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魔女の呪いと竜の骨  作者: 碧衣 奈美


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04.妹

 書庫で魔法書をめくっていたアートレイドは、外が騒がしいことに気付いた。

 怒鳴っているようにも思える声に、アートレイドは本を棚に戻して外へ出る。

「待って。何かの間違いよ」

「いーや、わしらはしっかり聞いたぞ。はっきりと、人間の言葉をしゃべってたんだからな」

「こっちの方へ走って行くのを、確かに見たぞ」

 まさかと思いながら、アートレイドは数人の村人達に迫られているフローゼの方へ向かう。

「フローゼ、どうしたんだ?」

「あ、アート……」

「何だ、お前。見かけない顔だな」

 村人達のアートレイドに向ける視線は、うさん臭い人間に向けるような冷たいものだった。

「俺はアートレイド。魔法使いネイロスさんに用があって、ここに滞在させてもらってるんだ」

「ネイロスに用ってことは、お前も魔法使いなのか?」

 とげのある村人の言い方が気になりながらも、アートレイドはうなずいた。

「ああ、そうだ」

「それじゃあ、あの魔物はお前が連れて来たのかっ」

 村人達の気配が、ますます剣呑になる。

「魔物?」

 その言葉を聞いて、フローゼを襲った魔物が村まで追って来たのか、と思った。

 だが、次の言葉で取り消される。

「しゃべる黒ねこだ。お前があの魔物を村へ引き込んだのか」

「シェイナは魔物じゃないっ!」

 アートレイドが思わず言い返した言葉に、村人は一瞬きょとんとなる。だが、すぐに険しい表情に戻った。

「やっぱり、お前が連れて来たのかっ」

「ねこがしゃべったんだぞ。あれが魔物でなくて、何なんだ」

「この村を、魔物のエサ場にするつもりか」

「何が目的だっ。ネイロスに会いに来ただと? あの魔法使いを喰うつもりか」

 村人達が、次々に怒声をアートレイドに浴びせる。

「言えよ。あの化けねこは、お前が連れて来たんだろう」

 自分とあまり変わらないであろう若い村人のその言葉に、黙って聞いていたアートレイドがキレた。

「もう一度言ってみろっ」

 化けねこと言った村人の胸ぐらを、アートレイドが掴む。

「シェイナが化けねこだと? ふざけんなっ。あいつは俺の妹だっ」

 その言葉に、誰もが呆然となる。

「い、妹? お前、冗談もたいがいに……」

「冗談なんかじゃない。魔女に呪いをかけられた、正真正銘の妹だ!」

 アートレイドの気迫に、誰もが言葉を失った時。

「アート! もういい。ごめん、あたしが悪いの。しゃべっちゃったから。ごめん」

 小さな黒ねこがどこからともなく飛び出し、村人を掴むアートレイドの腕にしがみつく。

 明らかにしゃべっている黒ねこを見て、村人達は顔を引きつらせて数歩後ずさった。

 村人の胸ぐらを掴んでいたアートレイドの力が抜け、その村人も数歩下がる。

 フローゼもあまりの状況に目を丸くし、人と黒ねこの兄妹を見ていた。

「ここへ来る時に話していた妹って、シェイナのことだったの? アートと同じように、魔法使いだって」

「ああ。三つ下の妹なんだ」

 腕にしがみつくシェイナの首をひょいと掴み、アートレイドは黒ねこを抱き直した。

「フローゼ、ネイロスさんが戻って来た頃に、改めて来るよ」

 アートレイドの言葉に、フローゼがきょとんとする。

「え? どうして? ここで待っていればいいじゃない。どんなに遅くても、明後日には戻るはずなんだし」

「疑われたままじゃ、落ち着いてここにいられないよ。フローゼにも迷惑をかけるから」

 村人達は「妹なんて信じられるか」と、こそこそ話している。疑いの目はそのままだ。嘘をつくならもっとましなものにしろ、という声も聞こえる。

 今は後ずさっている村人だが、黒ねこがはっきりしゃべっているのを目の前で見て驚いているのと、魔法使いがそばにいることでかなり警戒しているのだ。

 少し落ち着けば、アートレイドの目を盗んでシェイナに危害を加えようとしないとも限らない。

「私は疑ってないわ。迷惑とも思わない。だから、ここにいればいいのよ、アート」

「フローゼ……」

 思いがけなくきっぱり言われ、アートレイドの心がわずかに揺らぐ。

「フローゼ、そいつに騙されてるかも知れないんだぞ」

 アートレイドをこの家に滞在させるらしいとわかり、村人は「忠告」という形で不快感を表す。

「このふたりは、私が魔物に襲われているところを助けてくれたのよ。そんな人達が、悪い人のはずないじゃない」

 自分より年上の村人達に、フローゼははっきりと言い切る。

 一方で、村人達は彼女が「魔物に襲われた」と言った点に、再びざわめき出した。

「そいつが魔物を呼び出して、助けたふりをしてるんじゃないのか」

「何ですって! どうしてあたし達が魔物なんか呼び出さなきゃなんないのよ。退治することはあっても、呼び出したりなんてしないわよっ! ねこにされた女の子の気持ちなんて、あんた達にわかんないでしょ」

