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1章9話

 残響地域はルルイエの王都を出て果てしなく西、森の奥の奥にあると言う。マリアを呼び出して聞いてみたらあと少しのようだった。

「あのさ、荷物持つの、ちょっと代わってくれない?」

「新入りが文句言うな。お前が勝手についていきたいっつったんだろうが。そんぐらいやれ」

 アダムは水や治療物資の入ったリュックを抱えながらヴァルトロにどうにかついていく。途中で魔物が出現するが、ヴァルトロは当然の如く自分の方に向かってきたもの以外は倒してくれない。そのたび荷物を置いて戦うはめになるので、かなりきつかった。

「でも意外。こんなにも持っていくなんて、結構用心症なんだね」

「無駄死にしたくないだけだ。こんな罰ゲームで死んだら笑いもんだろ」

 ヴァルトロはふと立ち止まる。

「マリア、残響地域のミストを払え」

「了解しました」

 すると、ヴァルトロの首輪の電子盤から緑色の光が出て、眼前の何もない場所へと照射された。

 何もない場所は、徐々に灰色の洞穴の入り口へと変貌する。

「なっ……なんで?」

「これは魔脳科学で作られたミスト。国によって普段ここは秘匿されてるんだ。魔物にまみれた洞穴を放置するなんざ何をやっているんだ、と国民に追及されるだろうな。おら、入るぞ」

 ヴァルトロが先行して洞窟に入っていく。中には鍾乳洞がびっしりと生えていた。足場が悪く、まともに歩くのもやっとだ。

「だからって隠してるの? ここが危険だって知らなきゃ危ないし、逆に国民がかわいそうだよ」

「半神特殊部隊は国民の血税で養われてる。最初の半神を生み出すにも、千を超える国民を文字通り犠牲にしたうえ、半神を生み出す技術にも莫大な金がかかってるんだ。だから、俺たちの仕事は表向き完璧でないといけないのさ」

 表向き完璧。アダムは勅令警報の次の日、マリアの機能にある国民ニュースを見てみた。すると、『コライド山での討伐、完全成功』と見出しがあった。読み進めていくとまるで、魔物を全て倒して国が平和になったような書き方だった。

 でも実際はこんなふうに魔物があふれる地域や、繭から現れた魔物を半神特殊部隊が討伐しきれないことがあるのに。

 そのとき、ヴァルトロが突然ソードブレイカーを抜き、目の前の空を切った。するとどこからか激しい断末魔が上がり、灰のようなものが宙に散った。

 アダムは思わず驚き、周囲を見渡す。

「今の敵、どっからきたの? 暗くて見えなかった!」

「そりゃそうだろうな、お前、普通の目だから」

「え」

「俺の目は『石化』を使えるのに加えて、アストラルと呼ばれる霊体の魔物が見える。この洞窟にいる大半はそれだ」

「そ、そんな……じゃあ、倒せないじゃないか」

「甘えんな。自分でどうにかしろ。お前を狙う奴は倒さねえからな」

 ヴァルトロはそう言ってつかつかと歩いていきながら、マリアに尋ねる。

「マリア、魔物の反応は?」

『この洞穴通路の奥から最も大きな反応があります』

 アダムは冷や汗を顔にびっしょりとかいた。見えない敵にこのままだと殺される。

「知ってたのに、なんで教えてくれなかった? ……とでも言いたげだな」

 ヴァルトロは後ろ姿のままで軽口を叩く。アダムは思わずイラっとして言い返す。

「いや、聞かなかった俺が悪いんだ。心配してもらわなくて大丈夫!」

 ヴァルトロはにやりと笑って一瞬振り向いて言った。

「強がるねえ。逃げ帰ってもいいんだぞ? ああ、お前の後ろから魔物が来てるけど」

 アダムは後ろをばっと見る。案の定、何も見えない。

「嘘だ、本当はいないぞ。……いや、前から来てるかもなぁ?」

 ヴァルトロはそう言いながら、楽しげに笑う。何が真実かわからない。

 アダムは焦り、頭の中でノーデンスに問いかけようとする。こんなとき、どうすればいい……?

