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2章10話(28話)

 ガギィィィィン!!

 槍と二本の剣が交わり、火花を散らした。

 だが、その重量に叶うはずもなく、アダムは後ろに吹き飛ばされる。

「そんな折れた槍でどうにかなるとでも?」

「君こそ、剣が二本だからいつもより動きが遅い」

「んだと!? 無駄口叩きやがって!」

 ヴァルトロは再びアダムに向かって斬りつけてくる。

 数時間近くこの攻防が続いているが、一体いつになれば終わるのか?

 そういえば、魔物の討伐が終わったと言う放送がない。まだ、ほかの地域は討伐に追われているのだろう。

「なあ、知ってるか? ガイアの予言はもう、実は何も残ってないらしい」

「えっ……?」

「アイツは、自分が生きているところまでの未来は見た。だが、それ以降についてはからきし見えなかったらしい」

「じゃあっ、今日の討伐の割り当ては……?」

 そのとき、頭上から飛来する巨大な鷲のような魔物がやってきた。

「適当に決まってんだろ。だが、予言なしで割り振られたなんて知られりゃ反乱が起きる!」

 鷲は回転しながら飛来し、近づいてくる……。大きなくちばしを開くとその中から無数の触手が現れ、こちらへ伸びてきた。

 ヴァルトロは瞬時に布都御魂を振るう。すると、雷光によって鷲の体は一瞬で灰となった。瞬間、ヴァルトロは荒く息をつく。首輪の電子盤の数字部分が赤く発光する。

「ヴァルトロ!? また、神食が進んだのか?」

「はっ、敵によくそんな口が叩けたっ……もんだ!」

 ヴァルトロはそう言って、アダムの腹を激しくソードブレイカーで突き刺す。

 油断した……! 激しい痛みと共に出血しながらアダムは呻く。

「ぐはっ……!」

 でも、ヴァルトロはなぜ布都御魂を使わない? 自分を殺しては時が戻せないから? わざわざ痛めつけるため……だとすれば、よほど恨みを買ったのか。

「はは……俺、よっぽど……君に嫌われててたんだ」

 思わず洩れた言葉にヴァルトロは応酬しながら剣を引き抜いた。

「がはっ……」

「ああ、大嫌いだね! お前は中途半端で弱くて、口だけの屑だ!」

 出血により朦朧とする意識のなか、ヴァルトロがソードブレイカーを振りあげるのが見えた。腕にも激しい痛みを感じる。次はきっと、防ぎきれない……。

 いや……防がなくてはならない! だが、この槍ではどうにも強度が足りない……!

「お前、残響地域で神との対話までやったのに、覚醒しないなんざ、よっぽど才能ないんだな! ノーデンスも哀れだなぁ、お前みたいなのと適合して!」

 そうだ、あのとき、確かに残響地域に眠るノーデンスの意識と対話した。でも、ノーデンスの異能は発現しないままだった……。だから、ガイアを守ることさえできなかったのだ。

 だが、どうやれば目覚める? あのとき、確かに適合したのだ。

 ノーデンスともっと、心を一つにすればいいのか……? それならばきっと、善神として、全ての人を守るという思いを強めなくてはいけないだろう。

 立ち止まらず、恐れず、多くの人のために……?

 ノーデンスは、答えてはくれない。

 そのとき、ヴァルトロの動きが遅くなり、まるでスローモーションのように感じられた。いや、『感じる』のではない。明らかに、そのように動いている。

 ああ……これはきっと、ヨグ・ソトースだ。

 時を戻すことはせずとも、俺の意識の底から、この時を遅めてくれているんだ。

 その直感に答えるように、頭の中に見知った呼び声が響く。

『当然さ。ぼくは、君を愛している。一万年前からの想いは、簡単に絶えることはない……』

考えている暇はない。でも、きっと異能を目覚めさせるためには考えなくてはならない。かつて民を救い、利き腕を奪われて絶望したノーデンスを思い浮かべる。

 すべてを理解することなんてできない。でも、あのさびしげな背中に感じたやるせなさを必死に思い出す。

 彼の絶望の理由は、果てしない非力さと途方のなさを感じたからだ。どんなに強くなろうと、邪悪なるクトゥルーを倒そうとも、完全な平和は訪れず、神々は滅ぼされてしまった。

