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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
【第四章:あるいは、私という人間の『虫』】

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『虫』の着地点と、『佐知子』

三十代。

私は、正社員(人間関係)という「戦場」から、完全に逃亡した。

「工場の夜勤アルバイト」。

人間とのコミュニケーションを最小限にできる場所。

カフカのグレゴールが、部屋の隅に落ち着いたように、私は、この「無機質な場所」に、ようやく安息を見出した。


私の社会との接点は、二つだけになった。

「月一」の空手の「確認作業(サンドバッグ蹴り)」。

そして、唯一のプライドである「小説家サークル」。


そして、四十歳になった。

サークルには、相変わらず『鈴木』(私の「批評」の的である、あのデビューした女)がいた。

「佐藤さん、まだ、あの『傑作』書いてるんですか?」

彼女の軽薄な笑顔に、私は「お前のような駄文とは違うんでね」と、心の中で(あるいは、口の端で)吐き捨てる。


そして、その頃、もう一人、新しい女性が入ってきた。

『佐知子』(仮名)と、名乗った。

私と同じ、四十歳前後。

だが、彼女は、いつも何かに怯えていた。

どこか幸が薄く、その笑顔は、常に引きつっていた。


サークルの飲み会で、私は、鈴木への「批評」を終えた後、その『佐知子』と、偶然、二人きりになった。

彼女は、ポツリ、ポツリと、自分のことを語り始めた。

「……離婚、したんです」

「……夫の、暴力が、原因で」

「……今も、時々、家の近くを、うろついているみたいで……怖いんです」


(暴力)

その単語を聞いた瞬間、私の脳裏に、Kの顔がフラッシュバックした。


彼女は、何かを懇願こんがんするように、私を見つめていた。

(……まさか)

(俺に、助けてほしいのか?)

彼女の視線は、そう言っていた。


彼女は、私が、このサークルで「口だけ」で「卑屈」な男だと、まだ知らない。

彼女は、私が、かつて「空手」をかじっていたことなど、知る由もない。

彼女は、私を「普通の男」だと誤解し、その「助け」を求める視線を、向けてきたのだ。

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