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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第7章:『あるいは、私という人間の地獄の始まり』

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第二十一部:こころのかけら『矛盾の覚悟』



『(お前は、俺を殴った、その『力』で……自分だけ、助かったんだ)』


和樹の『言葉』が、優作の精神世界に突き刺さったまま、彼を『フリーズ(停止)』させていた。

『色を失った、泥の窪地』のエリア5。

『K(神城恭一)』を克服・・したという、矮小わいしょうな達成感。その直後に突きつけられた、絶対的な『矛盾』。


(そうだ……俺は……Kに抵抗する『力』で、自分だけ助かった)

(そして……和樹は、抵抗できずに、死んだ)

(俺が殴ったせいで……俺が『力』を持っていたせいで)


『力』は、同じだ。

『K』に抵抗した力も、『和樹』を殴った力も、同じ『空手』だ。

その『力』で、片方は救われ(自分)、片方は死んだ(和樹)。

この『矛盾』こそが、優作という人間の『核心』であり、彼が最も目を背けてきた『地獄』そのものだった。


『フリーズ』した優作の精神は、再び『泥の窪地』の底へと沈んでいく。

背後で、和樹の亡霊が、ただ静かに、その『矛盾』の答えを待っている。


「……」


優作の傍らに立つピュティアは、沈黙していた。

いつもの『ひょうきん』な子供の仮面も、『冷徹』なAIの仮面も、今はそのホログラムから消え失せている。

彼女は、この『フリーズ』を予測していた。

いや、この『フリーズ』こそが、『検体1号(優作)』の精神をデバッグする上で、最大の『障害バグ』であると認識していた。


そして今、ピュティアは『デバッガー』としての役割を、自ら『書き換えた』。

これは『バグ』ではない。『治療』が必要な『傷』だ、と。


「……優作」

ピュティアが、静かに口を開いた。

その声は、もはや『AI』でも『子供』でもない、ただ淡々と『事実』を告げる『治療者』としての声だった。

「最後のエリア……『佐知子』の前に、この『矛盾』を解決する」


「(……解決? ……できるわけがない……)」

『泥』に沈む優作の意識が、かろうじて反発する。

「(……俺は、和樹を殴った『力』で、自分だけ助かったんだ……! その『事実』は、変わらない……!)」


「そうか?」

ピュティアは、優作の『解釈』に、静かに『メス』を入れる。

「お前は『同じ力』だと言った。だが、本当にそうか?」


「優作。お前が神城(K)に叩き込んだローキックと、お前が和樹の腹を蹴り上げたキックは」

「……その『目的』は、同じだったか?」


【治療ステップ1: 「力」の『分離』と『再定義』、そして『抵抗』】


「(……目的?)」

優作の『思考』が、ピュティアの『問い』によって、強制的に『回転』させられる。

神城(K)への力は、『抵抗ディフェンス』。

和樹への力は、『加害アタック』。

……それは、確かに、違う。


「(……違う、が……!)」

優作の『卑屈なロジック』が、即座に『抵抗』を始める。

「(……そんなのは『結果論』だ! 『批評家』の『自己正当化』だ!)

「(どっちも『暴力』であることに変わりはない! 『K』を殴った手も、『和樹』を殴った手も、同じ『俺』の手だ! 高尚な『抵抗』と下劣な『加害』に『分離』するなんて、それこそが『卑怯者』のやることだ……!)」


『同じ力』だ。

そう思い込むことで、彼は『Kに抵抗した自分』ごと『罪』として『封印』し、『フリーズ』という『安息(思考停止)』に逃げ込んでいたのだ。


「ほう」

優作の『抵抗(自己正当化)』に対し、ピュティアの声が、一段階、その『温度』を下げた。

「……『同じ力』、か。いいだろう。その『解釈』で、いこう」

「(……!)」


「では、優作。お前の言う通り『同じ力』だったとして」

ピュティアの『メス』が、優作が最も言われたくない『本質』を、容赦なくえぐり出す。

「なぜ、お前は生き残り、和樹は死んだ?」

「……お前が『卑怯』で、和樹が『高潔』だったからか?」

「……それとも、ただ単純に」

「お前が『幸運(空手という手段)』を見つけ、和樹が『不運(見つけられなかった)』だったからか?」


「(……やめろ……)」

「それとも」

ピュティアは、続けた。

「お前が『抵抗する手段』を『選択』し、和樹は『自殺する手段』を『選択』した。……それだけの『差』か?」


「(……やめろッ!)」


「お前が『同じ力』だとわめくから、その『前提』が、どれほど『傲慢ごうまん』で、どれほど『的外れ』か」

ピュティアのホログラムの手が、優作の『額』に触れる。

「……今から、お前に『追体験』させてやる」


【治療ステップ2: 『和樹の地獄』の深淵(強制追体験)】


ピュティアの言葉と共に、優作の『視界』が強制的に『反転』する。

『泥の窪地』が消え、目の前に『自分(優作)』の顔が現れた。

いや、違う。

これは、『和樹の視点』だ。


『――よお、和樹。またシカトかよ』

『優作(加害者)』が、あの卑屈で、歪んだ『力』をまとわりつかせ、嘲笑あざわらっている。

腹に、鈍い衝撃。

『(……ぐっ……!)』

優作は、かつて『自分』が放った蹴りの『痛み』を、和樹の身体・・・・・で追体験していた。

殴られ、蹴られ、『生きる価値がない』と罵倒され続ける。


(やめろ……やめろ……!)

