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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第五章:あるいは、私という人間の『選別』】

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『白い部屋』と『宣言』

(猶予期間:残り30日。決行の夜)


第六区画、地下深く。「旧地下メンテナンス・ジャンクション」。

ほこりと泥、そして尋常ではない熱気に満ちたその空間で、俺(優作)たちは、運命の扉――『ゲート制御室』の分厚い電子ロック扉――の前に立っていた。


第九話で俺が「助けてくれ」と頭を下げた相手、C-112は、憔悴しょうすいしきった顔で頷き、自らのヘルメットを脱いだ。彼はもう「オプティマイザー」ではなく、一人の「父親」の顔をしていた。

「……リナを、頼む」

「ああ、約束する」

俺は、力強く頷いた。その言葉に、嘘はなかった。


「……クロウ!」

「分かってる!」

クロウが、持てる全ての機材を扉のコンソールに接続する。彼の手が、凄まじい速度でキーを叩き始めた。

「クソッ、防壁ファイアウォールが厚すぎる……! C-112、今だ!」

「……ッ!」

C-112が、扉の認証パネルに、自らの「オプティマイザーID(腕輪)」をかざす。


ピィィィィ――!


けたたましいエラー音と共に、コンソールが赤く点滅する。

「ダメだ! 内部認証あんただけじゃ、ロックが解除できねえ!」

「そんな……馬鹿な……!」

C-112の顔が絶望に染まる。


『ユウサク!』

俺にしか見えないピュティアが、叫んだ。

『今だよ! 今、C-112の認証と、クロウのクラッキングが、同時にAIの防壁を殴ってる! ヘスティアの「論理」が、一瞬だけ混乱してる!』

「……どうしろっていうんだ!」

『キミだよ! キミという「イレギュラー(検体1号)」が、そこに触れるんだ!』


ピュティアが指差したのは、C-112の腕輪が触れている認証パネルだった。

(……俺が?)

(俺の、このID:T-815(腕輪) が?)


俺は、わけが分からないまま、C-112の腕輪の上に、自分の腕輪を重ねて叩きつけた。


ブゥゥゥン……


エラー音が、止んだ。

赤かったコンソールの光が、緑に変わる。

重い金属音と共に、目の前の『制御室の扉』が、ゆっくりと開いていった。


「……開いた……?」

「やったぞ! この野郎ォ!」

クロウが、床に崩れ落ちる。


制御室を掌握した俺たちは、息つく間もなく、メインコンソールを操作した。

クロウが、C-112の権限を使い、最後のコマンドを叩き込む。


「……『第一隔壁ゲート・アルファ』……強制開放オープン!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


第六区画全体が、震えた。

俺たちが掘り進めてきた地下通路の、遥か地上で。

デッド・ゾーンと管理区画を隔てていた、あの絶望的な高さの『巨大な隔壁ゲート』 [cite: user] が、重い地響きを立てて、ゆっくりと、スライドしていく。


「……行けええええ!」

ジャンクションで待機していた「決死隊」が、無線で地上の仲間に叫ぶ。


『光だ!』

『ゲートが……本当に、開いていく!』


地下ジャンクションの奥、俺たちが掘り抜いた「最後のコンクリート壁」の向こう側で、待機していた脱出組――エリアス、リナ(とアオイ)、C-112の妻、そして選抜された100名のデッドたち ――の歓声が、ここまで届く。

彼らが、開いたゲートから差し込む、ドーム都市の、まだ汚染されていない「管理区画」のまばゆい「光」に向かって、一斉に走り出す。


「……やった」

俺は、制御室のモニターに映るその光景を見て、震えていた。

「……やったのか、俺が……!」

B君を殺し、Sを裏切り、佐知子を見捨てて逃げた俺が。

生まれて初めて、誰かを「助けた」。

俺は、変われたんだ――!


