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アニミ物語  作者: カボバ
入学編
7/245

6




さらにそれから8日経った。馬車が停まった。



「門の出入りだけは徒歩で行わなければなりません。一度下車をお願いします。」


鎧の人にうながされる。


久しぶりに地面に足をつけられると静かに心躍ったが、鎧の人が開けた扉の先は静かな雨が降っていた。



「少々お待ちください、準備します。」


そう言って鎧の人は扉の横の戸棚を開け、中を探す。



「必要ありません。」


鎧の人にそう言って横をすり抜け外に出る。


手には黒い大きな傘を握っている。



指先には水に触れたような感触があるが濡れてはいない。



鎧の人は数秒の間こちらを見ていたが、すぐに戸棚を閉め馬車を降りた。扉を閉めると馬車は勝手に行ってしまった。



「こちらです。」


鎧の人の先導で門に向かう。



「ティップス学園の入学者をお連れしました。通行の許可を!」



大きな壁だと思っていた。


大きな地響きとともにガタガタと揺れだし壁の石が一つ一つ意思を持ったように動き出す。



上に右に左に、それぞれがどう動けばいいか予め訓練されているように動いて大きなアーチを作った。



「まいりましょう。」


鎧の人に続いてアーチをくぐる。


傘にしていた影は中に入ると勝手に消えた。


入り口から出口まで向かう間のちょうど中間に来たところで鎧の人は歩みを止めず壁をコンコンと打った。



「今週は何人、通過しましたか?」



どこに話しかけているのかと思ったが、どこからか反響した声が返ってきた。




「今週は誰も通っちゃいませんよ。最初の10日はそれはそれは賑やかだったのに最近は全く誰も来なかった。最後に通ったのは反対側を5日前に通ったのが最後さ。」


「そうか、ありがとう。」



「あぁ、そちらのお嬢さん、これからよく学びよく遊びよく知りなさい。君のティーは随分と変わっているようだ、でも素晴らしいティーだ。君が見上げる先に神の顔が見えますように。」



「…ありがとうございます。」




壁を抜けると外かと思いきや建物の中だった。

見回すと左右にカウンターがあり椅子の間隔から5、6人は同時に対応できそうだった。


今いる場所はカウンターの向こう意外に扉はないがきた道の反対側には2階に上がる階段がある。



そして通ってきた道はあっという間に壁に戻っていく。



右側の1番奥のカウンターの扉が開く。開閉音と扉につけられた軽やかな鈴の音、それから1人の女性が不安定なリズムの足音とともに入ってきた。




「お待たせいたしました、こちらへどうぞ。」


女性に促されカウンターに座る。鎧の人は階段を上がっていってしまった。



「それじゃあ、さっそく手続きしていきますね。まずはこちらに名前をお願いします。」


女性に言われるまま書類に記入していく。



名前、出身の街、両親の名前、兄弟の有無。




「あら、お兄さんがいるんですね。お兄さんもこちらに?」


「いいえ、兄は20の学校に進学しました。」



「20ということは戦士の才能をお持ちだったんですね。それとも努力をされて夢を追われた方?」


「どちらもだと思います。」



限りなく少ない思い出の中の兄はとにかく父が大好きだった。


絶対に父と同じティーを授かるんだといつも言っていた。



いつも夢を語りそのためにがむしゃらになれる人だった。



「それは素晴らしいことですね。」


そう言いながら女性は今まで記入した書類を1番上にしてその他の書類と一緒に簡単に綴った。



「それじゃあ、このあとは階段登って2階に行ってください。202の部屋で次の手続きを行なってください。」


「ありがとうございます。」



書類を受け取り立ち上がり、軽く頭を下げてから2階に向かった。




階段を登り1番手前の部屋の扉を見てみる。


「208」と書かれたプレートがつけられている。その横の部屋は207。

どんどん遠くに進み突き当たりの扉についているプレートが201だった。その一つ手前の扉を開ける。



明るい室内は小さな何かが飛び交う部屋だった。



(なんだろう?棒?クッション?)


