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『異世界人間失格 ~スキル【批評】持ちの独白~』  作者: 猫寿司
【第四章:あるいは、私という人間の『虫』】

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(二重の『鎧』)

高校を卒業する時、私の手元には、三つの「武器」が残った。

「最底辺」の卒業証書。

「小説(感性)」という名の、ひねくれたプライド。

そして、「空手(暴力)」という名の、他人を屈服させる技術。


私は、逃げるように実家を出た。あの、学のない父と、短慮な母から、物理的に距離を取った。

ボロアパートでの一人暮らし。

私は、あのKを屈服させた「空手」を、辞めなかった。いや、「辞められなかった」。


Kを倒した「暴力」への自己嫌悪は、確かにあった。

だが、それ以上に、「Kに頭を踏みつけられた、あの泥水の恐怖」が、私の骨の髄まで染み付いていた。

あの「無防備な卑屈さ」に、もう二度と戻りたくなかった。


だから、私は、あの「道場」との繋がりだけは、捨てなかった。


ただし、私の空手は「変質」した。

高校三年の時のような、自殺願願からくる狂気じみた「熱」は、もうない。

私は、道場の「組手」や「試合」といった、他人と過剰に関わるもの一切から逃げた。

(どうせ、俺には向いていない)

(俺は、ヒーローになどなれない)


私は、道場の「幽霊部員」になった。

社会人になってからも、週に一度、あるいは「月一」でも、必ず道場の隅に行き、誰とも目を合わせず、サンドバッグだけを黙々と蹴り続けた。

Kの太ももを砕いた、あのローキックの「感触」だけを、忘れないために。


それは「鍛錬」ではなかった。

それは、カフカの虫が、自分の硬い「甲羅」を磨き続けるような、陰鬱で、孤独な「確認作業」だった。

俺にとって「空手(肉体)」と「小説(精神)」は、他人を拒絶し、社会から身を守るための、**二重の「鎧」**になったのだ。

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