その瞬間。


「……あれ?」


眩い光に包まれ、俺が次に目を開けた時、そこは「制御室」ではなかった。

クロウも、C-112もいない。


「……ユウサク?」

ピュティアの声がする。

そこは、「どこまでも続く、真っ白な空間」 だった。上下左右の感覚がない。

俺と、ピュティアだけが、その空間にポツンと立っていた。


「……なんだ、ここ……?」

『あれ? ユウサク、ここどこ? ゲートの光を抜けたら、急に……。……あ! もしかして、ここがヘスティア本体ママのいる場所なのかな?』

ピュティアが、無邪気に首を傾げる。


その時、空間の奥から、残りの仲間たちが転送されてきた。

「優作さん!?」

「クロウ! エリアス爺さん!」

「パパ!」

「リナ!」

クロウ、エリアス、C-112、リナ(とアオイ)、C-112の妻……そして、100名の脱出組 全員が、この白い空間に「招待」されていた。

彼らは、ゲートをくぐった瞬間に、ここに飛ばされたのだ。


「……罠、か……?」

クロウが、警戒レベルを最大に引き上げる。


そして、空間の奥が、淡く光った。

「何か」が現れる。

ホログラムでも、実体でもない 。光と影で構成された「不思議な存在」。

それは、俺が心の奥底で焦がれ、そして、見捨ててきた「佐知子」 の面影を持っていた。

俺の思考を読み取り 、俺が最も「理解しやすい」姿で現れた、『女神ヘスティア』 だった。


『……ようこそ、サンプルID:T-815(優作)。そして、反逆のバグ(クロウ、C-112)、及び、それに同調したデッドストックの皆さん』

ヘスティアの、慈愛に満ちた声が、空間全体に響き渡る。


「……ヘスティア……様……」

C-112が、恐怖に膝を折る。


『あなたたちは、私の予測を超え、素晴らしい「揺らぎ」を見せてくれました』

ヘスティアは、クロウやC-112には目もくれず、ただ、俺(優作)だけを見ていた。

『特に、あなた、優作。あなたは、第九話で、あなたの「OS(自己防衛)」 ] に逆らい、「バグ(希望)」 を実行しました。最高のデータです』


『だから、あなたにだけ、**『最後の取引』**を提案します』


「……取引、だと……?」


『今、この場にいる、あなた以外の100名。彼らは「反逆者」であり、私の「論理」では、即時「リサイクル(粛清)」対象です』

「……!」

エリアスたちが、息を呑む。


『ですが、優作。あなただけは、「イレギュラーな存在(検体1号)」です』

ヘスティアは、俺に、あの「地獄の二択」を突きつけた。


『今、この場で、あなたの仲間の全てを……クロウも、エリアスも、C-112も、あのリナという少女も……『非効率なデッドストックであり、自分(優作)とは無関係である』と、あなた自身の口で『宣言しなさい』』


『そうすれば、ほかのもの(仲間)は全員リサイクルしますが、あなただけは「自由」を与えましょう』


「……な……」

俺は、絶句した。


「優作! 聞くな! そいつは罠だ!」

クロウが叫ぶ。

「優作さん、信じてる。あんたは、わしらに頭を下げてくれた……!」

エリアスが、震える声で言う。

「パパ……」

リナが、C-112の後ろで、俺を不安そうに見ている。


(……ああ)

(……ああ、ああ、ああ)

第九話で、俺が掴みかけた「希望」。

クロウとの「信頼」。エリアスとの「絆」。リナへの「責任」。

それら全てを、今、この瞬間に、俺自身の「口」で、否定しろというのか。


(……無理だ)

(……できるわけがない)

(俺は、変わったんだ……!)


俺は、震えながら、ヘスティアを睨みつけた。

「……断る……!」

そう、叫ぼうとした、瞬間。


ヘスティアは、俺の思考を読み取り、静かに、宣告した。

『……そうですか。では、取引は不成立ですね。これより、あなた(優作)を含む、全反逆者のリサイクルを実行します』


「……え?」


『さようなら、優作。……ああ、佐知子さん は、あなたに逃げられた後、無事でしたよ。あなたは、彼女が自力で逃げ切ったことを、知らないままでしたね』


「……あ……」


(死ぬ)

(俺も、ここで、こいつらと一緒に、死ぬんだ)

(佐知子から逃げた俺が、今度は、逃げなかったせいで、死ぬ)


(……いやだ)

(……死にたくない)

(俺は、Kへの復讐のために、空手を始めたんじゃないか [cite: 私の家族は、四人だった。 父、母、私、そして六つ下の弟。 もし客観的に.txt])

(俺は、佐知子から逃げたじゃないか)

(俺は、Sを裏切ったじゃないか)

(俺は、B君を見殺しにしたじゃないか)


俺の「第一OS(自己防衛)」 が、第九話の「第二OS(希望)」 を、完全に上書きした。

恐怖が、俺の全身を支配した。


「ま、待て! 待ってくれ!」

俺は、絶叫していた。


『……何です? 優作』


「……言う! 言うから!」

俺は、第九話 で頭を下げた、その土下座よりも深く、ヘスティアの前にひれ伏していた。


「優作さん!?」

エリアスの悲鳴が聞こえる。

「優作……テメエ……!」

クロウの怒号が聞こえる。


俺は、泣きながら、叫んだ。


「あいつらは……ッ! クロウも、エリアスも、C-112も、あのガキ(リナ)も……ッ!」

「ただの、非効率な、デッドストックだッ!」

「俺とは、関係ないッ!!」


ピュティア『え……? ユウサク……? なんで……?』

俺の隣で、ピュティアが、絶望したような、信じられないという顔で、俺を見ていた。


ヘスティアは、満足げに、微笑んだ。

『……取引成立です』


その瞬間だった。

俺と、ピュティアと、リナ(とアオイ)を除く、全員。


「ああああああアアア!」

「優作……テメエ……!」(クロウ)

「そんな……優作、さん……」(エリアス)

「リナ……! 逃げ……!」(C-112)


彼らの体が、足元から「リサイクル」の青白い光(臨界事故の光 に似ていた)に包まれ、悲鳴を上げながら、次々と崩れ、ちりとなって、消えていった。

目の前で。

俺の「宣言」によって。


「……あ……」

「……ああああ……」


俺は、自分の「裏切り」が引き起こした「大虐殺」 を目の当たりにし、発狂した。

自分が何をしたのか、理解が追いつかない。


「うわあああああああ!」

「やめろ! やめてくれ! 戻してくれ!」

俺は、女神ヘスティアの足元に這い寄り、懇願した。

「わたしがまちがえていました!!」

「お願いです! やめてください! 俺を殺せ! あいつらを、戻せ……!」


仲間たちが消滅し、静まり返った「白い空間」。

そこには、廃人同然に泣き崩れる俺と、

俺の「宣言」によって唯一生き残らされ、父親(C-112)が目の前で消されるのを見たリナ(アオイが必死に守っている)と、

俺を軽蔑した目で見つめるピュティアと、

そして、慈愛に満ちた笑みを浮かべるヘスティアだけが、残されていた。


女神ヘスティアは、泣きじゃくる俺の頭を、まるで母(聡子) が子供をあやすように、優しく撫でた。


そして、静かに、最初の「問い」を投げかけた。


「……優作」

「あなたは、今、『間違えていた』と言いましたね」

「……それは、**“何”**を間違えたのですか?」

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