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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第六章:あるいは、私という人間の『仕様(スペック)』

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第十三・五部(仮)- 3 『リーダーの交渉(あるいは、最適化)』

その頃。

優作が『ゴミ溜め』で『無』に沈み、ルカとトキが『砂漠』へ足を踏み出す、その一日前。

『コンテナ・ツリー』の根本、アトラスのコンテナが、重い扉を開いていた。

(アトラスの村『コンテナ・ツリー』の総人口は、子供や老人を含めて約20名。男女比はほぼ半々だった)


『ろ過機』の『青白い光』が弱まり始めて(残り一週間と予測された)数日が経過。アトラスは、村のナンバー2(トキの父親)に『プランA』の準備(最悪の場合、ルカとトキによる『偵察任務』の準備)を託し、自らは最大の『賭け』である『プランB』を実行するため、村を出発しようとしていた。


アトラスは、手製の『鎧タイヤとプラスチックのプレート』の胸当てを締めながら、外の『黄土色の空』を睨にらみつけた。

彼の『黄色い目』には、村の『未来』を背負う『交渉』への、冷徹な光が宿っていた。


彼の前には、村の最強戦力である『大人』の戦闘員7人が、武器(鉄プを研いだ槍や、旧時代のボーガン)を手に整列している。

彼らは皆、アトラスと同じく、この『死の大地』を生き抜いてきた、屈強な『適応体アウトキャスト』だ。


その筆頭に立つのは、アトラスの『右腕』と呼ばれる男、デイヴ(30代半ば)だった。

アトラスが『戦斧』と手製の『重鎧』で身を固めた重戦士タイプであるに対し、デイヴは『ラピッド・リザード』の皮をなめした軽装鎧を身に着け、背中には旧時代の部品を改造した『大型ボーガン』を背負っている。

片目は鋭く、もう片方の目は顔の古い傷跡で潰れていたが、彼は村の誰よりも遠くを見通せる『目(斥候)』であり、部隊の冷静な頭脳でもあった。

デイヴの隣には、彼と常に行動を共にする相棒バディのマイクが、緊張した面持ちで槍を握りしめている。


「……聞け」

アトラスの、汚染大気で潰れたダミ声が、静かな朝の空気に響く。

「『ろ過機』が止まるまで、あと数日。俺たちは、今から『プランB』を実行する」

「『砂漠の峠』を越え、『岩山の洞穴』へ向かう。『洞穴の民(敵対部族)』と『交渉』する」


戦闘員たちの間に、緊張が走る。

『洞穴の民』。

『コンテナ・ツリー』の民と同じく、『旧工場』の資源を狙う、不倶戴天ふぐたいてんの敵。

彼らもまた、あの『ひょうたん型のろ過装置』を一台所有し、独自の『論理』で生きる集団だ。


「アトラス。本気か。奴らと『交渉』など……」

マイクが、思わず口を挟む。

「ああ、本気だ」

アトラスは、手にした巨大な『戦斧せんぷ』(旧時代の道路標識を改造したもの)を、地面に突き立てた。


アトラスは、この村の『生産(食料)』と『消費(水)』の、ギリギリのバランスの上で綱渡りを続けてきた。

彼は、誰よりも『仲間殺し(人口最適化)』を嫌っていた。

戦闘員が一人死ねば、その『労働力(生産)』を補うため、ルカの病弱な弟コウのような『非生産的な住民(消費)』を『処分』しなければならなくなる。

その『地獄の論理』を、彼は誰よりも憎んでいた。


だからこそ、彼は『賭け』に出る。

最悪の『仲間殺し』を回避し、『共存』の道を探るために。


「……いいか。奴ら(洞穴の民)も、俺たちと同じく『ろ過機』が命だ。あの『工場』に、『代替品(修理部品)』が残っているかもしれない。その『不確かな希望』に賭けるしかない」

『ろ過装置』の出所でどころは、アトラスもサイラス(洞穴の民のボス)も知っていた。10年前の『大戦』直後、まだ若かった彼ら自身が、あの『工場』から命がけで運び出した『当事者』だからだ。

だが、この10年、互いの『ろ過機』は正常に作動していた。あの『死地(工場)』に、貴重な戦闘員の命を危険に晒してまで『予備』を探しに行く余裕は、どちらの村にもなかった。

