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閑話 女神たちの聖遺物(レガシー)

2章に入る前の閑話です。通常よりも短めとなっております。

 深い深い、暗闇の中……。

赤い糸であやとりをするピンク色の巻き毛を縦ロールにした少女と、首のない大柄な女がいた。

首のない女の体はあまりに大きく、ピンクの髪の少女の10倍はあった。少女は首のない女の足元に寄りかかっている。

『あーあ。もうおしまい? 運命ってあっけないですわね、ガイア様』

 少女は飽きたように、ぽいっと途中まで川の形にした糸をほどき、そのへんに捨ててしまった。ガイア様とよばれた首のない女神は低く、よく響く声で答える。

『私と同じ名を持つあの娘には随分と大変な思いをさせてしまったな。運命の女神モイラたちの末娘、アトロポスよ。もう少し気心を加えられなかったのか?』

『無理ですわよ。あたしたち運命の女神は三人いてやっと一人前。姉さまたちの聖遺物レガシーは馬鹿な人間どもが七国大戦でぶっ壊しちゃったんだから。残ったあたし一人ができるのは不可避の未来を見ることだけ。それに』

 アトロポスと呼ばれた少女の姿の女神はどこからか手鏡を出し、自分の顔を映す。そしてそのかわいらしさに満足したように笑った。

『あたし、自分より綺麗な女は嫌い』

『そのわりに、最後の願いは叶えてやっていたではないか。彼女の想い人である青年に、記憶を見せることを許した』

『あれぐらいできなければ、女神としてみっともないからですわ』

 アトロポスはごろりと寝転がり、巨大な女神の足を枕にした。足には女神が着ている白いローブがひらりとかかっている。巨大な女神の声が上から響く。

『私は美しさを損なっていてよかったのかもしれんな。この娘の意識の中で、おてんばのお前となんだかんだでうまくやれていた』

 首のない巨大な女神はいたずらっぽくそう言った。

『もともとのガイア様は美しかったわ。嫉妬するのがおこがましいぐらい。でも首がないんじゃ、妬みようがない』

 アトロポスは手元のローブをぎゅっと握る。

『ねえ……あたしたちはまた、星に帰るの?』

『なぜ私に聞く。未来を見るのはお前の仕事だろう』

『知ってるでしょ? 運命の女神は最初から自分のことを知る権利をはく奪されている。そうでないと、平等じゃないからって発想。まあ、ゼウス(男)の考えそうなことよね』

『男も美しい女も嫌いとは、困ったものだな』

 アトロポスは甘えるように唇を尖らせて言う。

『答えてよ、ガイア様。創生神クトゥルーと共に世界を作ったあなたなら、この先のすべてがわかるはず。未来を見る女神の私なんかより、ずっと正確に』

 首のない女神はそっと大きな手で、まるで自分の子供をいつくしむようにアトロポスの髪を撫でる。

『神性を宿した半神が『役目』を終えて死ぬ……そうなれば聖遺物レガシーに宿った私たちは『彼』の身許に帰ることとなるのだ』

『『彼』……? ああ、あの者の、ね……嫌になるわ。ねえ、なぜ人はそうまでして、紡がれた運命の糸に逆らいたいの?』

『人類は、我ら地上の神々が死と同時に残した『魔脳』でその知恵を無尽蔵に発展させた。よく悪くも我々の想像を超えるほどにな。不可侵である過去を変えようとするのは、当然の結果よ』

 白に埋め尽くされていた世界、それがゆっくりと虹色に輝き始める。暴力的に世界の色が、輝く七色に変わっていく。

『ああ! 来るわ!! ガイア様、あたし、怖い……『あいつ』に、すべて囚われてしまう!』

 アトロポスは震えて追いすがった。首のない女神ガイアは優しく彼女を白いヴェールで覆いつくした。

『心配するな。肉体亡き我らが痛みを感じる事はない。つかの間の目覚めも悪くなかっただろう? アトロポスよ。目を閉じていれば、いずれ嵐は過ぎゆく。我らの意識と共にな』

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