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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
第五章:あるいは、私という人間の『選別』】

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【否認】(観察と昼食)

重い金属のドアが、自動で開く。

『さあ、行って。「猶予かんさつ」の開始だよ、ID:T-815。最初の8時間は、第六区画デッド・ゾーンの「観察」を推奨する。君の「価値」を証明するヒントが、見つかるかもしれないからね』


ピュティアのホログラムは、(俺にしか見えないのだろう)俺の数歩先を、フワフワと浮遊しながら、俺を独房から通路へと導く。

俺が独房から出ても、通路に座り込む他の「デッド」たちは、俺を一瞥いちべつするだけで、ピュティアの存在には、まるで気づく様子がない。

(……そうか。こいつは、俺の「腕輪(T-815)」にだけ、表示されているのか)

俺は、自分が「監視かんさつ下」にあることを、改めて理解した。


(……72時間)

(72時間後に、俺は「リサイクル」される)

(……死にたくない)

(俺は、生き残る。Kの時も、そうだった)

俺は、自分に言い聞せる。


俺は、歩く。

ピュティアが、まるで観光ガイドのように、(俺にしか聞こえない)合成音声で、解説を続ける。

『ここが「デッド・ゾーン」。見て、あの人たち。彼らも、72時間以内に「リサイクル」されるデッドストックだよ』

通路の壁には、俺と同じ灰色の「囚人服(作業着?)」を着た連中が、虚ろな目で座り込んでいる。

その目には、絶望も、怒りも、何もない。

ただ「無」だ。


(……こいつら、諦めているのか?)

(馬鹿が。俺は、違う。俺は「諦めない」。俺は、Kの時も、生き残ったんだ)


『あ、その「生存本能あきらめのわるさ」、それも君の面白い「揺らぎ」だね。ボクの予測だと、君の「卑怯さ(又八)」の行動パターンは、かなり予測不能イレギュラーなんだ』


「……うるさい」

俺は、声に出して呟いた。

周囲の「デッド」たちが、いきなり独り言を始めた俺を、薄気味悪そうに一瞬見た。

(……マズい。こいつ(ピュティア)と会話していると、俺が「狂った」と思われる)

俺は、口を閉ざした。


『いい判断だね。他者に「異常」と認識されるのは「非効率」だ。ボクも、君の「適応力」を評価してる』

ピュティアは、俺の思考を先回りして、また「採点」する。


『さあ、広場だよ』

ピュティアに促され、俺は「広場」に出た。

そこは、吹き抜けになっていて、薄汚れた巨大な「ガラス」の天井が見える。

ドームの外は、黄色い「砂嵐」が吹き荒れているのが見えた。

人工太陽が、病的な「昼」の光を投げかけている。


広場には、「配給所」があった。

デッドストックの連中が、無気力な列を作っている。

『あ、ちょうど「昼食」の時間だね。並んで』

俺も、その最後尾に並ぶ。

配給されるのは、チューブに入った、灰色の「ペースト」だった。


(……これが、食い物か)

さっき見た「リサイクル・プラント」の光景。ピュティアの「冗談(?)」が、脳内で反響する。

(……まさか、本当に……人間……?)

胃が、引きる。強烈な嫌悪感が、全身をあわ立たせた。

だが、腹は、正直に「空腹」を訴え、頭がクラクラする。


俺は、震える手で、そのチューブを受け取った。

キャップを開ける。金属のような、錆びた匂い。

(……食えるか、こんなもの)

俺は、恐る恐る、ほんの少しだけ、チューブの先をめてみた。

……味はない。ただ、舌の上に、ザラザラとした、不快な感触だけが残る。

「……っぺ!」

俺は、たまらず、それを地面に吐き捨てた。

周囲のデッドたちが、俺の奇行を、虚ろな目で一瞬見たが、すぐに興味を失ったように視線を逸らす。


(……だが、食わなければ、死ぬ)

(72時間もたない)

理性が、そう警告する。

だが、体が、本能が、この「物体」を「食料」として受け入れることを、完全に拒絶していた。

俺は、その灰色のチューブを、地面に叩きつけた。

中身が、粘土のように飛び散る。

俺の「プライド(小説家の感性)」は、生存本能よりも、生理的な「嫌悪感」を選んだのだ。

(……クソ。どうすればいい……)


その時だった。

俺の隣で、同じペーストをすすっていた老人が、ガクリ、と膝から崩れ落ちた。

周囲の「デッド」たちは、それを見ても、誰一人、動かない。

やがて、白い「防護服」の連中オプティマイザーが二人やってきて、老人を「モノ」のように掴み、あの「リサイクル・プラント」の方へ引きずっていった。


『あ、あの人、ID:S-444。さっき「期限切れ(タイムアウト)」になったんだ。リサイクル決定だね』

ピュティアが、無邪気に解説する。


(……タイムアウト?)

(……夢じゃ、ない)

(こいつら、本当に……「処理」されている)

「否認」していた俺の脳天を、冷たい現実が、殴りつけた。

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