 だが、応答はない。

「そうだね、じゃあどっちでもいいようにするだけだ!」

 そう言ってアダムは槍を構え、まずは前方に向かって薙ぎ払う。すると反応はない。

「あてずっぽうか? 無茶があるだろ」

 だが、ヴァルトロは鼻で笑いながらも時折振り向かずにいられなかった。

 アダムが生きるか死ぬかはどうでもいいが、一体どのように乗り切ろうとするのかということだけには興味はあった。

 アダムは今度は後方に向かって攻撃を試みていた。

金の槍を器用に操り、できるだけそのリーチを活かして横、縦、下方、それぞれに向かって振っていく。だが、槍は空を切る。

「いつか、当たるはずだっ! 本当にいるんなら!」

 アダムはふと、耳の奥にわずかな声が聞こえるのを感じた。あまりに小さな声だが、確かに……。魔物の鳴き声に似たものだ。

 アダムは声を頼りに、自分の側方に向かい、槍を突いた。

 すると断末魔が上がり、灰が散った。

「ほらっ! 当たったよ!」

「そーかよかったな、まぐれに感謝しろ」

「ああ、他のもまぐれで全部倒す。この近くに住んでる人たちだっているんだ。一匹でも多く倒さなきゃ!」

「この状況で住民の心配? きれいごともいい加減にしろよ」

「ヴァルトロは先に行ってていいよ。あとから追いかけるから……生きてたらね!」

 アダムはまた宙に向かって槍を突く。それはまた空を切る。

 ふと、アダムの首横に冷たいものが触れた。それは鋭利な刃のようにアダムの首に傷をつけた。

「痛……! こっちか!」

 アダムはそちらに向かって槍を振る。灰が散り、攻撃してきたものは倒せたとわかる。だが、後方から何かに足を傷つけられ、思わず転んでしまった。

「まずいっ……!」

 アダムは必死で周囲に向かって槍を振り続ける。だが、何かに足をとられて動けなくなる。おそらく見えない魔物に押さえつけられているのだろうと思うが、どうしようもできず、じたばたと動いた。

ヴァルトロは先に進みながらも、また振り返る。彼からは追い詰められうずくまったアダムの後頭部が見えた。

「ばーか。そんなんじゃ当たんねえよ」

「わかってる……! でも、これ以外に方法がないんだ!」

 そのとき、ヴァルトロの脳裏に、わずかな記憶が蘇る。

『だって、これ以外方法ないじゃん』。そう言って、最後に自分の首輪に触れた手……。

「ああああ!!」

 アダムの悲鳴が響く。足の自由を奪われ、見えない爪のようなものに引っかかれたためだった。このままだと嬲り殺される……! そう確信した。

 瞬時に記憶から引き戻されたヴァルトロの口から、自分でも意外な言葉が出た。

「新入り、何があっても振り返んじゃねえぞ」

「えっ……」

 瞬間、ヴァルトロの目が、白目まで赤く染まる。

 アダムの目の前に、石になって静止した状態の魔物が現れる。

 振り返るな。それは自分の目を見るなということだったのだろう。

「きゅ、急に姿が現れた!?」

「そいつらは石化すりゃ見えるんだ。ちなみに急所である『コア』を狙わないと倒せない。どっか知らねえが大体真ん中にある! ほら、さっさと片付けろ」

「ありがとう、ヴァルトロ!」

 そう言いながらアダムは、自分の足を植物のような魔物から出た蔓の触手がとらえていたことに気づき、それを勢いよく切る。石が、軽く砕けた。

「勘違いすんな! うるさくて集中できなかっただけだ」

 そう言いながら、ヴァルトロは前方の空に向かってソードブレイカーの刃先を突く。するとまた、断末魔が上がり、灰が空にはらはらと舞った。

 アダムは固まった魔物をすべて倒して、ヴァルトロの元に走っていった。

**************************

 その後も二人は道を進んでいき、その間、アダムはわずかな魔物の声に反応し、見えない魔物を倒していった。正直きつくて、息が切れるが、きっと鍛錬にはなっている。そう信じたかった。

