1.ミソミソミーソ本編
近場で撮影される、元アイドルの二人。
あなたは動画を観ていた。
画面内では、川沿いの土手が映っている。
その場にいるのは、少女が二人だけのように見える。片方は白いチア衣装で、もう片方は襟が緑色の白いセーラー服を着ていた。
あなたから見て手前にいるのが、背を向けたチアガールの女子だ。白い背中では、黒い二本の三つ編みが垂れているのが目立つ。
「ちょっと待っていて下さいね、先輩」
奥にいるセーラー服のほうの女子が、緑の膝丈スカートの中に両手を入れる。下に穿いていたハーフパンツを、脱ぎ始めたのだ。
彼女が脱いだ紺色ハーフパンツは、地面に落とされた。
このセーラー服の女子も黒髪を三つ編みにしていたが、チアの子とは違い、一本だけだった。真正面からだと、ショートカットのようにも見える。
「……先輩。今日の私、ノーパンなんですよ」
ハーフパンツを脱いだ三つ編み一本の後輩は、衝撃的なことを告白した。
しかも、彼女はスカートを大胆に持ち上げて――。
「ほら」
あなたもチアの子も、下半身を見てしまった。
けれども、ノーパンと聞いて想像するような下半身ではなかった。
後輩は、オムツのような白いものを穿いている。
「びっくりしましたかぁ~? これ、下着じゃなくてハイウエストの水着なんですよ~っ!」
びっくりした分、とても損をした気分だった。
ハイウエスト。その名称の通り、高い腰位置から下半身を広く覆っている水着である。
ノーパンと言うのは正しいにしても、別の布を身に着けているのならば、パンツを着用しているのと大差はないだろう。
動画を観ているあなたの高ぶりが失われつつある中、後輩は緑色のスカートを元に戻した。
「あのー、先輩。もっとびっくりしたいのでしたら、こちらに座ってくれませんか?」
この後輩に従って先輩がその場に座ると、
「えいっ!」
「きゃあっ!」
先輩は後輩に押し倒された。
すぐさま後輩は、先輩へと馬乗りになった。
先輩のスカートの中の白いアンダースコートが、あなた視点では丸見えになっている。カメラ目線では、倒れた先輩のチア衣装のスカート内側と太ももが手前にあるからだ。
倒れた彼女の上に、こちらに背中を向けた後輩が乗っかっているという構図。
先輩のアンスコのお尻側には、たくさんの白フリルがついていて、繊細かつ美しい。見ていて恥ずかしいほど、見え過ぎている。
「ここからが本番ですよ? 先輩」
後輩は自分のスカートを先輩の頭にかぶせて、力任せで股をぐいぐい押しつける……のだが、画面では彼女の顔の正面がアップになり、先輩のほうはほぼ映らなくなった。
「下にっ、穿いていてっ、残念だと思ったですかぁ~っ? でもっ、こーいうことされると、気持ちよくなーい? 私は気持ちいいよぉ~、すっごく興奮してるぅッ! あぁんっ! これがやりたかったの! この興奮だよっ! 私が求めていたのはぁッ!」
拡大された後輩の火照った顔が上下する。若干、三つ編みも映る。画面外では、先輩への乗りかかり行為は続いているらしい。
その後。
激しく運動していた後輩が、静止した。
カメラが、かなり遠くに離れた。
画面中央で小さく映る二人。
後輩が先輩へと馬乗りをしたままの、静かな場面。
「ふふふふ……。――あーはっはっはっはっ!」
唐突に後輩が大声で笑い出し、カメラが彼女のほうに寄った。
「――残念でしたねぇっ、先輩ッ! いや、『チアガール警備員』! このチャンスを、私は一年も、一年もの間ッ、待っていたのだッ! ただ今のハイウエスト密着の効果によって、お前の必殺兵器『ポンポン異次元爆弾』を、もうこの場に出すことが出来ない! ふはははっ! 武器のないチアガール警備員など、チア衣装を着ないでポンポンを持っただけのガールのようなものだッ!」
