみれた優作の背中に突き刺さる。


(……来ているな。俺の『罪』も、一緒に……)


優作の顔が引きつる。胃の奥から冷たいものがせり上がってくる。

「逃げられない」という絶望が、物理的な重圧となって肩にのしかかる。

優作がその罪(和樹)から目をそらし、ピュティアの言った『覚悟』を問い直そうとした、その時だった。


【竜族の襲撃】


森の奥から、けたたましい『咆哮』が響き渡り、静寂を引き裂いた。


「グルルルゥッ……!!」


ドスドス、という地響きと共に、三つの異様な影が、一行のいる空き地へと突進してくる。

優作の目に映ったのは、人型をしたトカゲ――「竜族」だ。

だが、その体格は三者三様に異なっていた。


先頭を駆けるのは、均整の取れた体躯のリーダー格。手には鋭利な『片手剣』を持ち、獲物を品定めするような狡猾な目をしている。

その右には、岩塊のように盛り上がった筋肉を持つ巨漢。丸太のような腕で巨大な『手斧』を軽々と振り回している。

そして左には、針金のように細長い手足を持つ痩せ型。その手には、不気味にうねる『鞭』が握られていた。


ピュティア:『ユウサク、警告! 「竜族」だよ! 地底人の集落を襲う『強奪者』だ!』


ピュティアの警告と同時に、優作は考える間もなく、デイヴの形見のボーガンを構えた。

震える指先を、必死の理性で抑え込む。


(……来る! 現実の、暴力が!)


三体のうち、『鞭』を持った痩せ型が、集団から離脱。小型竜は一切減速せず、地響きと共に優作たちの真横を駆け抜けようとする!

その痩せ型の竜族は、長い舌で自らの唇を舐め上げ、優作たちを通り過ぎる瞬間に、歪んだ笑みを浮かべた。


「ヒヒッ……美味そうな『女』だなぁ!」


すれ違いざま、騎乗した痩せ型の竜族が、まるで獲物をさらう猛禽もうきんのように、その長い「手」をスズに向かって伸ばす。骨ばった指が彼女の左腕を鷲掴みにした。


「ッ……!」


スズは悲鳴を上げなかった。ただ、短く息を呑み、歯を食いしばる。

彼女の体は、その暴力的な速度にいともたやすく宙に浮かせられ、そのまま地面に叩きつけられ、引きずられていった。

痩せ型の竜族は、引きずられるスズを見て、喉を鳴らして笑う。


「いい声で鳴けよォ! 家畜ゥ!」


「スズ!」


ルカが悲痛な声を上げる。

優作は引き金を引いた。ボーガンが火を噴く。


(当たれ……ッ!)


ドシュッ!

矢は奇跡的に、スズを引きずる痩せ型の竜族の肩に命中した。


「ギィッ!? ……痛ェなぁ!?」


竜族は耳障りな悲鳴を上げ、スズの腕を放した。スズは解放されたが、竜族に掴まれた左手が不自然な形に曲がり、その場で必死に体勢を起こそうとする。

苦痛に歪むその顔には、脂汗が滲んでいた。


真っ先に駆け寄ったのはルカだった。「スズ、しっかりしろ! 立てるか!」

ルカはスズを抱き起こそうとするが、その瞳は恐怖で揺れている。


肩を撃たれ負傷した痩せ型の竜族は、大きく弧を描き、憎悪に満ちた目で再度スズたち一行へ向かって「突進してくる」!

その顔からは余裕が消え、ただ獲物を引き裂こうとする殺意だけが張り付いていた。


「ミンチにしてやるよォオオッ!!」


それを見てた、『片手剣』を持ったリーダーは、優作たちを「ただの獲物」ではなく「反抗する害獣」と認め、侮蔑を含んだ視線を向けた。

金色の虹彩を持つ瞳が、細く収縮する。


「……チッ。躾のなってねぇ猿どもが」


リーダーは吐き捨てるように言うと、剣先を優作たちに向けた。


「上等だ。皮を剥いで、生きたまま肉屋に並べてやるよ。……殺せ!」


リーダー格、手斧の巨漢、そして負傷して再突進してくる痩せ型の鞭使い――三体の怪物が、同時に襲いかかる!


【スズの反撃と竜族】


「わたしにかまうな! お前たちは、目の前の二匹をしとめろ!」


スズが叫んだ。その声には、痛みを超えた「意地」が宿っていた。 彼女は左腕をだらりと下げたまま、右手だけで腰の投げナイフを抜く。その目から、一切の甘えが消え失せる。


「(わかってる!)」


ザイアスは迷うことなく、背嚢を地面に放り投げた。彼は狩猟用ナイフを片手に、リーダー格に向かって一直線に走り出す!