「へぼいな、お前」

 前を歩くヴァルトロがアダムの疲れて切った様子を感じたのか、皮肉って言う。ヴァルトロが助けてくれたのはあの一回だけだ。

 だが、彼が前を歩いてくれるおかげで、気を遣うのは実質注意しないといけないのは後ろからくる魔物だけで助かってはいた。

「でも、なんでこんなにも魔物が集まってくるの? 繭から出たものは倒しているはずなのに」

「ここに集まってる魔物は、アストラル。亡霊だ。まあいわば、繭から出てきた魔物は殺されても、暫くは意識が浮遊する。だが、たまにここにある神の残響に反応する奴らがいてな。そいつらは神の意識の一部と融合し、ここでアストラルとして蘇る。主に、人に対して攻撃的であったがために封印された神の意識と共感して混ざり合う。」

「神様の意識と融合? なんでそんなことができるんだ」

「知らねえよ。魔物自体が、宇宙神とか名乗ったきしょいゼリーとでかい雌羊がポコポコ産んだ意味不明の生命体なんだ。だが……そのベースはかつて死んだ地上の神々に近いのかもな」

 アダムは戸惑って聞く。神の意識と一体になったものを殺すということは……。

「待って。だったら俺たちは神様を殺したことになるんじゃないか?」

 ヴァルトロは鼻で笑いながら、また前方に向かってソードブレイカーを振って魔物を倒す。

「ただよう意識ごときが神そのものだと? 笑わせんな。ここで呻いてるもんが神そのものなら、こんなクソみたいな世界、とっくの昔に救ってくれてるだろ」

「それもそう、なのかな?」

「なんだよ、微妙な返事だな」

洞窟の奥に辿り着くと、そこは行き止まりで、湖のようなものがあった。

「湖……?」

 それでいて、やまびこのような、人がうめくような声が無限に聞こえていた。

「これが残響だ。神々の声だとか言うが、何言ってっか全然わかんねえだろ」

 アダムは耳を澄ませてみる。確かに、そこでささやかれているのは何かの言葉なのだろうが、知らない異国の言語のようだ。どんなに聞き取ろうとしても、零れ落ちてしまう。

「ほんとだ。神様は、使う言葉が違うのかな?」

「まあ、俺達の使う共通言語『バベルト』は一万年前、有神時代が終わり、無神時代に切り替わったところで、魔脳マグダラが開発した言葉だからな。いまだに古い土着の言葉を使いたがる民族もいるようだが」

