仕事での『小さな成功』と『没落』
二重の鎧をまとった私は、社会に出た。
最初の事務機器会社は、例の「批評癖」で半年もたずにクビになった。
私は、転職を繰り返した。
(俺は悪くない。周りが愚かなんだ)
そう、いつものように「批評」しながら。
二十代半ば。五社目だったか。
小さなWeb制作会社に潜り込んだ時、一度だけ、転機が訪れた。
その会社の社長(四十代の、人の良さそうな男だった)が、私の「ひねくれた視点」を、なぜか「面白い」と評価したのだ。
会議の席で、私は、いつものように他人の企画の「アラ」を指摘した。
「そのデザイン、古いです。ターゲット層に響かない。私なら、もっとミニマルな構成にしますね」
周囲が凍りつく中、社長だけが「ほう。佐藤くん(私)、分かってるな!」と手を叩いた。
高校時代の、あの「作文の賞」の再来だった。
私は、高揚した。
(キタ。やはり俺は『批評家』として正しかったんだ)
私は、調子に乗って、口先だけで「改善案」を語り続けた。
そして、社長は言った。
「じゃあ、その素晴らしい企画、君がリーダーで実行してくれ。期待してるぞ」
……私は、凍り付いた。
B君を見捨てた時と同じ、冷たい汗が背中を伝った。
(リーダー? 実行?)
私に、企画書の書き方など分かるはずがない。
私に、他人(部下)への指示の出し方など、分かるはずがない。
私は「批評」したいのであって、「実行」したいのではないのだ。
結果は、惨憺たるものだった。
プロジェクトは炎上した。
私は、B君やSにしたのと同じように、失敗の責任を「部下が無能だからだ」「上司(社長)のサポートがないからだ」と、**口先だけで「批評(責任転嫁)」**し続けた。
私は「口だけの詐欺師」というレッテルを貼られ、その職場を追われた。
(……ああ、まただ。俺は、実行できない)
(俺は、Kを倒した『暴力』も捨て、今また、唯一の武器だと思っていた『批評』も、実務(現実)の前では無力だと証明されてしまった……)




