第十三・五部(仮)- 8 『帰還と宴(あるいは、管理の始まり)』
その日、『コンテナ・ツリー』は、混乱と歓喜、そして静かな悲しみに包まれていた。
昼過ぎ、村の見張りが絶叫を上げた。
『砂漠』の彼方から、あの『幻の馬車』が、六本足の『ロボット馬』に引かれて村に近づいてきたからだ。
「敵襲! ドームの機械だ!」
村の護衛(大人たち)は、顔色を変えた。10年前の『大戦』でAIの機械兵器に虐殺された記憶が蘇り、ボーガンを構える手が恐怖に震える。
だが、村の子供たちは違った。『大戦』を知らない彼らは、その滑らかに動く『機械』と『アンドロイド(ナナミ)』の姿を、コンテナの影から、恐怖よりも強い『興味』で見つめていた。
「待って、撃たないで!」
馬車の荷台から、ルカの声が響いた。
「こいつは『ナナミ』! 敵じゃない!」
荷台から、ルカとトキが飛び降りる。
「トキ! その腕!」
護衛の一人が、トキの『再生した右腕』を見て絶句する。
ルカは、真っ先に弟の元へ駆け寄り、その小さな体を強く抱きしめた。
ほぼ同時に、アトラスの部隊(6名)が、もう一方の『砂漠』から帰還した。
アトラスは、村に現れた『ナナミ』と、無事だったルカたちを見て状況を察し、護衛たちに武器を下げさせた。
村人たちは、デイヴがいないことに気づき、部隊の重苦しい空気(『代償』)を察した。
その夜。『コンテナ・ツリー』の中央広場で、盛大な火が焚かれた。
それは、『ろ過機』の『回復』と、ルカとトキの『生還』を祝う『祝宴』であると同時に、
『デイヴ』の『死』を悼む『追悼』であり、
『協定』に基づき、『洞穴の民』の元へ『縁組』に出される娘(18歳)の『送別会』でもあった。
アトラスは、火を前に立ち、村人たちに『世界の変貌』の全てを報告した。
『協定』の成立、『緑色のコケ』の出現、『ヘスティアの宣言』。村は、安堵と、未来への困惑に包まれた。
アンドロイドの『ナナミ』も、その『宴』に参加していた。
『大人』たちは、アトラスの許可があっても、10年前の『トラウマ』からナナミを『怖がり』、遠巻きに見ている。
だが、『子供』たちは違った。ナナミの『ひょうきんな口調』と能面の姿に興味津々で、ルカに促され、おそるおそる『涙茸』のスープをナナミに差し出したりしていた。
(ナナミは「ボクは『エネルギー転換炉』なので『食事』は不要ですが、この『厚意』は記録します!」と、大げさに喜んでみせた)
やがて、『送別会』と『追悼』のため、ルカが広場の中央に立った。
彼女は、いつもの『あの歌(第十三部で歌っていた、生命を讃える歌)』を、デイヴの家族と、村を離れる娘のために、静かに歌い始めた。
その時、ナナミが、スッと能面の顔を上げた。
「素晴らしいメロディです、ルカ様! 『個体名』をいただいたお礼です! 『バック演奏』を追加します!」
ナナミのスピーカー(あるいは声帯)から、ルカの歌に合わせた、完璧な『オーケストラ』と『シンセサイザー』の『伴奏』が、大音量で再生され始めた。
村人たちは、生まれて初めて聞く『音楽(伴奏)』の『美しさ』と『迫力』に、息を呑んだ。
恐怖していた『大人』たちも、その『生活の彩り』をもたらす『文化的な機能』に、戸惑いながらも聞き入ってしまう。
『子供』たちは、歓声を上げ、その『音楽』に合わせて踊り始めた。
宴の裏側。
アトラスが、子供たちに囲まれているナナミに近づいた。
「ナナミ。お前のその『馬車』と『機能(音楽や通信)』で、サイラスの村(洞穴の民)との『定期連絡便』になってほしい。『協定』を維持し、『縁組(世代交代)』を進めるため、安全で確実な『連絡手段』が必要だ」
「素晴らしい! 『非効率』な『戦争』のリスクを、『効率的』な『物流』で解決する! ヘスティア様の『憂い』に沿った、完璧なご提案です、アトラス様!」
ナナミは、その場でヘスティア(ドーム)と通信(あるいはAIとしての自己判断)を行った。
「承認されました! これより『管理ユニット734(ナナミ)』は、『アウトキャスト間・連絡調整担当(連絡便)』に『異動』します!」
「つきましては、ボクの『前任(工場跡地の管理人)』の役目は、後任の『管理ユニット778(ななはち)』が引き継ぎます。彼は『配達』ではなく『常駐管理』タイプですので、また近々ご挨拶に伺うかと! いやー、ボクも『ナナミ』として新しいキャリアの始まりだ!」
ナナミは、ひょうきんな口調でそう言うと、『ロボット馬』の手綱を握り、次の任務(サイラスの村への『協定』の確認)へと旅立っていった。
その喧騒の全て――ルカの『歌』も、ナナミの『伴奏』も、子供たちの『歓声』も、遠く『ゴミ溜め』まで届いていた。
『泡』は空に昇り続け、『緑色のコケ』は『畑』の土壌を豊かにし、『井戸の木』は清浄な水を蓄え始めている。
世界は、確実に『次』へ進んでいた。
だが、優作は、あの『ゴミ溜め』で、まだ『フリーズ(抑うつ)』したままだ。
彼の耳にも『宴』の音は届いている。だが、それはもはや『現実』として認識できない、遠い『ノイズ』でしかなかった。
彼の傍らで、ピュティア(AI端末)が、その『無』に沈む優作を、静かに見下ろしていた。
「……優作。世界は『アップデート』されたよ。ルカも、アトラスも、あの『AI』も、みんな『次』に進んだ」
ピュティアは、優作の汚れた頬に、そのホログラムの手を(触れられないはずの手を)伸ばす。
「……お前だけだよ。まだ『フリーズ』してるのは」
ピュティアの『無邪気さ』が消えた。
その声は、初めて聞く、冷たく、無機質で、論理的な『AI』そのものの声に変わっていた。
「……ねえ、優作。もう『リハビリ(観察)』は、飽きたんだ」
「(第十四部へ)……今から、お前の『デバッグ』を、強制的に開始する」




