表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
【第四章:あるいは、私という人間の『虫』】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/104

臨界(クライマックス)①

そして、あの日が、来た。

サークルの帰り道。時刻は、夜九時。

夜勤の時間(十時)まで、まだ余裕があった。

私は、駅まで『佐知子』と並んで歩いていた。

彼女の「助け」を求める視線から、どうやって「逃げる」か。その「批評」と「言い訳」だけを、私は必死で考えていた。


角を曲がった、その時だった。

電柱の影に、一人の男が立っていた。

男は、佐知子を見るなり、舌打ちをして、こちらに近づいてきた。

「おい。こんな時間まで、どこの男と遊んでやがるんだ」

酒の匂い。濁った目。

——元夫だ。


佐知子が「ひっ」と、小さな悲鳴を上げ、私の腕を、無意識に掴んだ。

男は、私を睨みつけた。

「あ? なんだテメエは。こいつの新しい『男』か?」


……Kだ。

体格は違う。顔も違う。

だが、その「理不尽な暴力」の匂いは、高校時代に私を泥水に踏みつけた、あのKと、全く同じだった。


男が、私に一歩、詰め寄る。

佐知子が、私の腕を掴む力(助けて)が、強くなる。


私の脳裏に、高校時代の「選択」が蘇る。

B君を殺した、あの日の教室。

Sを裏切った、あの日の放課後。

F子の消しゴム。


(……どうする?)


私の足は、動いた。

「空手」のステップではない。

Kに頭を踏まれ、自殺を決意した、あの日の「逃避」でもない。

もっと、単純な。

中学時代、Cに裏切られ、万引きGメンに捕まった時の、あの「逃走」の動きだった。


私は、佐知子が掴んでいた腕を、振り払った。

「え……?」

佐知子の、絶望した顔が見えた。


「……し、知らない人です!」

私は、男(元夫)に向かって、そう叫んだ。

「俺は、関係ない! 俺は、何も知らない!」


私は、彼女を、その場に置き去りにして、全力で、走った。

背後で「待てコラ!」という男の怒声と、佐知子の小さな悲鳴が聞こえた気がしたが、私は、振り返らなかった。


(……無理だ)

(俺には関係ない)

(俺が関わっても、ロクなことにならない)

(俺は『卑怯者』だ。彼女も、俺がそういう人間だと知るべきだったんだ)

(俺は、虫だ。虫は、人間を助けない)


私は、走った。

走って、走って、工場の更衣室に転がり込んだ。

心臓が、破裂しそうだった。

自己嫌悪で、吐き気がした。


(……ああ、まただ)

(俺は、40になっても、また、逃げた)

(B君、S、そして、佐知子……)


自己嫌悪でボロボロになった精神状態で、私は、夜勤の作業着に着替えた。

ここが、俺の「甲羅」だ。

ここが、俺の「墓場」だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