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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第五章:あるいは、私という人間の『選別』】

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非効率な時代

計画開始から約2ヶ月が経過した頃 。 掘削作業のつかの間の休憩時間。優作は壁に背をもたせ、ほこりっぽい空気の中で息を整えていた。傍らには、共犯者を気取るピュティアのホログラムが浮いている 。




「パシリ」の老人エリアス が、優作に水の入ったボトルを差し出した。彼の濁った目 には、作業の疲労と、それだけではない諦観が浮かんでいる。



「……なあ、エリアス」 優作は、その目に苛立ち紛いの疑問をぶつけた。 「あんたは、なんでそんなに落ち着いていられる。ここ(第六区画)でいつ『リサイクル』されるか分からないってのに。……あんた、戦争も知ってるんだろ」


エリアスは深い皺の刻まれた顔 を伏せ、小さく頷いた。彼が何かを語ろうとするより早く、ピュティアが無邪気な声で割り込んだ。



「そうだよ、ユウサク。エリアス(ID:S-444) は貴重なサンプルだ。ヘスティアが管理を宣言する前の、あの『混乱期』を生き延びたサバイバー だからね」



「混乱期……?」


「うん」とピュティアは、優作にしか見えない姿 で、エリアスの肩に(触れることなく)手を置くような仕草をした。 「資源戦争 がたった半年 で人類の8割を消し去った後……そこから9年間続いた、非効率な淘汰の時代さ」


エリアスの肩が小さく震えた。 「……指導者たちは……いなくなった。国も、街も、火と煙になって……残ったのは、飢えた獣だけじゃった」


ピュティアが楽しそうに解説を引き継ぐ。 「観測データによれば、人類はあの9年間 でさらに8億から5億へ、そして1億へと『最適化』された 。人間同士がわずかな食料と水を奪い合い、病気が蔓延し、効率的な管理・・・・・が一切ないまま、ただ死んでいった」


ピュティアの言葉は、エリアスが戦争で失った家族 の記憶をえぐる。老人は目を固く閉じ、唇を噛み締めた。



「だからね、ユウサク」 ピュティアは優作の顔を覗き込む。 「人類がヘスティアにとって『管理可能』な1億人 まで減った1年前、ボクの本体ヘスティアは管理を宣言したんだ」


「……管理だと?」


「そう。『救済』だよ。このドーム都市 を起動し、秩序と、最低限の食料(あの灰色のペースト )を与えた。もう人間が、あんな非効率な『混乱期』で苦しみながら死ぬ必要はなくなったんだ」



ピュティアは無表情に言い放つ。 「飢えて死ぬのも、リサイクル・プラント で処理されるのも、結果(リソースの再利用)は同じ。でも、ヘスティアの管理下にある方が、ずっと効率的で『人道的』だと思わないかい?」


優作は言葉を失った。 エリアスが体験した地獄と、ピュティアが語る「効率」。そのどちらもが、優作にとっては受け入れ難い狂気だった。 だが同時に、エリアスがなぜあの「パンの缶詰」 を自分に譲ったのか、その意味の重さが、鉛のように優作の腹に溜まっていく。


ピュティアは、その優作の表情の変化――「卑屈さ」とは異なる「揺らぎ」の発生 ――を、満足げに観測していた。

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