 ふわり。そのとき、やわらかな光が目の前に現れる。

『ようやっとわかったか……ふわああああ……まだ夢心地じゃが、まあ大体合っとるよ、アダム』

『ノーデンス……!?』

 その瞬間、ノーデンスはぴかぴか! っと激しく発光した。

『よーっし! ちょいとズルじゃが、時短もたまには必要。異能が目覚めるまであともうちょいじゃから、儂が自ら秘密を教えてやろう! 一人の『嘆きの残滓(ラメント)』がこういうことすると、皆が真似してチートのバーゲンセールになりそうじゃが……よいよい!』

『ええっ、いいのか!?』

『誰にも真実を知られず、朽ち果てるよりはましじゃ。儂はのう、『善神ノーデンス』となる前は地下深くにある小国を治める王神じゃったんじゃ。幽世かくりよってとこじゃ。……ああ、旧言語じゃと意味わからんか。バベルトに直して言うと『ゴーストワールド』、じゃな。でっかいお社でそれはも~う、幸せに暮らしとった。そんなある日、当時はクトゥルーとヨグ・ソトースが一体であった創生神が現れた。んで、しちめんどうな御役目を一方的に言い渡してきたんじゃよ。儂の善性は神々のなかでひときわ光る。だからこれから作る『善神』の礎となれ、とな……可哀想なウサギさえ助けなけりゃ、言われなかったのに……ちょいと後悔したな』

 ふと、見ると、スローモーションになりつつもヴァルトロの刃が迫ってきている。

『なんかわからないけど早くして、ノーデンス!』

『焦らすな! 儂は善神となることを余儀なくされた。創生神は皆殺しの前から秩序を乱すいけすかない神はすぐに殺すヤツじゃったから、当時から何人も死んだ神がおってのう。そいつらから抽出した善性を儂ひとりに背負わせ、『ノーデンス』という絶対的な善神を作った……っちゅうわけじゃ。つまり、儂の本質はノーデンスのベースとなった幽世ゴーストワールドの神。そして折れちまった三叉槍は、かつては八千矛やちほことよばれた神器に死した神々の善性を集め封じこめたもの……聖遺物レガシーの奥深くに眠る、儂の真なる魂の名は『大国主(テラ=エンリンク)・クニツ』。ノーデンスの双極であり同一なる神じゃ。この名を口にしてみよ。さすれば、失われた時は再び繋がる……かもな。知らんけど』

 相変わらず最後の一言が余計だ。でも、その優しさはどこまでも深く伝わってくる。

「どうして、ダメなことなのに教えてくれるんだ?」

『だって儂、善神じゃもん。人類の味方ってのは、ご都合主義が専売特許なんじゃ! でもまー、これでどうなるかはホンマに知らんぞ?』

「大丈夫! 君のこと、信じてるから!」

『そーかそーか。神様冥利に尽きるのー。んじゃ、あとはシクヨロー』

 眼前にヴァルトロの刃が迫る。アダムは導かれるままにその名を口にする。

「大国主(テラ=エンリンク)・クニツ! 真なる神の姿を表せ!」

すると、金の槍の先が少しづつ伸び、三叉に別れて行く。それと同時に目の前の世界が早く動き出す。

「おらああああ!」

 剣を振り下ろすヴァルトロは目の前の槍を見て、一瞬目を大きく見開いた。だが、勢いを止めることなく振りかぶる。

 ガキイイイイイン!!!!!!

「なにっ……槍の先が!?」

 アダムは勢いよく、槍と槍の隙間にヴァルトロのソードブレイカーを挟んだ。少しでも、槍の強度が高まっていることを祈る。

 せめて、時間稼ぎにさえなれば……!

