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「動物にしろなんにしろ、ティーをちゃんと使いこなせてる、言うこと聞いてくれるのってこのクラスくらいだよ。」
その話を聞いてギョッとした。
他の3人がその顔を見て、手を引いて教職員室奥の部屋に連れて行ってくれた。
その部屋は多目的室Aを上から見学できるようにしてあった。
「さっき下にいた時にものすごい叫び声とかが隣から聞こえてきてたからどこかのクラスが授業中なのはわかってたけど、Dクラスだったんだね。」
その光景は同じ学園に通ってる同じ学生のものなのかと疑いたくなる光景だった。
「あー、ミリアも知っちゃったか。」
翌日、朝起きるといつも通り彼女が用意した朝食を食べ今日は彼女と一緒にパイを作ると約束していたので彼女が用意したエプロンを身につけて準備しているところに姉さんが訪ねてきた。
姉さんはキッチン正面のカウンターに彼女がどこからか出してきた背の高い椅子に腰掛け出されたお茶とクッキーを食べながら昨日あったこと聞いてくれた。
「あれが、本来の授業の光景かと思うと…。」
「ほとんどの子が動物、それも犬とか猫とか鳥とかが多かったでしょ?動物にもよるんだろうけど気性の荒い子も多いから大変よね。」
昨日見た光景は恐る恐る手を伸ばした結果犬に噛まれ猫に引っ掻かれ鳥に突かれる。
簡単にいえばそんな光景だった。
「プレパートリー中はティーとの対話、意思の疎通ができるようになるための1年よ。それができてるからミリアやミリアのクラスの子たちは自由な時間も多いし特権もある。」
S以外の他のクラスでは1日の半分は基礎学力の授業もう半分はティーとのコミュニケーションだそうだ。
2クラスずつ午前と午後入れ替わりでほぼ毎日昨日のような光景が繰り広げられているらしい。
「ティーがおとなしく従ってくれる。いうことを聞いてくれる。何を求めているか理解する。これができないうちは学校と寮を往復する生活からは抜け出せないわ。」
買い物もできないのよと付け加える。
どうやらクラブハウスのあるような街に行くにも何かしら条件がいろいろとあるようだ。
「姉さんも入学した頃はそうだった?」
彼女がスライスしたリンゴを鍋で砂糖と煮込みながら手を止めずに聞く。
「私は、そのステージはここに来るまでの馬車の中で終わらせたわ。」
夢の中に4日間ほど引きづり込まれて半ば殴り合いのようなことをしていたとサラッと言う姉さんはどこか遠くを見ていた。
「本来はそういう物なのよ。それができないから、最初の1年を一つの学年として区切っているのよ。」
なるほど。と納得した。
「それよりもミリア、さっきサラッと言ったけど、階段から落ちたって何事!?」
「未遂です。怪我もしてません。」
姉さんがぐいっとお茶を飲み干したためカウンター側に手を伸ばしながらお茶のおかわりを注ぐ。
そして、昨日あった事を話す。
「つまり、誰かが物を隠したりティーにイタズラしたりしてるんじゃないかって考えたわけね。」
「うん。」
彼女に指示されて生地を延ばしていた手が止まる。
「でも、それは不可能に近かった。」
見てしまったからこそそう思える。
誰にも気が付かれる事なく物を盗んだり、足を引っ張ったりすることは今時点ではかなり高度なティーの操作が必要だ。
「それで、これからどうすることにしたの?」
「まずは昨日いなかったメンバーも含めて情報収集。あとティーと喋れる人が同級生に居るからその子を介して引っ張られたティーから話を聞けないかなぁと思ってる。」
昨日あの場にテルマが居なかったので今日集まる時にその話をしようということになった。
たぶん寮に帰ったあとのミチカやユウガ話はしているだろう。
「今できるのはそれくらいかなぁ。」
型に敷いた生地にリンゴのフィリングを乗せ、さらに彼女が表面を美しく飾りながら生地で蓋をする。
その様子を姉さんと見ながら話しを続ける。
「そういえば、姉さんは今日はどうしたの?」
「そうそう!昨日手紙くれたでしょ。あのあとすぐにスバルに相談したわよ。」
そう言って姉さんが荷物をゴソゴソと探り1冊のノートを取り出す。
「スバルが昔、ティーの研究してた頃に記録ノートだって。今は課題締め切り前で直接会うのが難しいからまずはこれを参考にしてみて、わからないことがあったらいつでも手紙くれってさ。」
「ありがとう、姉さん。コナミにもそう伝えておくね。」
姉さんからノートを受け取る。
姉さんの隣にもう1セットお茶の準備を彼女がしてくれてそこに誘導される。
彼女はもう一つ同じサイズのパイを手早く仕上げている。
どうやら中身は鶏のひき肉のようだ。
「同級生とはうまく仲良くなってるみたいで安心したわ。」
「いい友人に恵まれました。」
「それから先輩から聞いたけど、また別の厄介ごとにも巻き込まれてるみたいね。」
姉さんが腕を回しガッツリ肩を組んできた。
「ミリア、まだ学園に通い始めてから1週間なのに巻き込まれの才能にでも目覚めたのかしら?」
「そんなことないよー、偶然の産物だよー。」
やってしまった自覚はあるため、決して目を合わせないようにしながら投げやり気味に答える。
「オベロ先輩に直接頼まれたんだって?うちの先輩だけでも他から見れば化け物なのに、さらに化け物と遭遇するってどういうことかしらね?」
「私悪くないよー。たまたまだよー。」
ちなみに彼女は2つのパイをオーブンに入れた後、粗方台所の片付けを済ませ他の家事をするためにどこかへ行ってしまった。
「まったく。で、それは解決できそうなの?」
姉さんが半ば諦め気味に聞いてきた。
「一応当事者とは今日どこかのタイミングで2人で話ができればなぁと思ってる。」
「今日の食事会はそれがメインってことね。」
そう言われて頷く。
本当はそっちがメインだったのに、緊急で別件が入ってしまった。
「本当に無理しちゃダメよ。」
「わかってる。」
結果として無傷で助かったが一歩間違えば大怪我していたかもしれない。
その自覚はちゃんとある。
「そういえばティールームは月曜日にできるのよね。」
「とりあえずのかたちまでは作ってくれるって言ってた。」
「なら、完成したあかつきにはぜひ誘ってね。」
「わかった。」




