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曇天  作者: ミツメ
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叱責

 【ビュベロファミリー】を支えている資金源は帝国のクロプア家から得る莫大な支援金と、キカ国に与えられた金鉱脈の採掘権が基盤となっている。

 クロプア家から莫大な資金を得られる理由は『シゼ』の栽培を【ビュベロファミリー】がキカ国を仲介して行っているためであり、キカ国が抱える3つしかない金鉱脈のうち一つを手に入れられたのは『シゼ』の栽培を【ビュベロファミリー】が請け負っているからだった。


 つまりファミリーを支える二つの資金源はどちらとも危険薬物である『シゼ』の栽培が元となっていた。それに、【ビュベロファミリー】がキカ国で好き勝手やれているのは、キカ国が帝国クロプア家と懇意の仲でないとそれ以上に国が荒れ果ててしまうからという貴族達の共通認識からだった。


 【ザスベヌファミリー】に禁忌と呼ばれる御法度は三つあり、同士討ち、薬物、常民殺害。

 スラムで育ったラュートは、仲間が傷つくのも、薬物で街が死んでいくのも、暴力で支配されるのも嫌いだった。当初はこの禁忌を破った者に強い制裁を与えていたが、ファミリーが大きくなり末端まで意識が向けられなくなるといつのまにか禁忌の意識は薄くなっていった。


 それでも初期からいるメンバーや、秩序を担当するヤーモスなどはこの禁忌の教えを強く守っていた。


 ビュベロは現在の構成員の中では古株に該当するが、幹部の中では比較的最近になって参加したメンバーだった。利益を求め、古臭い慣習を嫌う振る舞いはこれまでのやり方に不満を持ってきた血の気の多い者達に好かれ、あっという間に一大派閥を作り上げることになった。

『大聖堂襲撃』での献身的な活躍と『バイセバルト抗争』での特攻が評価されラュートの直々の部下となった。


 ボス代理を選ぶ今回の騒動で、ビュベロは自分に好機が訪れたのだと歓喜した。これまでは、ラュートの手前古参メンバーに楯突くことは難しく、そんな役回りばかりさせられてきた。

 しかし、ラュートの目が無くなった瞬間その煩わしさから解放される。それにラュートは実力主義者だ。


 これまで古株を切り捨ててきた場面は何度も見てきている。目の上のたんこぶである古参幹部さえ退けば、こそこそ『シゼ』を栽培しそれを直接取引するのではなく、金鉱脈や支援金という形で受け取る必要がなくなる。

 直接クロプア家と取引出来るようになれば、帝国貴族との繋がりが強くなり万が一の場合が起こっても脅す手段を手に入れられる。それに、キカ国の実権を【ビュベロファミリー】が握ることだって出来るだろう。


 ラュートにも出来なかった、国家掌握を自分がやってみせるのだ。ビュベロの野心はメラメラと滾っていた。

 そのためには、とビュベロは眼光を鋭くさせて立ち上がる。


「おい、サラス。俺がよぉ、嫌いなこといっつも言ってるよな、それ覚えてるか?」


「時間に遅れること、約束を破ること、同情され、ゔっっ、」


 ビュベロの拳がサラスの鳩尾に打ち込まれる。ドンッと鈍い音が反響する。


「え?知ってんのになんでこう言うことするわけ??サラスー、お前もしかしてあの老ぼれの仲間だったりすんの?」


 サラスは痛みを堪え、姿勢をそのままにビュベロの話に傾聴し続ける。腰掛けから立ち上がったビュベロはウロウロとサラスの周囲を歩き回っている。


「なんとか言ったら?」


「断じてあり得ません。」


「じゃあさ、おかしくない?俺さ、ひと月もあげたよね?お前らがいくら無能だとはいえ、それくらいなら大丈夫かなって、俺優しいよね?、それなのにさお前らどういうつもりなの?」


 ビュベロは口角をゆっくり上げながら、捲し立てていく。こうなる事はサラスも分かっていた。ビュベロに殴られた事などとうに忘れている。そんな事よりも自分の無能さ、そして不甲斐なさのほうがズシンと心に重くのしかかっていた。


「こんな事までしておいて、帝国やら王国の連中に目もつけられてんだよ?ヤーモスのクソ野郎からもネチネチ言われてんだよこっちはよぉ、」


 ビュベロは『イバラ壊滅』と書かれた新聞をサラスの前に見せた。ビュベロから命じられたひと月以内にセギオラを捕まえろという指示。そのためには街の一つや二つ好きに壊せと言われていた。

 イバラを壊滅させたのは命令を受けてから2週間後の事だった。あともう少しでセギオラに届かないもどかしさや、急がなければという焦燥感から結果的に街を破壊し徹底的に動いてみせた。


 しかし、結果はご覧のとおり。ビュベロからは全ての責任を問われていた。

 サラスは今日、ビュベロに呼ばれた時覚悟を決めていた。ただ役に立たなかったわけじゃない。サラスは自分が尊敬し親愛を向ける相手の顔に泥を塗ったのだ。

 寛大な対応を受けた時、自らを死を願おうとすら考えていた。ビュベロ自ら死を与えられるなんて、これ以上ない幸福だと言える。


 今後の【ビュベロファミリー】に必要な引き継ぎはすでに終えている。自分がビュベロに差し出せるのは命くらいだろ。それならば最も有効的に使える場面で使ってほしい。

 身勝手だとは思うが、サラスの中に残された願望はそれだけだった。


「まぁよ、本来ならお前の首はっつけて、帝国やらヤーモスやらに見せに行きてぇんだけど。うちがゴタゴタしてるのを好機と見た連中がシペアブロの中でこそこそやってるらしくてよ、そういうのはお前の仕事だろ?」


 ビュベロは、数刻前に届いたばかりの信書をいじりながらサラスに視線を送った。

 【ビュベロファミリー】のナンバー2であり、実務を全てこなすサラス。彼の実力をビュベロは評価していた。これまで処分してきたなんちゃってナンバー2とは違う優秀さ。


 それに能力の高さだけでなくその忠誠心が特に気に入っている。裏切らないというのはこの外道の世界では何よりも大事な要素だと言えた。

 セギオラ捕縛はビュベロの悲願のために重要な段階だが、現在【セギオラファミリー】は再起不能なほどに瓦解しているように見受けられた。


 現在セギオラの身を追っているのは自分だけではなく、同じ野望を持つギルダートと、【ザスベヌファミリー】で秩序を厳守するヤーモスが動いている。

 これ以上ないくらいの強力な味方だ。他のアクトから余計な横槍も入ってくる様子はない。


 ビュベロ陣営が勝ち馬であることをみんな理解したからだろう。セギオラに加担して、自陣営が不必要に傷つくのも、ビュベロ陣営に後から乗っかり下手にビュベロ達に借りを作るのも嫌なのだろう。

 アクトの面々がなにを軸に動いているのかなど、同じファミリーの幹部として手に取るようにわかる。


 セギオラの敗北が必須となった今、煩わしい作業を先に終わらせる方が大切だろう。そのためにサラスを自分の面子のために差し出すなど考えられなかった。

 欲深く、直情的なビュベロだが、その利己的な思想は古臭い考えを脱却しているからとも言えた。まず求めるのは己の利益、そのためならなんでもする。そんな人間が、使いやすく長持ちのする道具を簡単に捨てるはずがなかった。


 こんなビュベロの思考含めてサラスは彼に敬愛を送る理由にしており、ビュベロの意図をすぐに理解して


「お任せください。必ず期待に応えられるよう精進します。」

 と深く頭を下げた。

読んでいただきありがとうございます。


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