第十九部:こころのかけら(あるいは、背後の亡霊)
優作の絶叫が、鉛色の『天井』に吸い込まれて消える。
彼は、『体育館裏』の『泥』の中、自分の『無力さ(被害)』が『醜悪さ(加害)』に直結していたという『矛盾』の構造に打ちのめされ、倒れ伏したまま、再び『フリーズ』しかけていた。
「(……ああ……ああ……! 結局、俺は……!)」
『理想』が『(……やはり『悪』だ!)』と内側から断罪し、背後では『和樹』が、あの『体育館裏』で殴られたままの姿で、無言で優作を見下ろしている。
『万能感』など、どこにもなかった。
「……いつまでそうしてるんだ? お前の『仕様』だろ、それ」
ピュティアが、この地獄の中心で、唯一人、退屈そうに言った。
「(……どうしろっていうんだ……!)」
優作は、泥の中から、絶叫を返す。
「(……俺は……こいつ(ヤンキー)に勝てなかったから……こいつ(和樹)を殴ったんだ……! 同じだ……俺も、ヤンキーと……!)」
「だから?」
ピュティアは、心底どうでもよさそうに首を傾げた。
「それが、お前の『矛盾』だ。お前の『卑怯さ』と『弱さ』が組み合わさった、お前の『基本設計』だ。……その『地獄』は、今のお前じゃまだクリアできない。保留だ、保留」
ピュティアは、フリーズしている優作の『胴体』を掴むと、まるで荷物でも引き剥がすかのように、泥の上から強引に引きずり起こした。
「(……やめろ! 俺は……!)」
「うるさい。次、行くぞ」
優作は、抵抗も虚しく『体育館裏』のエリアから引きずり出された。
『一本道』の先に、次の『靄』が見えている。
優作は、恐る恐る、自分が引きずり出された『体育館裏』を振り返った。
『ヤンキーの影』は、もういない。
だが、そこには、先ほど『謝罪』した時とは違う、『無』の表情で立ち尽くす『和樹』がいた。
[無言で立ち上がる、青白い顔の少年の画像]
細いフレームの眼鏡。青白い頬。
その瞳は、『憎悪』も『絶望』も消え、ただ、優作が『加害者』であるという『事実』だけを映して、彼をじっと見つめていた。
和樹は、何も言わなかった。
「(……和樹……?)」
優作が『一本道』を一歩進むと、和樹もまた、『体育館裏』から一歩踏み出し、優作の後ろについてきた。
優作が足を止めると、和樹も足を止める。
一定の距離を保ち、まるで優作の『影』のように。
「(……来るな……! こっちに来るな!)」
優作が叫んでも、和樹は表情一つ変えず、ただ無言でそこに『在る』。
『謝罪』も『涙』も、もはや意味をなさなかった。
彼は、優作が『加害者』であるという、一生消えない『事実』そのものとなって、優作に憑依したのだ。
「……あーあ。うるさい『地縛霊』が一体増えたな」
ピュティアが、その光景を嘲笑う。
「おめでとう、優作。お前は『矛盾』から逃げられない。そいつ(和樹)は、お前がこの『地獄』から抜け出すまで、ずーっと、その『無』の表情で、お前の『背中』を見続けるぞ」
最悪だった。
『理想』が前から道を照らし(あるいは邪魔をし)、『過去(和樹)』が後ろから無言で見つめてくる。
優作は、その二つの視線に挟まれながら、『一本道』を進むしかなかった。
『靄』を抜けると、風景は『中学』の陰鬱さから、わずかに変わっていた。
『天井』が少しだけ高くなり、無彩色だった世界に、ほんのわずかだが『色(サビのような色)』が混じり始めている。
『高校』のエリアだった。
「さて、中学編は『矛盾』で詰んだが、高校編はどうだ?」
ピュティアが、前を指差す。
そこは『高校』の教室だった。そして、その中心には、他の生徒とは明らかに違う『圧』を放つ、一人の生徒の『影』が座っていた。
『中学編』のヤンキーたちとは違う、より強く、冷徹な『支配者』。
『K』だった。
「お前が『暴力の連鎖を断ち切った』と自負する、因縁の相手だ」
ピュティアがシミュレーションの開始を告げる。
「だが、どうかな?」
ピュティアは、優作の『背後』を顎でしゃくった。
そこには、相変わらず『和樹』が、無言で、無表情で、立っていた。
その『無』の視線が、優作の背中に突き刺さる。
「(……ああ……クソッ……!)」
優作は、『K』への『恐怖(あるいは抵抗心)』と、背後の『和樹』への『罪悪感』に同時に苛まれながら、この『高校』のミッションに臨まなければならなかった。
(第十九部、了)