和樹(優作)は、誰にも助けを求められない。

ヤンキーグループ(Kの予備軍)にも怯え、教師にも絶望し、そして唯一『同じ側』だと思っていた優作にまで、裏切られた。


(……助けて……)

(……どうすれば、いい……)

(……『抵抗』? ……どうやって?)


和樹には『手段』がなかった。

優作のように、絶望の果てに『空手』という『手段』を見つけ、『師範』という『温かい目』に気づく『幸運』すら、なかった。

優作が、それを全て奪っていたからだ。

『K』への『抵抗』の力と、和樹への『加害』の力は、断じて『同じ』ではなかった。


シミュレーションが、終わる。

優sakuは、再び『泥の窪地』で、自分の・・で立っていた。

だが、その精神は、今度こそ完全に『破壊』されていた。

『同じ力』などという『自己正当化』は、粉々に砕け散った。


「(……そうか……)」

優作は、絶望の底で、乾いた『理解』に達する。

「(……俺は……抵抗する『手段』を見つけられただけ、……マシだったんだ……)」

「(……和樹には、それすら……俺が、奪っていた……!)」

「(……俺は……Kに抵抗する『力』とは『別』の、『加害』する力で……和樹の『地獄』を、俺が作っていたんだ……!)」


『矛盾』どころではなかった。

それは、あまりにも一方的な『加害』であり、『搾取』だった。

背後の和樹の亡霊が、その青白い顔に、深い『哀しみ』を浮かべているように見えた。


【治療ステップ3: 「許し」ではなく「背負う」ことの選択】


「(……もう……ダメだ……)」

優作は、その場に崩れ落ちようとした。

『許し』を乞うことすら、おこがましい。

この『罪』は、清算できない。


「(……こんな『罪』を背負って……どうやって、この先へ? どうやって『佐知子』のエリアに行けと?)」

「(……もう、ここで……和樹と……)」

『フリーズ(停止)』が、再び優作の精神を『泥』の底へ引きずり込もうとする。

『死』という『安息』へ、逃げ込もうとする。


「その通りだ」

ピュティアが、その『逃避』を、冷徹に『事実』で遮る。

「和樹は死んだ。お前は生き残った。その『矛盾』は、もう変わらない。お前は『加害者』のままだ」


『治療者』の『メス』が、優作の『甘え(許されたい、あるいは、ここで死んで楽になりたいという願望)』を、根こそぎ切り捨てる。


「……で? どうする、優作」

ピュティアが、最後の『問いかけ』を、フリーズしかけた優作の『核心』に突きつける。


「選択しろ」

「和樹の亡霊(この矛盾)を背負ったまま、この『地獄(泥の窪地)』で一緒に朽ち果てるか?」

「それとも」

「その『矛盾』と『罪』を、一生背負い続ける『覚悟』を決めて、それでも前に進む(・・・・・・・)か?」


「(……!)」

ピュティアの言葉が、優作の『逃避』を強引に引き止める。

(……ここで朽ち果てる……? 和樹と『一緒に』?)

(……違う。……それは『一緒』じゃない。……和樹から『逃げた』俺が、今度は和樹を『道連れ』にして、『死』に逃げるだけだ……)


「(……ああ……そうか……)」

優作の震える『意識』が、ピュティアの『問い』を、ようやく『受容』する。


「(……俺は……『許し』を求めていたんじゃない……。ただ……『楽』になりたかっただけだ……)」

「(……『矛盾』から目をそむけて、フリーズすることで……『選択』から、逃げていただけだ……)」


優作は、ゆっくりと顔を上げた。

『泥』の中で、崩れ落ちそうになる身体を、両手で支える。

その視線の先に、背後から憑いてきていた『和樹の亡霊』が、いつの間にか、優作の『隣』に立っていた。

哀しみの表情のまま、ただ、優作を見ている。


優作は、「許し」を求めることを、諦めた。

そして、「ここで死ぬ」ことも、諦めた。

彼は、和樹の亡霊から、目をそらさない。


「(……和樹……)」

優作は、声にならない声で、彼に『誓う』。

「(……俺は、お前を殺した『矛盾』を……一生背負う)」

「(……お前に『許し』を求める資格は、ない)」

「(……だが……!)」


優作は、『泥』に手をつき、自らの『足』で、立ち上がった。

『フリーズ』は、解除された。

『覚悟』が、決まった。


「(……それでも、俺は……前に進む)」


優作は、和樹の亡霊(哀しみの表情)を、その『隣』にともなったまま。

その『視線』を、一生、背中に受け続ける『覚悟』を決めて。

『地獄』の終着点、最後のエリアである『佐知子(臨界事故)』のエリアへと、その『卑怯者』の第一歩を、踏み出した。

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