 そう言いながらヴァルトロは再び抜刀した。

「いるの?」

「ああ、でっかいのがな……だが、何の因縁だろうな。まさかコイツとは」

 そして前方をにらむ。

「仕方ない、石化してから殺るか」

 瞬時にヴァルトロは目を赤く染める。だが、石化した魔物が前に現れることはなかった。

「なにっ……!」

 そのとき、地響きが響いた。

 前から見えないものによって薙ぎ払われ、ヴァルトロは数メートル先に吹き飛ばされる。

「ぐっ……」

「ヴァルトロ!」

 アダムは思わず槍を構えて前方に向かい、必死で振るって抵抗するが、どこにも攻撃は当たらず、むしろ槍が遠くへまた吹き飛ばされる。

 まるで相手は鞭のようなもので不可視の攻撃を繰り返す。

「そうだ、コイツはあのときグレンに目を潰された……だから見えてねえんだ。なら石化が効くわけねえか」

「知ってるのか、ヴァルトロ!? グレンって?」

「とっくの昔に死にやがった、むかつくナイトの名前だ」

 ヴァルトロはそう言ってしばらく黙っていた。彼の頭の中に浮かび上がった考えの靄の中に沈みこむように。だが、意を決したようにアダムに告げた。

「お前、もういい。足手まといだから帰れ」

「なんで!?」

「こいつは、グレンをぶち殺しやがった双頭の蛇だ。アストラルになっていたとは思わなかったがな。石化もできない、攻撃は効くが、コアがひどく奥にある。があっ!」

 ヴァルトロはそう言っている間に、また後ろに倒れた。頬に流血しながら態勢を持ち直す。おそらく蛇の尾ではたかれたのだろう。

「……で、でも!」

「お前、あのクソ王の「お友達」だろ。お前が死ねば、俺は今度こそ処分。つまり……ここでお前が死ねば、俺が死ぬ確率は上がる。少し考えりゃわかるだろ」

「じゃ、じゃあなんで俺をここまでついてこさせてくれたの? 能力を奪いもしないで」

 ヴァルトロはソードブレイカーを再び構える。

「誤解すんな、もちろん奪う気だ! お前、時を戻せるんだろ……!? 俺はのどから手が出るほど、それがほしい! だが、一瞬戻るぐらいじゃ、意味ねーんだよ。だからここにお前を連れてきて、適合率を高めてから奪う気だった」

 そう言いながら向かっていき、激しく何度も切り込む。

「くそ! とぐろ巻かれた。コアにたどりつきやしねえじゃねえか。片方の頭だけでも潰せれば……!」

「俺の能力はノーデンスの槍を操れることだ。時を戻せたのは、きっと半神の力じゃない!」

 そう言いながら、アダムは槍を構え、ヴァルトロが攻撃をしている方に向かっていく。だが、攻撃は容易にはじかれた。

「なぜ決めつける。ガイア・モイラは二重神性。二つの神の聖遺物レガシーを体内に取り入れているんだぞ。一見へぼいお前も二つの神の現身となっていても不思議じゃない」

「で、でも……聞かされてないよ!」

「あのクソ王は大ウソつきだからな。利益のためならなんとでも言う」

 ヴァルトロは再び構える。鏡となった剣に赤い瞳が移る。

「お前の上ずみには、確かにノーデンスとかいう使えねえ折れた槍の使い手がいるんだろう。だが、奥の方にはきっと、ヨグ・ソトースがいる……全ての神を殺し、その肉体が散り散りに散った時の神の力を持った半神だ!」

 そう聞いた瞬間、アダムの頭の中を虹色の閃光が走った。ふと、いつも感じられる金色の温かい光が影を潜めていると感じた。まるで、恐れるように。

「本当なのか、ノーデンス……」

「あんときオレをボコったクソ神なんかに聞いたとこでわかるかよ。ノーデンスは……地上の神々は、ヨグ・ソトースに敗れて肉体を殺された神なんだからな。だから、帰れ……! お前と一緒にお前の能力が消えりゃ、全部が水の泡だ!」

「どうしてそこまでして、時を戻したいんだ?」

 ヴァルトロは激しく飛び上がり、蛇がいるであろう場所へと下降していった。

「決まってんだろ。オレは過去を変えて、アイツをもう一回ぶん殴る! ……今度こそ勝負つけるためにな!!」

 アイツ。それが死んだグレンという人物のことだとアダムには一瞬でわかった。

「本当は、大事だったんだね。その人のこと」

「はぁ!? 気持ち悪いこと言ってんじゃねえ! アイツなんか大っ嫌いだ!」

「でも、また会いたいんだろう? じゃあ、一緒にやり直そう!」

 アダムは槍を構え、静かに透明な敵を見据える。

「俺に何ができるかはわからない。……でも、少しでも、未来をよくするためには、動くしかないんだっ!」

 アダムはそう言って走り出す。槍で魔物を思い切り突いた。

 そしてふと思いつく。蛇の頭が二つあるなら、動きを止めるには……?