細長い棒のようなものや手に乗るほどの小さなクッション、それに鋏や短いえんぴつも飛んでいる。



「どうぞこちらへ。」


窓際に人がいた。首から巻き尺をかけた女性だった。




「こちらでは制服の採寸と被服希望をうかがいます。」


「えっと…。」


「言葉が難しくて申し訳ありません。今着ている制服をこれからずっと着ていく好きな服になるために何かできることはありますか?ということです。」


とても噛み砕いてくれた。



「どんなことでもいいんですか?」


「そうですね。極端な改造はダメですが、たとえば動物のティーをお持ちの方々はそのティーが隠れることのできるフードや大きなポケットを要望されます。それから道具関係の私のような者はとにかく収納力をお願いします。」



そう言いながら女性は来ている上着を広げて見せてくれた。


上着からは想像できないほど色とりどりの布でポケットがついている。指を鳴らすとあちらこちらを飛んでいた様々なものがポケットに戻っていく。


どこに入ればいいか、どの順番で収納すれば中で綺麗に収まるか、教えられなくてもわかっているようにきちんと戻っていくのを眺めた。


「あなたのティーのためにお洋服ができることはありますか?」





少し考えた。


確かに入学案内には書いてあった。

服装は専門の職人と相談の上で個々の能力をサポートするため決まった形はない。


そのようなことが書いてあった。


最初に聞いていた学校へ行く道のりを考えると、少なくともあと5日以上はあるはず。



今希望を聞いて到着までには完成したものがわたされるということだろう。




(考えてなかったわけじゃないけど、言葉にしなきゃと思うと難しい…。)



あくまでふと考える程度のことだった。


しっかり絵にしたわけでもないし、そもそも被服の知識も人並だと思っている。




「例えばなんですけど、二重マントとかって可能ですか?」


それは父が持っていた私服の中でも特に大切な日に着るものだった。



正装の隊服に身を包んで上で真っ黒な光沢のある生地にキラキラと輝く縁どりがされたマントの名前を尋ねた時の事を思い出した。



「続けて。」


「できれば上半身をスッポリ覆って空間を作りたいんです。私のティーはまだちゃんとわからないんですけど影なんです。私が作った影ならどこでも動かせるんですけど、足元の影を動かすには目線との高さのズレ…、というかそんな感じでとにかく思ったようにできないことがあるんです。」



この部屋は窓から入ってくる日差しのおかげで明るい。


なので足元の影もしっかり濃くそこから伸ばした影で手の形を作りヒラヒラと振ってみた。



「たくさん練習したから私が考えてることがたぶん伝わって動かすのもキツくはないんです。まだ私側からしか伝えられないけど、もっと近くに手を伸ばすような感覚であればもっといろんなことができると思うんです。」



女性は何度かメモを取りながらこちらの話を聞いていた。そして少し考えるようなそぶりをして大きくうなずいた。



「わかりました。学園の規定にも問題ないと思います。」


そして机の引き出しから大きな本を数冊取り出した。



「先ほどの話ですと影になる必要があるとのことなので薄く風通しの良いヒラヒラしたものより、少し重たいですが遮光性が高い物がいいと思います。」



出してきたのは小さな布が貼り付けられた見本帳だった。


黒だけで何枚もあるし、ツルツルしたものもあれば糸の一本一本が主張して織られている形がしっかり見えるものもある。





「前は袖より少し長いくらいの位置にして後ろは思い切ってお尻のまで隠れるような角度をつければ…、いっそのこと袖口をこっちに作って…。」


これはたぶん私に話しかけている訳ではなく思考が漏れ出てきている。



見本帳をめくりながらスケッチを走り描き、何かをメモしてはまた描き足していく。




 


8月10日から18日まで毎日更新予定。

20時前後の更新を予定しています(その後はどうするか検討中)

 

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