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そうこう話しているうちに、お昼になった。
姉さんにお昼も食べて行くかと聞いたが、午後は別に用事があるのでと断られた。
後ろで彼女が少し残念そうな顔をしていたが見なかったことにしよう。
「それじゃあ、ティールームのお誘い楽しみにしてるわね。」
そう言って姉さんは帰って行った。
家の中にはパイの焼けるいい匂いが広がり、先ほどお茶をいただいたにもかかわらず食欲を刺激される。
彼女が用意してくれた昼食を食べながら、オーブンから取り出されたパイを見ると綺麗な焼け目がついていた。
粗熱をとっている間に2階の奥の部屋に彼女と向かう。
どうやら先日のように花が咲き綺麗な実をつけるのは月に一度程度らしい。
しかし元の木は数日置きに花を積んでいるのにまだ花が咲き続けている。
そして一昨日植えた他の植木鉢からも芽が出ているものがいくつかみられた。
彼女曰くいつ植えても実をつけるタイミングは一斉に来るそうだ。
「この花、を飾るための部屋を用意してもらってるから今は大切に収穫しないとね。」
彼女にそういうとにっこりと笑った。
Sクラスの使用している部屋は授業がない土日でも利用できるようで、ミチカとは1211室に15時で約束している。
「おまたせ。」
1211室に到着したのが約束の5分前だったが、すでにミチカは部屋にいた。
「ミチカって休日もここにいるの?」
なんとなく疑問に思った事を聞いてみた。
「うん、そうよ。他に行くところもないもの。」
ミチカは片付けながら、そう言った。
「それよりすごくいい匂いがするわ。」
その言葉に合わせてミチカのティーもご機嫌そうに鳴く。
「パイを焼いてきたから後でみんなで食べよう。」
片付けが終わったミチカと一緒に校舎を出てミチカが呼んだトラムに乗り込む。
当たり前だが普段乗る車両より大きく大勢が乗れるように座席は中央に背中を合わせるように外向きに座る長椅子のみの作りだった。
今日は土曜日のためか他に乗っている人もおらず、広い車内には2人だけだった。
「歩いても帰れる距離ではあるんだけどね。」
そう言ったミチカの言葉通り、次の停留所で降りて道沿いに少し戻る。
「ここが私たちの寮3022棟。ようこそ、ミリア。」
その建物は一言で言えば可愛らしい造りをしていた。
絵本に出てくるレンガの家とでも表現すれば良いのだろうか、中央に大きな玄関、そして左右に同じ長さだけ同じ屋根が伸びている。
ミチカに手を引かれるまま中央の玄関から中にはいると、広々としたスペースが広がる。
「ミチカおかえりー。」
「ミリアいらっしゃい。」
部屋の中央を占拠する大きなソファーではカードで遊ぶテルマとユウガがいた。
ミチカにならって下足箱に靴を入れていると、小さなブラウニーズが走り寄ってきてスリッパを出してくれた。
そのままパタパタと戻って行こうとするので、呼び止める。
下足入れの横には帰宅時にすぐ手洗いができるように簡易的な洗面スペースがあったので手を洗い、影の中から大きなバスケットを出す。
「これ、私の家のブラウニーズが作ってくれたパイです。よかったら夕食と一緒に出してくれますか?」
膝をつきバスケットを差し出しながらお願いする。
こちらをしばらくじっとみた後、バスケットをヒョイっと持ち上げ部屋の奥へと小走りで行ってしまった。
「すっごくいい匂い!今の何?」
ユウガがソファーの背から身を乗り出しきてきた。
「夕飯までの秘密。」
ソファーの向こうには食卓がありその向こうはキッチンだろう扉がある。
「私、部屋に荷物置いてくるわね。」
そう言ってミチカが右手側の廊下の方に行ってしまった。
「そっちが女子寮で反対が男子寮。ここが共有スペースで22時までは自由に使っていいルールになってるんだ。」
なるほどと思いながらソファーの適当なところに座る。
「昨日のこと聞いたよ、大変だったみたいだね。」
そう話し始めたのはテルマだった。
「その件で話をしたいんだけど、コウヤとコナミは?」
「コウヤがコナミを迎えに行ってるところ。」
そんな話をしているとちょうどいいタイミングで2人が入ってきた。
ミチカも戻ってきて6人でソファーに座ったところで、ブラウニーズが2人キッチンの方からジュースの入ったグラスを持ってきた。
「それじゃあ、話を整理しよう。」
そう切り出したのはユウガだった。
昨日の事、そして約2週間前にミチカのティーがあった被害のこと。
それに対しての不可解なことと最近起こっていること。
「それで、僕のティーを通してミチカのティーに話を聞いてみようって事になったってことでいい?」
「その前にテルマに聞きたいんだけど。」
「何?」
「私のティーでもテルマのティーって意思疎通できる?」
それができれば話が早いと思い聞いてみた。
「どうなの?」
テルマがティーに聞いてみると、シロイヌがこちらによってきた。
しばらく足元をうろうろとしてワンっと一つ吠えた。
「ダメだって。」
影で手を作りテルマのティーをわしゃわしゃと撫でる。
それに対して遊びスイッチが入ったのか飛びかかったり甘噛みしてみたりし始めたのをテルマが捕まえる。
「ティーが言うには話しかけても何も返ってこないって。」
「そっかー。」
期待していたわけではないが、少し残念な気もする。
「昨日足をとられたときに1番近くにいたのはたぶん私のティーだからそこから証言が聞ければ1番かと思ったけど、そううまくはいかないね。」
「ミリアのティーってどう言う存在なの?」
それはもっともな疑問だし簡単に答えられる質問ではなかった。




