プロローグ
最大規模の大陸を有するブロア大陸。北方の小国群、東方から中央に広がるサイモン王国、西方ではテリカルとチケアが日夜領土を巡って争いを続けている。
ブロア大陸最大の面積を誇る南方ディケドス帝国と、中央部の間には緩衝国として北方と似たような小国群が乱立している。
王国と帝国に挟まれる小国群は『シペアブロ』、帝国古語で娼婦の意味で呼ばれている。どう足掻いても王国と帝国に国力では勝てず、食糧の根幹であるコロイモと黒麦ですら自国民の量を用意できない『シペアブロ』の国々は、様々な物資を援助という名目で王国と帝国から支援をもらっている。
命の手綱を握られている『シペアブロ』の貴族達は、二強国である王国と帝国に媚を売り、両国の機嫌を常に取り続けるしかなかった。
過去、二強国どちらにも融和路線をとらず自国で自国を支える独立を目指した国もあったが、余計な動きをされたくない二強国の策略によりクーデターを起こり、現国王の三親等までが処刑され、民主国家へと変化。3日もしないうちに元の融和路線へと戻っていった。
現在王国と帝国は平和的な国交を結んでいるが、100年前までは血で血を洗うような戦争が起こっていた。何がきっかけになるかもわからない両国の関係を平和的に保つためには『シペアブロ』のような緩衝国の存在は必須条件とも言えた。
そんな『シペアブロ』の一つ、キカ国は帝国の中でも有力貴族クロプア家と強い繋がりを持っており、キカ国は実質クロプア家の領地のような役割を果たしていた。
有力貴族による小国群の私的利用はよく見られ、繋がりを持たない『シペアブロ』を探す方が難しかった。より強い貴族へ媚を売り、常に繋がりを求める。娼婦と呼ばれる所以はそこにあった。
キカ国がクロプア家のために行っている産業は砂糖の原料であるキビの栽培と、覚醒薬物の原料『シゼ』の栽培だった。その他にも腹は満たせないが、欲は満たせる通称『宝飾作物』と呼ばれる作物の栽培を行っていた。
帝国では最悪死刑にも処される『シゼ』の栽培をクロプア家はキカ国で行わせていた。
そもそも大陸七法で危険薬物の栽培製造密売は禁止されているため、キカ国での栽培も違法ではあるのだが国全体で行なっているため取り締まる者が誰もいなかった。キカ国も表上では薬物に対する厳格化と、強硬姿勢を見せており使用者には厳正な裁きが与えられる。
薬物栽培は国ぐるみの謀略ではあるが、あくまでも国は関知していない姿勢をとる必要があったため、大陸南方最大の勢力を持つ【ザスベヌファミリー】に居城を与え、様々な待遇を用意し極秘に受け入れた。
いわゆるマフィアである【ザスベヌファミリー】は、王国、帝国にも力が及ぶ組織であり、『シペアブロ』の国々も息のかかった者は多い。領土を持たない国家とも呼べる彼らの勢力は、キカ国の受け入れによってさらに増して行くこととなった。
王国暦350年、帝国暦でいうところの1470年に事件が起こった。【ザスベヌファミリー】の内部戦争、ファミリー拡大のため、ボスのラュートが直々にアリボ大陸へ出向くこととなった。魔法先進のアリボ大陸では日夜魔法について様々な研究、議論がされており、魔法についての実情を知るためにもボスであるラュートが自ら調査に名乗り出た。
問題はその間の指揮について。【ザスベヌファミリー】はラュートをトップとして、直系と呼ばれるラュート直々の部下と、分系と呼ばれる直系に従う部下の二種類で構成されている。
直系はそれぞれ独自の規則と自由な稼ぎ方でラュート、ひいては【ザスベヌファミリー】に貢献しており、この縛りのない自由な構成が南方最大の勢力を待つ事のできる理由でもあった。
ラュートを幹として、枝分かれしていく構成員の数はラュートはもちろん、直系に当たる者もどれだけいるかわからないほど、分系の分系は数を増していた。
中には直系を名乗る者も出始め、発見するたびその都度無惨な拷問を与え見せしめにしていたが雪だるま式に増えて行く構成員の管理が行き届くことはなく、結果直系の中でも選ばれた13人をアクト(帝国古語で星座)と呼び、それぞれに役職を与えファミリーの管理を拡充させた。
幹部とも呼べるこのアクトの中から、ラュートのいない間のボス代理を用意する手筈となっていたが、ラュートは誰も指名することなく側近数名を従えてアリボ大陸へ向かってしまったため、アクトの面々は頭を悩ませる。
自ら進んでボスなどやりたくないという者もいたが、反対に自分はボス代理に相応しいと名乗りあげる者も少なくなかった。
このボス代理については誰も口に出す事はないが、次期ボス候補、若しくはラュートがアリボ大陸へ進出した時のブロア大陸代表になる近道という認識が広がっていた。
【ザスベヌファミリー】のボスという肩書きの大きさはわざわざ考える必要もないほど大きく、重い。そしてそれだけ見返りも大きかった。
ボス代理に名乗りあげたアクトは全員で6名。ほとんどがヘイトを買わないように裏回ししている中、大胆に動いたのは八星のセギオラ。
不可侵の約束をしあっている直系それぞれのナワバリを無許可で横断し、別のアクトが管理している街から金品を巻き上げた。
その行いが引き金となり被害を受けた十一星ビュベロ、役職として秩序厳守を担当する三星ヤーモスがセギオラを更迭させるために武器を取った。
我関せずも貫く者も多かったが、この騒動を取り纏める者こそボスに相応しいとボス代理に名乗り出た者達はこの争いに自ら飛び込んでいくこととなった。
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