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アニミ物語  作者: カボバ
冬祭り編
94/276

22




バラ姫様は少し考えるとどこから取り出したのかベルを取り出し鳴らす。


すると部屋の中にクチナシが入ってきて、机の上に光沢のある真っ黒な盃を2つ置いてまた部屋を出て行った。




「私の庭に手を入れたいと言うならそれなりの覚悟を見せなさい。」


そう言って指を鳴らすと盃の上に火が点いた。


それと同時にここに居る3人の声とは別の笑い声が聞こえた。




「私のティーは火の毛皮を着た子よ。恥ずかしがりだから姿は見せられないけど、声は聞こえたでしょう?」


先ほどの声がそうだと言う事だろうか。


姉さんの方を見ると視線が盃の火に釘付けになっている。




「火や火炎としても優秀な子だけど、その本質は別。私のティーの能力は約束の炎。」


「約束の炎…。」


聞き慣れない単語に思わず聞き返す。




「そう、あなたと私で約束をする。その証に私は一雫の火をわたしてあなたはその火を体の中に入れる。」


盃の上に出てきた時になんとなく察していたが、つまり飲めということらしい。




「花園のメンバーは全員にお願いしてるの。あなたはちょっと特殊だったから保留にしてたけど、ちょうどよかったわ。」


「約束の内容を聞いてもいいですか?」


今聞いた内容からするとかなり無理があるような内容でも約束として守らなければいけなくなるが、それは避けたい。




「『花姫として誇り高く、決して園を穢さず私たちを害さない。』私たちは花園全員を指すわ。」


抽象的だがその内容は明確で分かりやすい。




「火を入れたからといって何か大きく変わるわけでもないし、通過儀礼のようなものだと思ってもらっていいわ。」


「約束を破った場合は。」


「その時は耐え難い苦痛が襲うと思ってくれていいわ。」


今まで花姫の中で約束を破った人がいないからどうなるかはわからないのだけど。と笑いながら付け足す。



(約束の内容がふわふわしてるのはその約束を守らせることよりも、これを目の前で飲むことのほうが重要だからか。)


約束を守った破ったはむしろどうでも良く、飲んだ事実が精神的な鎖として繋げておきたいということだろう。



「もちろんアズハ、あなたもよ。」


バラ姫様がそう言うと、盃の1つが目の前にもう1つが姉さんの前まで動いた。




「あなたを縛るつもりはもはやないけど、あなたたち2人のその向こうにいるあいつが介入する隙をつくりたくないの。」


その言葉は今起こっている問題だけでなく今後の未来の事や、過去までも指していると感じられた。



「さぁ、どうぞ。」


そう促され盃を両手でとる。


手で持った瞬間、ほんの少し火が大きくなったように見えたが不思議と熱さを感じない。



「姉さん、無理しなくていいよ。」



盃を取ろうとしている姉さんに声をかける。


その手はどう見ても震えていた。




「姉さんに昔何があったか、だいたいのことは聞いた。」


そう言いながら1度盃を置く。



「姉さんが心に辛い枷を付ける事になるなら断って別の方法を探す。私は姉さんに笑っていて欲しい。」


状況から察するに姉さんはこの約束のことを知っていたのだろう。




「あと10日くらいなら毎日掃除して警備隊の人呼んでそれ以上の異変が起こらないように過ごす、それだけ。正直私が解決しなくてもいい問題だから。」


立ち上がり姉さんの隣まで行き腕を掴む。



「だから、無理はしないで。」


腕を掴む手に姉さんがそっと触れる。



その指先は冷え切っていたが、触れているうちに熱を取り戻すように温かくなった。



「バカね…。あんたの覚悟を私のつまらない過去で台無しにするわけないじゃない。」


そう言って盃を手に取り一気に呷る。




「めんどくさいことのひとつやふたつがなんだっていうの、昔のことだっていつまでも気にしてられないのよ。」


バラ姫様が口元を抑えクスクスと笑う。




「アズハ、すっかり育ったじゃない。美しくいい表情するようになったわね。」


「ありがとうございます。」


「さぁ、リリーもお飲みなさい。」


座っていたところまで戻り椅子には座らず立ったまま盃を手に取り口をつけ飲む。



熱さは口の中に入っても感じず、息を吸うように火は喉の奥へと落ちていった。






「それじゃあ、これからの話をしましょうか。」


そこからは淡々とお互いに提案をし、改案と承諾をしていく。


そうして話はまとまり、バラ殿を出たのはお昼前だった。





昼食も兼ねて一度落ち着こうと言うことで、自宅に姉さんと一緒に戻った。


急な帰宅だったが彼女は嫌な顔ひとつせずソファーまで案内すると冷たいジュースを出してくれた。




「どうにかなって良かったわね。」


受け取ったジュースを一気に半分ほど飲んでから姉さんが言った。




「姉さん、ごめん…。」


「それは何に対する謝罪?」


姉さんまで花園の中に引き込んでしまったこと、過去のことを聞いていて黙っていたこと。


そのほかにもありすぎて、口から滑り出た謝罪はどれを指しているのか自分でもわからない。




「この学園では私みたいなのは多数派よ。誰でも理不尽なトラブルに巻き込まれるし、抗えない場合がほとんど。それでも卒業するまでなんとかしなきゃいけない。むしろ、私からすれば後腐れなく解決できて良かったわ。」


「本当に?」


「ミリアは昔から終わったことをクドクド考えすぎよ。」


そう言いながらガシガシと頭を撫でられる。




「目の前のめんどくさい問題を解決するためにちょうどいい後ろ盾が手に入った。今あるのはそれだけよ。」


「うん、姉さんありがとう。」





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