 毛を逆立てて怒るシェイナの頭を、アートレイドの大きな手が掴む。

「お前がそうやってわめくから、騒ぎが大きくなるんだろ。少しは学習してくれ」

 顔をがっつり掴まれ、もがくシェイナには構わず、アートレイドはフローゼに向き直った。

「ありがとう、フローゼ。やっぱり離れた方がよさそうだ。これ以上騒ぎが大きくなると、やっぱり迷惑になるから」

「でも……。みんな、アートとシェイナに謝るべきよ。私を助けるふりをして、このふたりに何の得があるって言うの? 彼らの事情も知らずに疑ってばかりで、大人げないわ。ちゃんと話は最後まで聞くべきよ」

 そうは言われても、村人としてはしゃべる黒ねこなんて不気味なだけだ。

 言葉をしゃべる獣なんて魔物にしか思えないし、魔物というものは人間に悪さをするか喰う、というイメージしかない。

 それに、いくらアートレイドが黒ねこを自分の妹だと言い張っても、間違いなくそうである、と証明するものはないのだ。

 そう、口では何とでも言えるから。

「何の騒ぎだね?」

 それまでなかった声に、誰もがそちらを向く。

「おじいちゃん!」

 フローゼが驚きの声をあげる。

 声をかけたのは、短い白髪の老人だった。小柄だが、背筋がしゃんと伸びているので、弱々しい雰囲気は見受けられない。

 夕闇のような紫の瞳が、アートレイドへ向けられた。だが、そこに不信感のようなものはない。

「客人かな?」

「アートレイドと言います。あなたが、魔法使いネイロスさんですか」

「いかにも。わしがネイロスだ。こちらは、魔法使いユーリオン」

 ネイロスの後ろには、中年の男性がいた。ひょろりとして背が高く、長い薄茶の髪を背中でゆったりとまとめている。

 彼が、フローゼの義理の父なのだろう。穏やかそうな人だ。

「おじいちゃん、お父さん。戻るのは、明日か明後日じゃなかったの」

 娘の言葉に、ユーリオンが笑う。

「フローゼを一人にしておくのは、やはり心配だからね。早く用事を済ませて来たんだよ。それにしても、珍しいことだね。みんながこんなにぴりぴりしているなんて。ぼくがこの村へ来て以来、初めてじゃないかな」

 アートレイドの前には数人の村人がいるが、この様子を離れた場所で見ている村人もたくさんいる。どうなるのか、となりゆきを見守っているのだ。

 誰もが緊張感を持っているので、場の空気は穏やかさとは対極にある。

「ネイロス、この男がその黒ねこを自分の妹だ、なんて言うんだ」

「さっきしゃべっていたし、みんなは魔物じゃないかって」

「ほう、ねこが妹と?」

 ここでネイロスがシェイナを魔物と断定すれば、魔法使いが黒ねこを葬ってくれるだろう。

 黒ねこと一緒にいる魔法使いの男をどうするかはわからないが、隣にはユーリオンもいる。何か仕掛けてきたとしても、二対一で少年が勝てるとは到底思えない。

 村人にすれば、これで安心できるというものだ。

「俺の妹で、シェイナです。魔女に変化(へんげ)の術をかけられていて……解く方法を探しています。あなたなら知っているのでは、と街で言われ、訪ねて来ました」

 アートレイドは、シェイナの顔がネイロスへ向くように抱き直した。その顔を、ネイロスはじっと見詰める。

「む……これはかなり強い力でかけられているな」

 ネイロスの言葉に、村人は「え?」となる。自分達の予想と違う展開だ。

 てっきり「これは魔物だ」という言葉が、ネイロスから出ると思ったのに。

「そうですね。これだけの力となると、人間ではない者の仕業……ああ、魔女って言ったね。さすがに、生半可な力じゃないな」

 ネイロスに続いて、ユーリオンもシェイナの顔を覗き込み、難しい顔でうなずく。

「あの、つまり……その黒ねこは、本当に人間ってことに……?」

 ネイロスだけでなく、ユーリオンも認めた。

 二人の魔法使いが「人間だ」と言うのに、素人の村人達が違うとは言えない。

「そのようだ。言葉が話せるなら、幸い意思疎通ができるということだな」

「時々、災いに転じてますけどね」

 アートレイドは、ぽふっとシェイナの頭を軽く叩く。これまでにも、今と似たような状況があったことをうかがわせた。

「みんな、アートに言うべきことは……わかってるわよね?」

 フローゼに強い口調で言われ、村人達はみんな気まずい表情になったのだった。

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