本性を現した三つ編み一本の後輩は、宙に出現した黒い拳銃を手に取る。
彼女は先輩……チアガール警備員に対し、銃口を向けた。
「この私が、『NTRシンジケート・リミテッド』に所属する悪役令嬢だと知らずに、ここまで来たのが運の尽きよッ! 死ねぇっ、チアガール警備員ッ!」
悪役の顔になった後輩が発砲しようとする前に――、チアガール警備員が手を伸ばし、彼女の手首をギュッと強く握った。
「つッ!」
無様にも後輩は拳銃を落としてしまう。さらにはチアガール警備員に体を勢い良く押される。
「きゃあっ!」
後輩は地面に転がった。
チアガール警備員は立ち上がり、拳銃を拾い上げる。見下ろす後輩に向かって銃を構えた。
あっという間の形勢逆転だった。
「ポンポン異次元爆弾を出せないなら、敵から武器を奪えばいいじゃない」
チアガール警備員は後輩に銃口を向けたまま、ぎこちなく言った。
「おのれ~っ、チアガール警備員めッ! こうなったら最終奥義のハイウエストレーザーを撃つしかないっ!」
体を起こした後輩はお尻を先輩に向けて突き出し、制服の緑スカートを大胆に持ち上げた。白い水着のお尻側が見事に晒される。
「食らえっ! ハイウエストレーザー!」
後輩は振り向いて叫ぶ。
「それは無理。さっき、レーザー攻撃を禁止状態に変更したから」
「何ぃッ! いつの間にッ! 出ろッ! 出ろッ! ああっもうっ! なんで出ないのッ?」
お尻を見せた格好のまま、後輩はレーザーを出せずに焦っている。
一方で、チアガール警備員は拳銃を一旦下げて、後輩に近づいた。そして、彼女の首に黒いリングをつけた。
「なんだこれは! とっ、取れないっ! どうしてっ!」
後輩は両手で首輪をつかみながら喚く。
「それ、『ポンポン異次元爆弾』を出せないときのための、『異次元リング』。早く取らないと、爆発するよ」
「えーっ、そんなッ! 取れないぃ~ッ! ――ごっ、ごめんなさいっ! 私が悪かったです先輩! だからこれを早く外して下さいィ~っ!」
「謝ることは他にもあるでしょう? 私の彼氏をNTRしたこととか」
「あっ、あれはっ! 違うんですっ! ただ先輩の気が惹きたくて、やっただけなんです! 信じて下さいっ! そう! 私が愛しているのは、先輩だけ! 私、NTRシンジケート・リミテッドに所属する悪役令嬢ですけどっ、あなたのことがずっと好きでした! 愛しています先輩! 私と、つき合って下さいッ!」
一生懸命弁明と告白をした後輩は、普段の純情そうな顔を作り、静かに先輩を一心に見つめた。
「そう……。愛している私に殺されるのなら、あなたも満足でしょうね」
「ふぇ?」
後輩の額に、銃口がゼロ距離で突きつけられる。
「さようなら」
画面が一瞬で真っ暗に切り替わり、直後に鋭い銃声が鳴った。その後に、爆発音も続いた。
少しして、白い字幕が。黒い画面の下から次々と現れる。
『裏切り者の後輩は脳ミソを撃たれた』
『だから、明日から彼女は学校に来なくなった』
『だが……』
『チアガール警備員は、自宅の警備員』
『すでに学校にも通っていないので』
『そんなことは知るよしもなかった……』
『今日もチアガール警備員は』
『家でお味噌汁を飲む』
『ミソミソミーソ』
『完』
『制作・Mマネージャーとミツミツ有志』
これで動画は終了。
あなたはこの動画を観て、どのようなことを思っただろうか?
NTRシンジケート・リミテッド所属の、一応悪役令嬢でNTRをやらかす敵が、チアガール警備員に一方的にやられるだけの動画でした。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。