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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第六章:あるいは、私という人間の『仕様(スペック)』

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第十三・五部(仮)- 2 『峠と生体(バイオ)工場』

優作が、あの『ゴミ溜め』で『フリーズ』して、二日目の朝が来た頃。

彼の意識が、自己嫌悪と汚物の匂いの中で『無』に沈んでいく、その裏側で。

ルカとトキは、既に『死線』の上にいた。


「……よし、行くよ」


夜明けの薄闇の中、二人の子供は『コンテナ・ツリー』を守る『井戸の木』の防風林を抜けた。

一歩、外に出た瞬間、空気が変わる。

村の『畑』がはぐくむ湿った『土』の匂いが消え、化学物質で汚染された『黄土色の砂』がき出しになった、本物の『砂漠』が広がっていた。

足元の砂はガラス質で、時折、旧文明の『プラスチックの残骸』が風化して混じっている。フィルター越しでも『鉄錆』の匂いが肺を刺した。


「うへぇ……やっぱそとは最悪! 早く帰って水浴びしたいよ!」 ルカが、わざと快活な声を上げる。弟の命が懸かったこの『自殺行為ミッション』の極度の恐怖を、その『おしゃべり』で隠しているのは明白だった。 「……喋るな。息がもったいない。『獣』に聞こえる。行くぞ」 先行するトキが、フードの奥から、冷たく言い放つ。彼は『沈黙』することで『恐怖』を殺していた。


二人は、言葉を交わさず、ひたすら歩き続けた。

『砂漠の峠』に差し掛かる手前で、トキが足を止めた。

「……来る」

「え?」

空が、急速に暗転する。

地平線の彼方から、ゴオオオオという地響きと共に、『黄土色の壁(砂嵐)』が迫っていた。ただの砂ではない。資源戦争時代に散布された『ナノマシン』の残骸や、化学兵器の『沈殿物』を含んだ、猛毒の嵐だ。


「来た! マスク装着! ロープ!」

トキの叫びと同時に、二人は即座に旧時代の『ガスマスク』を装着。互いの体を『ロープ』で結び、近くの『瓦礫(旧時代の車両の残骸)』の影に身を潜めた。

直後、『砂嵐』が二人を通過する。

視界はゼロ。ロープがなければ、互いを見失う。ガスマスクのフィルターが、ヒューヒューと悲鳴を上げた。

ルカは、暗闇と轟音ごうおんの中で、コウのことを考え、恐怖で震える手を、もう片方の手で必死に押さえつけていた。


どれほどの時間が経ったか。

嵐が過ぎ去り、二人は体力を消耗しつつも、峠を登り始めた。

頂上付近で、先行するトキが、音もなくルカの手を引いて岩陰に隠れる。

「……!」

トキが、フードの影から、峠の向こう側を指差す。


遠く(約1km先)、峠の『下り道』を、『敵対部族(洞穴の民)』の『回収チーム』(武装した4〜5人)が、こちらと『同じ方向(工場跡地)』に向かって歩いている。

「(息を殺して)……嘘でしょ、アイツら、なんで!?」

「……『定期便』だ。今日は、アイツらの『資源回収日』だった。……運が悪い」

トキは、冷徹に『事実』だけを告げる。


「どうすんの!? アイツらと鉢合(はちあわせたら、アタシたち、即死だよ!」

「……迂回(うかいする。こっちだ」

トキは、正規のルートを捨て、より危険な『獣道けものみち』(野生生物のテリトリー)を指差した。


日が傾きかけた頃。 二人は『敵対部族(洞穴の民)』から大きく迂回し、目的地である『リサイクル工場跡地』の高台(監視ポイント)に、うようにして到着した。 そこは、旧時代の『生物バイオプラント』の残骸だった。 巨大な培養ばいようタンクや、ガラス張りのドーム型実験棟が、半壊して『黄土色の砂』に埋もれている。


「……!」

ルカが、息をんだ。

「……トキ、アレ。一ヶ月前に『大人』たちと来た時、あんなの無かった」

ルカが指差す先。

工場跡地の『外壁』や、半壊したタンクの『影』に、不気味な『緑色のコケ(あるいは菌類)』が、広範囲にわたって『繁殖』し始めている。

それは、この『死の大地』には不釣り合いなほど、あざやかな『生命の色』だった。

トキは無言で、その『コケ』の異常な広がり方を警戒するようににらみつけている。


トキが、岩陰から『敵対部族』の動向をうかがう。

「……『洞穴の民』が、中央広場(中庭)に入った。……俺たちは、予定通り『地下変電室(野営地)』へ向かう。奴らに見つかるな」


二人は、高台を降り、工場の『外縁部』、あの『緑色のコケ』が生い茂る、崩れた『培養タンク』の残骸エリアを進む。

その時だった。


「シィィ!」 『コケ』に覆われた大地が突如として盛り上がり、まるで地中から這い出るかのように、体長2メートルの『ラピッド・リザード(大型トカゲ)』が、保護色のウロコを光らせて飛び出してきた! 「トキ!」 「ルカ、左! 陽動!」 「わかってるって! こっちだよ、バカトカゲ!」 ルカが叫び声を上げ、俊敏な動きでリザードの注意を引きつけ、その巨大な頭部がルカを追った、まさにその一瞬の隙を。 トキは見逃さなかった。彼はフードの奥で冷静に状況を判断し、腰のホルダーから、先端に鋭い金属片が取り付けられた『捕縛用ワイヤー』を引き抜く。 彼はそれを、むちのように鋭く振り抜き、リザードの前脚めがけて叩きつけた。 金属片がウロコの隙間に食い込み、ワイヤーが瞬時に脚に絡みつく。 「シィィ!」 リザードは予期ぬ拘束と痛みに一瞬怯ひるみ、体勢を崩した。 「今! 逃げるぞ!」 二人は、深追いすれば『確実に殺される』というルールに従い, 戦闘を継続せず、全力でその場から離脱し、近くの『地下変電室』への入りマンホールに飛び込んだ。


その同時時刻。

優作は、あの『ゴミ溜め』で『フリーズ』したまま、ルカたちが『緑のコケ』の異常や『敵対部族』の脅威に直面していることなど知らず、ただ『無』に浸っていた。

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