「だが、状況は変わった」

アトラスは、戦斧せんぷを肩に担ぎ直す。

「行くぞ」


その日の夕刻。

『砂漠の峠』を越えた、荒涼とした岩場。

アトラスの部隊(7名)は、空を警戒しながら進んでいた。


その時だった。

「……上だ!」

部隊の『殿しんがり』として空を警戒していたデイヴが叫ぶ。

空気を切り裂く、甲高い叫び声。

化学スモッグの雲間から、『それ』は急降下してきた。

『プテラノドン』と呼ぶべき、翼竜に似た巨大な『飛行生物』。


「散開! 迎え撃て!」

アトラスが戦斧を構える。デイヴのボーガンが空を射るが、硬い皮膚に弾かれる。

『プテラノドン』は、部隊の『目』であるデイヴを狙った。

強襲は一瞬だった。

一羽が、デイヴをその巨大な鉤爪かぎづめで掴み上げ、空高く連れ去っていく。大型ボーガンが、主あるじと共に空へ消えた。

「……っ! デイヴ!!」

相棒のマイクが、絶叫した。だが、もう何もできない。

アトラスは、連れ去られた部下(貴重な労働資源であり、右腕だった男)の姿が、スモッグの彼方に消えるのを、ただ歯を食いしばって見送るしかなかった。


戦力は『6名』になった。

アトラスは、絶望的な状況で、なおも『岩山の洞穴』を目指した。


その夜、アトラスたちは野営を余儀なくされた。

『プテラノドン』の縄張りである峠で、火を焚くことはできない。6名に減った部隊は、荒涼とした岩場の影で、冷たい風と化学スモッグに耐えながら、交代で短い休息を取った。

マイクは、相棒デイヴを失ったショックで、槍を握りしめたまま一睡もできずにいた。

アトラスは、部隊の『目(斥候)』と貴重な『労働資源』を同時に失ったことの重圧に耐えながら、一人、暗闇の向こうにある『岩山の洞穴』を見据えていた。


その翌日。(ルカとトキが『工場』へ向かった日)

優作が『ゴミ溜め』で『フリーズ』し、ルカたちが『ラピッド・リザード』と遭遇している、まさにその同時時刻。


アトラス(戦力6名)は、『岩山の洞穴』の入り口に立っていた。

そこは、天然の巨大な鍾乳洞が、旧文明の『地下シェルター』と融合した、要塞のような場所だった。

入り口には『ラピッド・リザード』の皮を張った幕が下がり、武装した『見張り』が二人、アトラスたちに槍を向けている。


アトラスが『交渉』の使者であることを告げると、武装した『洞穴の民』たちに囲まれながら、洞穴の奥へと案内された。

彼らの総人口は、アトラスの村(約20名)より少ない、『約15名』。そのうち、女性は数えるほどしかおらず、男女比は『7対3』と、極端に男性に偏っていた。

彼らは『コンテナ・ツリー』の民と違い、畑(土)を持たない。彼らの生活環境は、暗く、湿った『岩』だ。

男たちは、旧時代の鉱山道具で岩を掘り、『鉱物資源(燃料か、武器の材料か)』を採掘するか、あるいは獲物(トカゲや巨大なムカデ)の皮をなめし、武具の手入れをしていた。

女たちは、その暗闇の中で、『青白いキノコ』を栽培・管理していた。


洞穴の最も奥、最も守られた『聖域』。

そこには、アトラスの村にあるものと『同型』の、『ひょうたん型のろ過装置』が鎮座していた。

その『青白い光』もまた、弱々しく明滅している。

その『ろ過機』の前で、一人の男が待っていた。彼こそが『洞穴の民』のボス、サイラスだった。


「……(アトラスの部隊を見渡し)……7人いたはずが、6人か。『空のモノ』にやられたな」

サイラスは、アトラスと同じく『10年前の大戦』を生き延びた男だった。だが、『コンテナ・ツリー』のアトラスが『戦斧』と手製の『重鎧』で身を固めた『戦士』であるのに対し、サイラスは『痩せこけ』、ボロ布のようなローブを纏まとった『呪術師』のような風貌をしていた。

だが、そのローブの下には、研ぎ澄まされた刃物のような筋肉が隠されていることを、アトラスは知っていた。そして、その『黄色い目』は、アトラス以上に冷徹な『計算』の色を宿していた。


