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「あ、あの、…私。」
女子生徒が口をパクパクとしているが出て来た言葉はほんのわずかだった。
「私たち似たような服装をしているからもしかして近しいティーなのかなって思って。」
沈黙が女子生徒をより緊張させないように話しかける。
ゆっくり1歩ずつ近づいて手を伸ばせば届くという距離にきた時、彼女の服が大きく揺れた。
「…来ないで!!」
女子生徒がそう叫ぶと同時に羽織の襟元から何かが飛び出してきた。
咄嗟に頭を振って避けたが、避けきれず強い衝撃と共に顔の横を何かが通過する。
髪を引っ張られたかと思うとすぐに強く頭を押される。
(腕の力だけで引き倒そうとしてる。)
立っていることが難しく体勢を崩した先には女子生徒。
一瞬の出来事なのにやけに思考はハッキリしている。
前に倒れる瞬間、自身の腕を伸ばし女子生徒の肩を掴み一緒に倒れる。
人が2人、倒れたはずなのに大きな音もしないとその空間にいた者が慌てて駆け寄る。
倒れたはずのその場には何もいなかった。
ほんの少し濃い影が揺れるのを4人とも確認したが、すぐにどの影だったかわからなくなる。
「・・・・。」
女子生徒の肩を掴んだまま影の中に入った。
それは理解している。
しかし女子生徒は何が起こったのかわからず、あたりを見回しながら体の前で何かを抱えている。
女子生徒の肩を掴んだ手だけは絶対に離さないようにしながら起き上がり、向かい合って座る。
「怪我は?」
見たところ大丈夫そうだが、まずは会話が成立するかを確かめる。
「だ、大丈夫。」
少ししどろもどろしながらも答えてくれた。
「それはあなたのティー?」
女子生徒が胸に抱くそれは明らかに異常なもの。
抱えている腕よりも大きい大人の腕。
爪はいびつで長さがそろっておらず、皮膚は傷だらけだ。
「…うん。」
蚊の羽音よりも小さいのではないかと思うほどの声で女子生徒が答えてくれた。
「物がなくなったりしてたのはその子がやったの?」
「…知らない。」
今度は少し間があったがハッキリと答えた。
「いつもそばに居てくれない。どこかに行ったと思ったら何かを持って帰ってくるから戻してきてって言わなきゃいけなくて…。」
ぶつぶつとつぶやくように言い続ける。
「持って来てくれるならペンとか靴とかじゃなくてもっと他のものがいいって言ったら、怪我して帰ってくるようになったの。」
ティーが何を持ってこようとしていたのかわからないが、きっと大きな手でも有り余る何かを持って来ようとしたのだろう。
「私、どうしたらいいかわからなくて。このままじゃ怒られると思って、やめてって言ったこともあったけど…。」
そういいながら両手で頭を掻きむしり出し、詰まる言葉の間にティーが落ちる鈍い音がした。
「私だって何が欲しいのかわからない…。でも先生は私が何かを欲しがってるからティーが勝手に動くんだって言ってた。」
いうことを聞かないティーとそれに対するアドバイスが彼女を結果として追い詰めてしまったのだろう。
その時大きな衝撃が体を揺らす。
女子生徒のティーが首を掴んできた。
とっさのところで親指部分を左手で掴むことができたが、いつまで抵抗できるかわからないほど強い力で首を掴まれる。
「やめて、ねぇやめて…。」
女子生徒が懇願しながら腕部分を両手で引っ張ってくるがびくともしない。
「やめて、じゃなくてさ。もっと前向きな言葉でお願いしてみようよ。」
まだ息はできる。
掴まれている首も先ほど負傷したであろう頬も痛いが、まだそれだけだ。
(姉さんや先輩が入った時、手を離したら2人とも動きも喋りもしなくなった。だからこの手は絶対離せない。)
女子生徒の肩を掴む手に力が入る。
今はこの手だけが女子生徒を影の中で正常に行動できる通行証の役割だ。
「もう一度言うよ。はじめまして。よければお友達になりませんか?」
教職員室で言ったことをもう一度繰り返す。
女子生徒のティーに抵抗する力と彼女を離すまいとするための力と、今度は彼女の目を見て言ったため一音一音ごとに妙な呼吸音が入ってしまった。
「…えっ?」
予想外の言葉をかけられたであろう女子生徒が引く力がなくなってしまいより首への締め付けが強くなる。
「どうしたいかさ…、今は私しか聞いてないから言ってみてよ。」
「私今まで友達なんて居たこと…。」
「そっか、だったら私が最初の友達…かな…。」
「私は…。」
彼女がそう言い淀んだ瞬間首を掴むティーの力がほんの少し緩んだ。
すかさず親指部分を掴んだ左手を力一杯引っ張りティーを首から引き離し投げる。
「せっかく同じクラスなんだもん。みんなで一緒にご飯食べたりさ、ゲームしたりしたいな。」
耳元で心臓が鳴っているのではないかと錯覚するほど大きな動悸がし、頬を伝う血が脈拍に合わせてどんどんと出てきていて襟まわりを濡らす感触がする。
「私はミリアって言います、名前を聞いてもいいですか?」
うまく笑えているかわからないが精一杯の笑顔で左手を差し出す。
「私はリンカ…。」
そう言いながら差し出した左手を震える両手で掴んでくる。
いつの間にか女子生徒、リンカの膝の上に戻って来ていたティーが再び飛びついてきた。
「やめて!私の友達をこれ以上傷付けないで!!」
ティーはこちらの顔に触れるかどうかというところでビクッと大きく揺れる。
そしてその大きな手のひらを血が流れる頬に押し付けて来た。
(止血しようとしてくれてるのかな?)
「やっと自分の意見を伝えることができたね。」
そういうとリンカは1度驚いた顔をしたがすぐにうなずいた。
「それじゃあ、みんなが心配してるだろうし外に出ようか。クラスメイトにもリンカを紹介したいし…。」
そこまで口にしたところで急に頭がクラクラとしてくる。
極度の緊張状態が緩んだからか、それともただ体力という名の電池が切れたか。
リンカが掴む左手でリンカの肩をしっかり抱き寄せ、今までリンカの肩を掴んでいた右手を頭上にあげる。
ちゃんと意思が伝わったようで右手が影の外に出た手探りであたりを探ればそこが床だとわかる。
精一杯腕をのばし肘のあたりまで外に出たところで力一杯床を叩くと、すぐに誰かが右手を掴んで引っ張ってくれた。
「ミリア、大丈夫か!?」
リンカを抱えた状態のまま教職員室の床の上に影の中から引きずり出された。
引っ張り出してくれたコウヤの声にうなずくことはできたが声を出すほど余裕はなかった。
この章ももうすぐ終わりですね…
活動報告の方でもいいので感想やコメントなどお待ちしております。(2024.10.15)