「ヴァルトロ! 蛇の頭、どこにある!?」

「ああ? どっちのだ! 体はお前がさっきついたとこにあって首はうねうねお互いに逆方向を向いてる。こいつら、目は見えてないが、俺達の動きに追従して頭を動かしては狙ってくるからな」

「やっぱり……一つ、案があるんだけど」

「案……?」

「『ぐるぐる巻き!!』」

「ハァ!?」

 そう言ってアダムは弧を描くように走り出した。そのたび、ヴァルトロの目からは蛇が二股に咲けた長い鋭利な舌でアダムを突き刺そうとするのが見える。

 何度か当たって、痛々し気に呻き、体に傷をつけながらもアダムは走る。

「ヴァルトロは、逆方向に走って! 俺を追ってる蛇じゃないほうの目をひきつけて回って!」

 ヴァルトロは理解した。『ぐるぐる巻き……』つまり、蛇の首を互いに絡ませ、動きの自由を奪う気だ。

 一瞬だけ、彼の冷たい口元ににやりとした笑みが宿った。

「じゃ、失敗したらお前、今日も床で寝ろよ?」

「はぁ? やだよ、昨日だって『綺麗なベッドは寝る用、もう一つのは物置だからお前のベッドなし!』とか意味わかんないこと言ったくせに!」

 瞬間、蛇の舌がアダムを狙う。ヴァルトロは瞬時にソードブレイカーで舌先を斬った。

ギシャアアア!

蛇の悲鳴が上がる。それでいて怒りをあらわにして蛇がさらに首を伸ばして頭をもたげる。

「ばーか。いつも通り、前向きに考えろ。うまく行ったら、ベッドで寝かせてやるんだ。有難く思えよな!」

*******************************

「くっそ、死ぬかと思ったぜ……」

 戦いを終えたヴァルトロとアダムはほうほうの体で鍾乳洞の壁にもたれかかっていた。お互い、傷まみれになり、疲労と出血による倦怠感で動けずにいた。

「でも、いいアイディアだっただろ? 蛇の二つの首をぐるぐる巻き!」

「ばーか、最後にとどめ刺したのはオレだぞ。偉そうにすんな」

「はいはい、そういうことでいいです~。でも、今日はちゃんとベッドで寝るから!」

 アダムはしたたかにそう言った。ふと、気になって首輪を確認すると討伐数が増えていた。数体だけだったが、いつもより多めだ。

 魔物の強さによっても変動するというのは嘘じゃない。もし、神食が進めばいつ、自分はこの首輪で殺されるのだろう。

「なぁ、無駄だぞ。『それ』」

 対角に座ったヴァルトロの声が耳に届く。珍しく、どこか馬鹿にしたような響きは含まれていなかった。

「え?」

「どんなに温存しようが、死ぬときゃ死ぬんだ。数えても数えなくても、討伐数は日に日に増えて神食は進む。それにわざわざこんなとこについてきたんだから覚悟できてんだろ」

「そうだね。ごめん」

 ヴァルトロはどこか決まりが悪そうに頭をかきながら言った。

「にしても……弱いくせに意外と頭は回るんだな、お前」

「そうかな? 火事場のなんとかってやつだよ」

「あー、むかつく」

 ヴァルトロはそう言って舌打ちをする。

「あっ……グレンさんって人は残念だったね。この魔物に殺されたなんて」

「そうだな、お前の推測通り、新人の頃のオレは人間相手のケンカは強くても、魔物相手じゃ使いもんにならないポーンだった。そのせいで、アイツはこの蛇にぶっ殺されて死んだってわけ」

「ごめん、そんなことまで話させて」

「別に。大したことじゃない。隠す方がダサいだろ」

 アダムはふと、蛇がさっきまでいた方向、その奥にある湖を見た。落ち着いて見てみると、水場が発光している。

 痛む体を引きずって湖へと歩いていき、その中を覗き込んだ。すると、無数の光の玉がその中にあるのが見えた。

「す、すごい。この光、なに?」

「神々の残留意識だ。ノーデンスやヨグ・ソトースのものも一部はここに集まっていると言われている」

 ヴァルトロはよたつきながらも立ち上がり、アダムの背後に立った。

「オレも昔、適合率を高めるために入った。あんときはまだ、ここにあんなアストラルは住み着いてなかったけどな。ってわけで行ってこい。今すぐに」

「え」

 アダムはどんっとヴァルトロに後ろから押される。

「うっうわあああああ!!!」

 ヴァルトロは湖の底に落ちていくアダムを見送りながらつぶやく。

「せいぜい頑張れよ。時を超える鍵は、お前次第なんだ。新入り」


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