 そして次の瞬間、三叉槍のすべての隙間に明るい光が点る。

パァァァァ……!

「異能に覚醒したか。だが、そんなんでオレは倒せねえよっ!」

 ヴァルトロはすぐに槍の隙間からソードブレイカーを抜き、アダムの頭に振り下ろした。だが、それは低く鈍い音を立てるだけだった。

 まるで剣ではなく、ただの鈍器でなぐられたような……。

「いった~~……!  って、なんで斬られたのに……平気なんだ!?」

 ヴァルトロはアダムを斬ることができなかったソードブレイカーを構え、後退する。

「くそっ! これがノーデンスの異能か!? まさか、 攻撃を無効化するなんざっ!!」

 アダムは状況をゆっくりと理解する。まるで神々の意思が頭の中に流れ込んでくるような感覚だった。

『この力は、善そのもの』。

 そうだ……神々の善性を集めたこの槍がもたらした異能は『善』そのものなのだ。だから、相手の悪意……攻撃を無化できる。圧倒的な善の心の元に。

 そしてそれに相応しい行動をとらなければ、神々の善性はこの力を与え続けてはくれないだろう。 アダムは槍を下ろした。

「ヴァルトロ、俺は異能に目覚めた。布都御魂も攻撃を無効化できる。だから……もうやめよう」

「はあ!? 何言いやがる! 勝負はついてねえ!」

「いや。君には悪いけど、それならもうついてる。俺の勝ちだ! 時の改変における願いも、俺がかなえさせてもらう!」

  アダムはゆっくりヴァルトロに近づく。

「でも……クリフの思惑通りにはさせやしない。 ガイアを救いたい。でも、みんなを助けることも諦めたくない! それが、今の俺にできる選択だ!」

「まさか、それがお前の答えなのか?」

「ああ……ダメだよね、優柔不断で。でも、オリオンに言われたんだ。君のことが心配だから頼むって!   グレンさんの上に、君までいなくなってほしくないって!」

 ヴァルトロはその瞬間、わずかな悲しみを赤い瞳に浮かべた。声が、いつもの調子に戻る。

「なんだ……アイツにはバレてたのかよ。こっちがどんな気持ちで、隠し続けたと思ってんだ……」

 ふと、違和感を覚えた。緊張感が解け、さっきまでのヴァルトロとまったく様子が違う。アダムはほっとしたように呟く。

「ああ……よかった。いつもの君だ」

「あ?」

「部屋が汚くて、自分勝手で乱暴で……でも、本当は面倒見が良い。それが、俺の知ってる君だから」

「はっ、一体 俺の何を知ってんだよ、いい気になんじゃねえ」

  ヴァルトロは布都御魂に手をかける。

 それを見たアダムは思わず槍を構え、備える。焦るな、また無効化すればいい!

 だが――次に起こった事態は、あまりにも想定外だった。

 ヴァルトロは瞬時に肉薄し、アダムに布都御魂を握らせた。

「なっなに!?」

  そして、ふっと笑う。 かつて……残響地域を去る時に見せた顔と同じ表情で。

「じゃあな……新入り」

 そして、勢いよく、ヴァルトロはアダムの手に握らせた布都御魂で、自分の心臓に突き刺した。

 血が勢いよく吹き出し、アダムの顔を、髪を、服を染めていく。ヴァルトロは息絶え絶えに言う。

「ほら、早く……継承しろ!!  2人分の能力を!」

「な、なん……で……」

「異能に覚醒もせず、神食度も低いお前が、あのクソ王に勝てると思ってんのか……! 甘すぎんだよ!!」

ヴァルトロに叱咤されながらアダムは事の全てを悟った。ヴァルトロの体を支えようと抱きしめる格好になる。

「離せよ。何が悲しくて……野郎の腕の中で死ななきゃなんねえんだ」

「俺だって嫌だ。でも、こうしなきゃお互いに倒れるだけじゃないか。ねえ……君はあえて、アキリーズを殺して、俺に君を、殺させたんだな?」

「あの王……クリフに、脅された。最初からアイツはお前に期待なんかしてねえ。アキリーズ殺しをしくじるとわかっていたからオレに命じて、失敗すれば、国家政策として、治安の悪いスラムの一斉弾圧を行うと……」

