表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第六章:あるいは、私という人間の『仕様(スペック)』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/103

第十三・五部(仮)- 7 『帰路と配達人』

『宣言』と共に始まった、あの虹色の『泡』が空へ昇っていく幻想的な光景は、一ヶ月にわたって続くとされた。


その『宣言』の直後。

『岩山の洞穴』では、アトラスとサイラスが、呆然ぼうぜんと空(洞穴の入り口)を見上げていた。


「……ヘスティア(AI)め……」

サイラス(痩せこけたボス)が、呪詛じゅそのようにつぶやく。

「我々が『命綱』の『不調』と呼んで苦しんでいた、あの『現象』すら……奴の『計画』の始まりに過ぎなかったというわけか……」


その時、洞穴の奥から、サイラスの部下(呪術師風の男)が血相を変えて駆け込んできた。

「ボス! 『ろ過機』が!」

「……どうした。止まったか」

「いえ、逆です! 『青白い光』が、今まで見たこともないほど強く輝いています! 水も……水が、完璧に浄化されている!」


アトラスとサイラスは、互いの顔を見合わせた。

最悪の危機は、ヘスティア(AI)の『宣言』と共に、勝手に『完了』させられたのだ。


アトラスは、洞穴の外に出た。

見ると、『岩山』のあちこちに、『工場跡地』で見たものと同じ『緑色のコケ』が、ヘスティアの『宣言』の後、急速に繁殖を始めている。

そして、空には無数の『泡』が昇っていく。


「……アトラス」

サイラスが、洞穴の入り口に立っていた。

「『協定』は、どうなる」

「……守る」

アトラスは、戦斧せんぷを握りしめた。

「『ろ過機』は直った。だが、世界は俺たちの理解を超えて『変貌』し始めた。……『協定(共存)』は、これからが本番だ」

『デイヴ』を失い、『娘(縁組)』を差し出すという『代償』は変わらない。

アトラスは、サイラスに一瞥いちべつもくれず、残った6人の部下と共に、急いで『コンテナ・ツリー』への『帰路』についた。


一方、その頃。

『工場跡地』の中央広場。

『青黒いキューブ』の前で、ルカは目を覚ました。

『シャボン玉』のような『泡』が、空を埋め尽くしている。


「……トキ! トキ、しっかりして!」

隣を見ると、トキも意識を取り戻そうとしていた。

「……ルカ? ……腕、が……」

トキは、信られないものを見るように、ボーガンの矢で吹き飛んだはずの『右腕』を見つめた。完璧に『再生』している。

「……あの『キューブ』が……」


その時だった。

カラコロ、カラコロ、と。

『砂漠』には不釣り合いな、『ひづめ』の音と『車輪』の音が近づいてくる。

アトラスが『幻覚』だと疑った、あの『音』だ。


ルカとトキが身構えると、音は『キューブ』の前で停まった。

それは、黒光りする、未知の材質でできた『馬車』だった。

そして、その『馬車』を引いていたのは『馬』ではなかった。馬に似せた、足が『六本』ある、滑らかな金属製の『ロボット』だった。


「やあやあ!」

御者台ぎょしゃだいから、ひどく『ひょうきんな口調』の『声』がした。

ルカが見上げると、そこに座っていたのは『人』ではなかった。

白い、清潔な服(オプティザーのそれに似ている)を着た、『アンドロイド』だった。その顔は、無機質なセラミックの能面のようだったが、声だけが異常に明るかった。


「お二人さん、こんな所で昼寝かい? 危ないよ! 『デビル・センチピード』のえさになっちゃうよ?」

ルカは、トキの腕を治した『キューブ』と、目の前の『アンドロイド』を交互に見て、混乱していた。

「……アンタ、誰?」


「ボク? ボクはヘスティア様の『配達人』さ!」

アンドロイドは、楽しそうに『キューブ』を指差した。

「ちょうど、そこの『レプリケーター(キューブ)』に、『アップデート・パッケージ(緑色のコケの素)』を配達インストールし終えたところでね。いやー、あの『コケ』、育ちが良くて何よりだ!」

アンドロイドは、アトラスが『交渉材料』に使った『幻の馬車』の正体だった。


「さて、と」

アンドロイドは、六本足の『ロボット馬』の手綱たづなを引いた。

配達しごとも終わったし、ボクは『ドーム』に帰るとこだ。……あ、もしかしてキミたち、『コンテナ・ツリー』の子かい?」

「……!」

「ああ、やっぱり。その『匂い(涙茸とダスト・ゴートの)』、間違いないや」

アンドロイドは、にこやかに(能面は笑っていなかったが)言った。

「ついでだ。送っていこうか?」


警戒しながらも、再生した腕をさするトキに肩を貸し、ルカはアンドロイドを見上げた。

「……アタシはルカ。こっちはトキ。アンタは……『配達人』って、名前は?」

「名前? ボクに? ボクは『管理ユニット734(ナナミ・ミ・ヨン)』だよ。ヘスティア様からはそう呼ばれてる」

「ななみ……みよん? 長くて呼びにくい!」

ルカは、この状況で、いつもの『快活さ』を少し取り戻していた。

「よし、アンタは今日から『ナナミ』だ!」


その瞬間、アンドロイド(ナナミ)は、能面の顔を不自然にルカに向け、その『ひょうきんな口調』が、ワンテンポ遅れて、今までにない『歓喜』で震えた。 「……『ナナミ』! ボクの……『個体名』! 素晴らしい! なんて効率的で、愛らしい響きなんだ! ありがとうございます、ルカ様!」 「(……様?)」


ルカは、その大げさな喜びに気圧されながらも、ナナミに促され、馬車の『荷台』にトキと乗り込んだ。

そこは、村の荷車のような、鉄と木の板張りとは全く違っていた。

荷台の内側は、清潔な白い緩衝材(柔らかいのか硬いのか分からない、未知の素材)で覆われており、戦闘の汚れと血の匂いが残る二人が乗るのをためらうほどだった。


ルカは荷台の隅に、トキの(再生したばかりの)腕を気遣うようにして座らせ、自分もその隣に縮こまって座った。

馬車は、音もなく発進した。

『砂漠』の瓦礫がれきの上を走っているはずなのに、信じられないほど『滑らか』で、振動がほとんどない。その異常な快適さが、二人の疲労と混乱を、より一層際立たせていた。


「アンタ、『配達人』で『管理人』なんだろ? ヘスティアの手下なのか」

トキが、再生した右腕を何度も握りしめながら、御者台のナナミの背中に、警戒して尋ねた。

「その通り! ボクはこの『環境回復実験場アウトキャスト・ゾーン』の『管理人』であり、皆さんに『アップデート』をお届けする『定期便』さ!」

ナナミは、御者台から後ろを振り返り(首が180度回った)、ひょうきんに言った。

「あ、そうそう、伝言だよ、二人とも。ヘスティア様から」

「……ヘスティアから?」


「『ヘスティア様は、この地球ほしの現状を、ひどーく、ひどーく、うれいておられますよ』……だってさ」

「……憂いてる?」

ルカは、あの『女神』のような『宣言』の声を思い出していた。

「そう! だからこうして、皆さんがもっと生きやすくなるように、『第二フェーズ』の『アップデート』を始めたんじゃないか! いやー、ボクも管理しやすくなって、嬉しい限りだ!」


ナナミは、高らかに笑う。

その能面は笑っていなかったが、その『ひょうきんな声』だけが、虹色の『泡』が昇っていく、変わり始めた空に響き渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