2.現実で解説のお時間
解説回です。
今作は総文字数が少ないのですが、三分割にしました。ご了承下さい。
「……うむ。実に素晴らしい」
売れないで終わった七人組アイドルグループ『ミツミツミーツ』の元マネージャーである阿戸木は、感慨深い声を出した。
ここはミツミツミーツの元メンバー、ピックちゃんの自宅の一室だ。
彼女の部屋にはそこそこの撮影機材がある一方、タペストリーやイラスト入りのクリアファイル、スケール・フィギュアなどのグッズが飾ってある。なお、大半が彼女達の現役時代のアイドル・グッズではなく、無関係なアニメ関連のものだった。
あなたに説明すると、彼女達はこの部屋で、完成した動画『ミソミソミーソ』をモニター越しに観ていたのである。
ピックちゃんが黒いゲーミングチェアに座ってマウスを手に持ち、右側には元マネージャー、左側では触手ちゃんとショテちゃんが立っている。
この部屋における黒髪の三つ編み率は、とても高い。ピックちゃんと触手ちゃんが二本、ショテちゃんが一本の三つ編みだった。
元マネージャーだけが、ハーフアップまたはお嬢様結びと呼ばれる、後頭部だけを少しまとめた髪型になっていた。
「あの……阿戸木さん」
「どうした、触手ちゃん」
「今さらながら聞きますが、『チアガール警備員』とは何者なんですか?」
あの動画でチアガール警備員役を演じた触手ちゃんが質問したら、
「正義の味方だよ」
元マネージャーが即答した。
「正義の味方が敵から銃を奪って、銃刀法違反をしてませんでしたか?」
「あれは正当防衛でしょ」
「ショテちゃんがやっていた敵は、最終的には無防備でしたけど」
「まあ、そうだけど……」
元マネージャーは言葉を濁す。
今回の動画もまた、いつものようにこの元マネージャーが内容を考えて、元アイドル達を役者や制作係としてこき使うという形で、完成までこぎ着けた。
「謎の組織に所属する敵なのに、なんで戦う時に変身したりしないのですか?」
また触手ちゃんが元マネージャーに質問する。
「元からかわいい敵を、わざわざ化け物に変身させなくてもいいでしょ」
「いや、そうではなくて、謎の組織っぽい衣装に変えるとかです。最後まで制服のままなのは、不自然ですよね? ただの学生じゃないですか」
「専用の衣装を用意したら、その分、手間がかかるでしょ」
「手抜き過ぎませんか?」
「手抜きだけど……」
元マネージャーは弱々しく認めた。
「あと、敵があまりにも間抜け過ぎませんか? 拳銃を取られたり、レーザーを出せなかったり、爆発する首輪をつけられたり……」
「敵がバカっぽいほうが楽しいじゃん」
バカっぽく元マネージャーは触手ちゃんへと回答する。
「触手ちゃん。レーザーなら合成で出せますよ」
編集作業担当のピックちゃんがマウスを動かして、画面上のショテちゃんのお尻から白いレーザーを発射させた。それっぽい効果音も一緒に鳴る。
「ハイウエストレーザーって、どうにかならなかったんですか?」
「あれは、お尻見せたかっただけだよ! ここにはこだわりがあるんだ!」
元マネージャーは興奮気味に声を上げる。
「ハイウエスト水着でのお色気は、あまり需要がないのでは?」
「ブルマでもオムツでも一定の需要はあるんだから、じゅうぶんいけるでしょ」
あなたも元マネージャーの意見に同意することを願いたい。
触手ちゃんのほうは、やはり納得がいってなさそうな顔をしていた。
「水着にしたのは、モラル的に引っかからないようにするためだよ。パンツじゃなくて水着なら問題ないよね。そこがミソなの」
元マネージャーは右手の人差し指だけを立てて軽く振る。
「お尻からレーザーを発射しようとするのが、ダメな気がするのですが……」
「触手ちゃん。レーザーの発射中に声をかぶせることも出来ますよ」
ピックちゃんが再び言い、マウスを動かした。
『レーザー攻撃ですわっ!』
録音したショテちゃんの声とともに画面上でハイウエストレーザーが出る。
『悪役令嬢ですわっ!』
別のセリフで画面上にハイウエストレーザーが出た。
お尻から出るたびに、ショテちゃんは恥ずかしそうな顔をしていた。
「悪役令嬢って設定は必要ですか?」
触手ちゃんはまだ元マネージャーに問う。
「悪役令嬢というキーワードを入れられる点は、とても大きいんだよ」
「そもそもNTRシンジケートの悪役令嬢って何ですか?」
「も~ッ! いちいちおかしな点を追及しないでよ! 全体的に、リョナとしては正解だよっ! だよね、ショテちゃん!」
「……はい」
ずっと静かだったショテちゃんが答えた。
「ほら、ショテちゃんも大満足だって!」
「阿戸木さん。都合の良い解釈をしないで下さい」
「そんなことないよ! それより触手ちゃんはさ、粗探しじゃなくて、何か肯定的な感想はないの?」
元マネージャーは元アイドルを問い詰める。
「私的には、ショテちゃんの演技が良かったので、そこは楽しめましたが……やっぱり、おかしな点が気になってしまいます」
「ヘタクソな演技も良かったよ? 触手ちゃん」
にこやかな元マネージャーに言われて、触手ちゃんは少し不機嫌な顔をした。
「ショテちゃんの見事な演技、触手ちゃんが描いてくれた縮小見本画像、作品として仕上げたピックちゃんの編集能力、私の愉快なストーリーが詰まったこの最強動画で、一気に動画再生数を伸ばすぞ~っ!」
「また消されませんか、これ」
触手ちゃんのこの予想は、残念ながら当たってしまう……。
ミソは、調味料の味噌と区別するため、カタカナ表記としました。工夫や趣向を凝らした、自慢出来る点という意味を持ちます。
あと、NTRシンジケートの悪役令嬢が出るのは、クソ動画でしょう。
今回もお読み頂き、ありがとうございます。