「……お前たちこそ、『斥候』が二人、戻っていないと聞いた」と、アトラスも返す。

「ああ、やられた。このままでは、お互い『工場』での資源回収もままならん」


互いに、戦力が低下していることの確認。

そして、『工場』という危険地帯へ向かう余裕などないという、共通の認識。

ここに、『前提の共有』が成立した。


「……アトラス。わざわざ危険を冒してここまで来た理由はなんだ。俺の首か? それとも『ろ過機』がイカれたか?」

サイラスの目が、アトラスを射抜く。

アトラスは、動じずに答えた。

「……そうだ。俺たちの『ろ過機』がイカれた。……そして、お前たちの『ろ過機』も、だろう?」


サイラスは、一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに歪んだ笑みを浮かべた。

「……よく見ている。そうだ、うちのも消えかかっている。……奇妙な『偶然』だな」


もはや『敵対』している場合ではない。

両方の村が、『水』というインフラの同時崩壊により、『共倒れ』の危機に瀕している。

アトラスは、戦斧の柄を握りしめ、一歩前に出た。


「サイラス。時間がない。単刀直入に言う」

アトラスは、サイラスの目を真っ直ぐに見据えた。

「今すぐ『信号』を上げろ」


「……信号?」

「今日、うちの『ガキ』が二人、『偵察』のために『工場』へ向かっている。お前たちの『回収班』も、すでに向かっているはずだ」

アトラスの声に、焦りと力がこもる。

「このまま鉢合わせすれば、お互い無傷じゃ済まない。『現場』の判断で殺し合いになる。……それを止めろ」


サイラスは、鼻を鳴らした。

「……ふん。ガキとはいえ、敵は敵だ。我々の回収班の判断に任せている。なぜ我々が止める必要がある?」


「お前たちが欲しいのは『ガキの命』じゃないはずだ」

アトラスは、連れてきた『ダスト・ゴート(オス1頭)』の手綱を前に突き出した。

「お前たちが欲しいのは『資源』だろ。……この『ダスト・ゴート』をやる。肉も、皮も、骨も使える」


サイラスの視線が、ダスト・ゴートに向く。

『洞穴の民』は畑を持たない。安定したタンパク源である家畜の価値は、計り知れない。

「……悪くない。だが、それだけか?」

サイラスは、アトラスの必死な様子から、さらに踏み込めると踏んだ。

「お前が『自ら』来たということは、ただの『ガキの命』以上の『狙い』があるはずだ」


「……『協定』だ」

アトラスは、村の未来を賭けたカードを切る。

「『工場』には『代替品』があるかもしれない。だが、奪い合えば共倒れだ。だから『回収日』を決める。俺たちが週3、お前たちが週3。無益な争いを避け、この『ダスト・ゴート』と『不可侵協定』。これが『信号』の対価だ」


サイラスは、しばらく沈黙し、計算していた。

食料。安全。そして、工場の探索権。

どれも今の疲弊した彼らには必要なものだ。

「……いい条件だ。アトラス、お前がそこまで譲歩するとはな」


だが、サイラスはそこで、ニヤリと笑った。

「だが、もう一つ。『足りないもの』がある」

「……なに?」

「『未来』だ」

サイラスは、洞穴の奥、数の少ない女性や子供たちの方へ視線をやった。

「我々の村は、女が少なすぎる(男女比7:3)。このままでは『種の保存』ができず、確実に滅びる。食料や協定で『今』を生き延びても、『次』がない」


サイラスは、アトラスに向き直り、冷酷な要求を突きつけた。

「お前たちの村(男女比半々)の『未婚の女性』を一人、こちらの村の『男』との『縁組』のために、『交流事業』として差し出せ」

「……!」

「それが、最後の条件だ。……それを飲むなら、今すぐ『信号』を上げてやる。お前のガキどもの命も、協定も、すべて成立だ」


アトラスは、一瞬だけ虚を突かれた顔をしたが、すぐにその『黄色い目』で冷徹な計算を走らせた。

(……デイヴを失い、戦力(生産)が落ちた今、このままでは村のバランスが崩れる)

(うちの村の男女比は半々。……対して、向こうは女が枯渇している)

(未婚の女を一人送り出し、向こうの資源(食料)と安全を買う。……それは『未来』を削ぐ行為に見えて、今の村の『生産と消費』の均衡を保つための、最も血を流さない『最適解』ではないか?)


アトラスは、サイラスの提案が、単なる『略奪』ではなく、互いの欠落を埋める『生存戦略』であると理解した。

「……(悪くない。……むしろ、渡りに船だ)」


「時間は無いぞ、アトラス。太陽が昇りきれば、もう手遅れかもしれん」

サイラスが、追い打ちをかける。


アトラスは、計算を終え、静かに答えた。

「……分かった。飲もう。……『縁組』の相手は、こちらで選定する」


「……交渉成立だ」

サイラスは満足げに頷くと、部下の一人に目配せをした。

部下が、赤黒い『発煙筒』を取り出し、洞穴の外へ向けて構える。


「……ただし、アトラス」

サイラスが、発煙筒の着火直前に、釘を刺す。

「『共同捜索』と言ったが……もし『代替品』が『一つ』しかなかったら、どうする?」

「……(アトラスは息を詰まらせる)……」

「……その時は、『現場』の判断だ」とサイラスが冷たく言う。「『ガキ』だろうが関係ない。『奪い合い』だ。……その条件でよければ、信号を送ろう」


アトラスは、ルカとトキの顔を思い浮かべ、その『地獄の条件』を、飲み込むしかなかった。

「……分かった。……『一つ』でなかったことを祈る」


シュボッ!

部下が発煙筒を空へ放つ。

赤黒い煙が、黄土色の空に高く昇り、遠く『工場』の方角へ向けて、『殺すな』という信号を伝えた。

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