 ヴァルトロの言葉が息絶え絶えに、しかし……重みをもって響いた。それと同時にあまりに残酷な仕打ちを行うクリフに激しい怒りが沸いた。

「あーあ……結局オレ、あの女の予言通りに死ぬのかよ」

 ヴァルトロがガイアにきつくあたっていた理由の一つは、死の未来を予言したことだったと思い出す。

「こうなるって、わかってたの?」

「こんな予言なんざ嘘っぱちだ。お前を返り討ちにしてやる……。ずっと、そう思ってたが……結局このざまだ。だが、いきさつは違う。あいつ流に言えば、「過程」か?」

「どう違うんだよ! こんな死に方ない……!」

「ちゃんと聞けよ……新入り! 俺は、この結末を自分で選んだんだ」

「え……?」

 アダムは触れているヴァルトロの体温が、どんどん低くなっていくのを感じる。

 アダムより少しだけ背の高い、若い剣士が常に周囲を威嚇するように身にまとっていた覇気が徐々に弱っていく。

「予言では、俺はアキリーズを殺し、お前に殺される……そう出ているとあの女は言った。だが、オレは自分でお前に殺されることを選んだ!」

「どうして……?」

「知らねえよ。オレがそうしたかったんだ。いや……違うな。お前に、託すためだ」

「みんなを……助けることを?」

「ああ……お前みたいな中途半端な奴にどこまでできるかなんざ知らねえ。でも、時を変える鍵はお前しか持ってねえ!」

 ヴァルトロはアダムの手をつかむ。そして自分の首輪の操作盤へと導く。

「アダム。どうするかはお前が選ぶんだ。だが、逃げるんなら能力はやらねえ!」

 ヴァルトロの頬に、青白い首筋に、神食の影響でぼこりと触手が浮かび上がる。

 答えのかわりにアダムはヴァルトロの首輪のボタンに触れた。そして、告げる。

「アダム・ノーデンス・エルダーゴッド! 『緊急事態』により、ヴァルトロ・マドゥーサ・マイスの能力を継承……!」

 瞬間、体に襲ってきたことのないような激しい高揚感と重みが加わる。

「うっ……があああああ!!」

 形容しがたい感覚だが、これまでにない『力』を体の中に感じた。体の内側にある、受肉結晶が沸騰するように熱くなる。虹色の触手が絡み合うようなビジョンが見えた。頭の中で雷光が響く。そして激しい雷をまとった多頭蛇のビジョンが見えた。幾十にも重なりあいながら、うねって蛇がこちらに向かってくる。そして激しく牙をむいた。これが、マドゥーサと、アキリーズの建御雷ストームヴェラーの神性か。

 そのとき突如、暗闇のなかに落とされる。これは、意識の底だ。

 静けさのなか、ぱっと明かりがともる。雷を体にまとった、胴体までしか体のない、緑の鎧を着た東方の猛者……そして、赤い目をした、うねうねと蛇のようにうねる髪を持った女神(だが、その顔立ちは美しい女性だった)。彼らはこちらをただ見つめている。

 少しだけ、その表情がさみしげだったのは、気のせいだろうか。

『やれやれ。ルームシェア相手が増えすぎ、キャラ濃すぎで困るわい……ていうか全員儂の宿敵じゃし』

 こんなときでもノーデンスは呑気だ。

 だが、呆れる気にも冗談をいなす気にもなれなかった。無理やりとはいえ、人ひとりの命を奪って得た神々だからだ。

 アダムは意識の底でただうなだれる。

 それにしても宿敵? マドゥーサとは何かがあったらしいが、建御雷ストームヴェラーとも?