「うおおおおぉッ!!」


優作はザイアスの行動に応えるように、ボーガンを再装填し、最も巨大な的である**『手斧』を持った巨漢を狙って矢を放った。


(外すな……外せば、死ぬ!)


ドシュッ!


一射目は外れ、小型竜の脇腹をかすめる。だが、優作は即座に二射目を装填し、放った。

巨漢の竜族は、優作の抵抗など意に介さず、鼻息を荒くして手斧を振り上げた。その表情は、小動物を踏み潰す前の残酷な無邪気さに満ちている。


「グルルゥッ……潰レロォッ!!」


恐怖で竦みそうになる足を、地面に叩きつけるように踏ん張る。


「当たれッ!」


ドシュッ!


二射目。至近距離で放たれた矢は、巨漢の竜族の頭部に突き刺さる!


「ゴ……ガァッ……!?」


巨体は驚愕に見開かれた目のまま絶叫し、騎乗していた小型竜から崩れ落ちた。乗り手のいない小型竜だけが、そのまま森の奥へと走りすぎる。


活路を開いた優作を尻目に、ザイアスは驚異的な跳躍で、リーダー格に組み付いた。竜もろとも地面に転がり落ち、二人は泥と返り血の中で激しくもみ合いを始める!


「離せ! この薄汚ねぇ下等種族モンキーがァッ!」「逃がすかよォッ!」


その一方で、負傷し再突進してくる痩せ型の竜族に対し、スズは驚異的な反撃を開始した。


「シッ!」


鋭い呼気と共に、投げナイフが、まるで爆弾のように痩せ型の竜族を襲う。一閃、二閃。投げナイフの正確な集中砲火が竜族を捉える。投げナイフが命中するたび、硬い体表は肉と骨を弾き飛ばし、吹き飛んだ。


「ギャッ! ギィッ!? な、なんだぁコイツゥ!?」


ドシュ、ドシュ!


痩せ型の竜族の細長い右腕が宙を舞い、体がのけぞる。スズは間髪入れず、最後のナイフを放った。 その表情は冷徹そのもの。痛みを感じているはずなのに、標的を殺すことのみに集中した。


「これで、終わりだッ!」


投げナイフは竜族の頭部に正確に突き刺さり、痩せ型の竜族は絶命した状態で小型竜の上を数メートル走り、やがて力なく崩れ落ちた。

優作は、にわかには信じられないスズの驚異的な威力を目の端で捉えながら、三体目の巨漢を仕留め終えた。


【優作とルカの連携】


優作がボーガンを再装填しながら視線をザイアスに向けると、泥の中で二人はもみあいを続けていた。優作は加勢のため、ボーガンを投げ捨て、むぼうにも素手でリーダー格に駆け寄る。


もみ合いに近づいた瞬間、その竜が力なく覆いかぶさるザイアスを蹴飛ばし、引き剥がした。竜族の鱗はザイアスの返り血でどす黒く染まっている。 竜は、汚いものに触れたとでも言うように、不快げに鼻を鳴らした。


「フン……手間かけさせやがって。臭ぇんだよ、猿の血は」


「……ッ、ザイアス!」


優作の喉から、悲鳴に近い声が出る。竜は優作に対峙するため、剣を構え向き直った。その爬虫類の瞳が、残虐な光を帯びて優作を射抜く。 そこには仲間を殺された悲しみなど微塵もなく、ただ「商品にならないゴミ」を処分しようとする事務的な殺意だけがあった。


「次はお前か。……内臓ブチ撒けて詫びろや、ゴミが」


その刹那、ルカが優作に遅れて、竜に向かってボーガンを連射していた。


「あたれぇぇぇッ!」


ルカの絶叫。

ドシュ! ドシュ!


二射、三射目がリーダーの右肩につき刺さり、竜は痛みに呻く。


「グゥッ……!? ガ、キがぁ……ッ!?」


優作が追いついた時、竜は痛みで前かがみになっていた。

優作は迷わず、前かがみのリーダーの顎に蹴りを叩き込み、竜は宙を舞った。


「死ねッ!」


優作は、自分の中に湧き上がるどす黒い殺意を、そのまま言葉に乗せた。

すかさず地面に落ちた剣を手に取り、倒れているリーダーの胸に、全体重を乗せて剣を突き立てた。


「ガハッ……!?」


リーダーの口から、信じられないというように血の泡が漏れる。

金色の瞳が、目の前の「ただの人間」を映し、恐怖に見開かれた。


「バカ、な……。俺が……家畜、ごときに……」


ズブッ、と肉を裂く感触。

骨が砕ける感触。

そして、命が消えていく生々しい感触が、剣の柄を通して優作の手に伝わってくる。


「死ねェッ!!」


「ゴボッ……が、ぁ……」


竜族が血を吐き出し、痙攣して動かなくなるまで、優作はその手を離せなかった。

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