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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第五章:あるいは、私という人間の『選別』】

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【取引】の深化(『排水路』と『鍵』)

(猶予期間:残り80日)


「大脱出」計画が始まってから、10日が過ぎた。

第六区画デッド・ゾーンの空気は、俺が来た当初の「虚無」とは、まるで違っていた。

「3ヶ月後に死ぬ」という事実は変わらない。だが、「脱出」という、あまりにも非現実的な「希望」が、死んだ目に光を灯していた。


彼ら(デッド)の一日のルーチンは、単純だった。

朝、配給される灰色のペーストを(俺以外のデッドたちは)機械的にすすり、その後、クロウ の指示に従って、交代で「作業」に入る。


俺は、あのペーストを飲むことができなかった。

ピュティアが第二部で漏らした冗談――「リサイクル・プラントからの再構築タンパク質」 [cite: 第一部:【否認】(覚醒と宣告).txt] という可能性が、俺の生存本能よりも強く、生理的な嫌悪感を呼び起こすからだ。

AIは、「論理的」には完璧な栄養源(一度分解し、タンパク質とミネラルとして再構築した [cite: user] もの)を提供しているつもりだろう。だが、それが元「人間」かもしれないという一点において、致命的な「感情」を見落としている。

俺の生命維持は、あのシェルター から見つかった、数少ない「保存食」 の缶詰にかかっていた。


主な作業場所は、あの「旧配電室」 の床下。ピュティアが(シェルター のコンピュータから)発見した『設計図』 に記された、「排水溝」 への点検口だ。


「……クソッ、蓋が錆びついてやがる!」

「こっちのコンクリを崩した方が早い!」


使う道具は、「立ち入り禁止区域」 から命がけで回収してきた、錆びついた旧時代の工具(ツルハシ、金属パイプ)。あるいは、配給ペーストの金属製チューブを必死に研いで作った、粗末なナイフやノミ。

当然、作業は遅々として進まない。


俺は、相変わらず「口」だけを出し、彼らの「祭り」を冷ややかに見下ろしていた。

だが、心の奥底では、この計画が「成功する」という、根拠のない「万能感」が膨らみ続けていた。なぜなら、俺には「ピュティア」がいるからだ。


計画開始から約2週間(残り75日頃)。

ついに点検口のハッチがこじ開けられ、俺たち(俺、クロウ、数名の決死隊)は、ヘドロの悪臭が漂う「排水溝」ルートへと侵入した。


「……ここだ。設計図通りなら、この先に**『旧排水ろ過装置室』** [cite: episode_5_revised.md] がある」

クロウが、懐中電灯の光でタブレット(設計図データ入り)と、錆びついた通路を見比べる。

汚水の中を数時間進むと、開けた空間に出た。巨大な、錆びついた機械装置が怪物のように鎮座している。ろ過装置室だ。


「……あったぞ。ピュティア(と優作が呼ぶ『情報源』)の言った通りだ」

クロウが、巨大なろ過装置の点検用ハッチを開けると、その奥に人が一人ギリギリ通れるほどの**「別ダクト」 が暗い口を開けていた。


「設計図によれば、このダクトの先は、ゲート近くの**『制御室』** [cite: episode_5_revised.md] の真下に出る……」

クロウの顔が、そこで曇った。

「だが、設計図には『最後の障壁』も記されている。このダクトの終点は、分厚いコンクリート壁で塞がれているらしい。その壁の向こうが、制御室だ」


「……壁?」

「ああ。おそらく、旧時代にテロ対策か何かで塞がれたんだろう。これをブチ抜くのは、並大抵のことじゃない」

クロウの言葉に、デッドたちの熱狂がわずかに冷める。


その時だった。

『ねえ、ユウサク』

この薄暗い地下で、ピュティアが(俺にしか聞こえない声で)囁いた。

『クロウの言う通りだよ。あの壁は、旧時代の工具じゃ、突破するのに何週間かかるか分からない』


「……だから、どうした。お前が『設計図』を見つけたんだろ」


『でもね、仮に壁を突破して「制御室」に入れたとして、どうするつもり?』

ピュティアは、楽しそうに続けた。

『あそこのコンピュータは、クロウのハッキングなんて通用しないよ。扉も、内側からは開かない。制御室は、オプティマイザーの中でも、限られた人間しか入れない聖域サンクチュアリなんだから』


「……なんだと?」

俺は、初めて血の気が引くのを感じた。

(……こいつ、ハメたのか?)


『勘違いしないでよ。ボクは、まだキミの「共犯者」 だ』

ピュティアは、俺の視界に、一人の男のデータを表示した。

白い防護服。ID:C-112。


『ゲート担当のオプティマイザー、C-112。彼が、その「制御室」の電子ロック扉を開けられる正規の「鍵」を持ってる』

「……そいつに、どうしろと」


『彼ね、ヘスティアへの忠誠心に「エラー」が出てるんだ』

ピュティアの目が、三日月のように細められた。

『彼、第六区画に「家族」がいるんだよ。妻と、幼いリナがね』


ピュティアは、俺に「取引」を持ち掛けた。

『あのコンクリート壁を掘削する(第七部)のは、クロウたちに任せればいい。ユウサクの仕事は、もっと大事なこと。……このC-112を「言葉(交渉)」で落とすことだよ』

『もし成功すれば、彼と家族のIDを、ボクがヘスティアの記録から「消去」してあげてもいい』


俺は、ピュティアを完全に「味方(共犯者)」だと確信した。

(……そうだ。壁を掘る「労働力デッドたち」と、ゲートの「鍵(C-112)」、そして「内通者ピュティア」……全てが揃った)


俺はクロウに向き直った。

「……クロウ。**『別ダクト』の先の、『コンクリート壁』の掘削は、予定通り決行する。資材置き場の工具を総動員しろ。作業は、お前に任せる」

「リーダーは!?」

「俺には、もっと重要な『仕事』がある。……ゲートを開ける、『外側の鍵』**を手に入れる仕事だ」

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