『まあ、よいか……仲良くは絶対に無理じゃが、適当にやるわ。んじゃ、挨拶は済んだから帰れ。赤毛の兄ちゃんとの別れがあるじゃろう?』

 その言葉と同時に、意識は現実に返された。

 別れ……紛れもなく、目の前に訪れている現実はその通りだった。

ヴァルトロは最後の力で弱弱しく、アダムの胸倉をつかんで言った。

「自分の選択に責任を持て……『アダム』! 中途半端なお前なりの答えを……出してみろ。いいな!」

 そのとき初めて、ヴァルトロに名前を呼ばれたと気づく。

 ずっと……『新入り』だったのに。

「ねえ。ヴァルトロ。もし俺が未来を変えられたら、今度は友達になってくれる?」

「ばーか。誰が、お前なんかと……」

 そう言いながら、ヴァルトロは目を閉じる。筋肉質だが細身の体が重くなり、アダムが支えきれなくなったがゆえに、そのまま倒れていく。

 ヴァルトロは地面に崩れ落ちる。赤と黒の混じった長い髪がはらりと揺れて広がった。

 そのとき、乾いた拍手の音が、背後から響いた――。

「アダム、ご苦労様。君と、そして使命に身をささげてくれた半神たちに感謝するとしよう」

 白い軍服を纏い、金髪の長い巻き毛を優雅に垂らした半神の残虐な王が満足気に笑って言った。この犠牲を全て仕組み、失われた命を一切惜しまない狂気の王……!

 アダムは思わず、衝動のままに三叉槍で斬りかかる。だが、槍はクリフの前で止まり、動けなくなる。

「あれ? 君が僕に攻撃をしようとするなんて初めてだね。他にも危ないものはしまってっと」

 クリフの背後から黒紫の触手が這い出て、布都御魂、そしてヴァルトロのソードブレイカーを瞬時に巻き取った。そして触手が黒く発光したかと思うと、次の瞬間にぼとり、という音がして、二つの武具が地面に落ちる。どちらもどこか色あせ、ひどくさびついたような姿になる。

「君の中に聖遺物レガシーのデータと能力が引き継がれたなら、もうこれらは不要だ。さびつかせたから、もう何も斬れないだろうね」

「なっ……!」

 クリフはひどく優しく、楽しむように、憐れむように言った。

「ああ、アダム……大事なことを忘れているね。僕は創生神クトゥルーの半神。地上の神は、元々宇宙から舞い降りた彼が作り出したもの……どうあがいても、かなうはずがないんだよ」

「でも……そんなのやってみなきゃわからない!」

 アダムは三叉槍を持ち、もう一度斬りかかろうとするが、一切クリフには近づけない。まるでバリアが張られたかのように、体が前へ進まない。

「かわいそうに。あわれなノーデンス……いや、元は幽世ゴーストワールドの王神、大国主(テラ=エンリンク)。そんなにも、君の利き手を奪ったクトゥルーが恐ろしいのかい?」

 一歩も動けないのは、ノーデンスの恐れなのか。クリフは触手をアダムの首に巻き付け、力を込めていく。

「うっ……!」

 そうだ! ヴァルトロの異能を使えばクリフを石化できるんじゃないか?

 アダムは残された力でどうにか、ヴァルトロの赤く染まっていく目を思い出しながらクリフをにらみつけた。だが、クリフは面白そうにその様子を眺めている。

 アダムの瞳が、赤く染まり始める。これが『マドゥーサの目』。人を石化させるその目は異能者の視界をも真っ赤に染める。

 だが……クリフの様子は一切変わることがない。

「無駄だよ。地上の神々は、クトゥルーに作られた存在だ。誰をも、その神格で創生神に敵うことはない」

 その冷酷な言葉が周囲に静かに響いた。アダムは絶望と共に、意識が朦朧としていくのを感じる。

「殺しはしない。あくまでも気を失わせるだけさ。さあ、アダム。帰ろう、僕たちの城へ。そして、始めるんだ……『時の改変』の儀式を」

 クリフは優しく、歌うように告げた。さらに首へと触手が巻き付き、アダムは意識を失った。


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