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「あとは返事待ちだね。」
コナミはティーの練習で疲れたとのことだったので一度下のラウンジに戻ろうかということになった。
練習は1223室でやっていたので中央の階段を降りて一階に向かう。
すると下からも上がってくる気配がした。
「ミリアたちも休憩?」
下から一階に上がってきたのはミチカとコウヤだった。
「うん、一区切りついたからラウンジに行こうかと思って。」
「そっかじゃあ一緒だね。」
階段の踊り場とフロアでそんな話をしながら一歩踏み出す。
いや踏み出そうとしたその足が上がらず、バランスを崩した。
その瞬間何故かやけにゆっくり時間が流れるような感覚になり周りの状況を把握できた。
ミチカは悲鳴をあげ、コウヤとコナミは驚いている顔をしているのが見える。
コナミが手を伸ばすがその手は届かず空を切る。
ミチカと話していたので少し身を乗り出すような体制で階段を降りようとしていたためにすぐに階段に転がることはなく、宙に投げ出された身体。
しかしこのままでは階段の中央部分に肩から着地し下まで転がってしまう。
(お願い、入れて!!)
そう強く願ったと同時に階段が黒い影で覆われ、水面に飛び込むような感覚を伴って中に入る。
それでも来るべき着地の衝撃に備えようと両腕を構えたが、意外にも何かに包まれるような感覚で落下感は止まった。
そしてそのままゴロゴロと数回転がり勢いを完全に殺す。
(とりあえず出ないと。)
そう思い手を伸ばし影から出すが、その手に触れる感触は階段の床ではなかった。
ともかく出なければと思い出てみるとそこは教職員室の床だった。
ちょうど机も椅子もない通路に出てきたようだった。
「ミリアさん、何してるの?」
そう声をかけてきたのはユノカだった。
「すみません、階段から落ちそうになって慌てて影の中に入って出てきたらここでした。」
状況を簡潔に説明する。
「なるほどね。廊下から悲鳴が聞こえてノオギ先生がすぐに様子を見に行ったのよ。」
怪我がないようなら行っておいでと言われて、体に痛いところは無いし服装を軽く整えてから教職員室を出た。
「ミリア!!」
大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべたミチカがこちらに気付き走り寄ってきた。
「怪我はない?慌ててもないのに階段の1番上から落ちるなんて。」
「大丈夫だよ。少し落ち着こう。」
「ミリアは落ち着きすぎだけどな。」
そう言ってきたのはコウヤだった。
「怪我はないな。」
「はい。」
「なんで教職員室から?」
「影の中で少し移動したことになってたみたいで、出たところがちょうど教職員室。あと誰か、私の靴知らない?」
落ちた時に上がらなかった片足の靴が脱げる感覚があった。
今の所影の中にある感覚はないのでどこかに転がっているだろう。
「それなら、これなんだけど。」
歯切れの悪言い方をするコナミが差し出してきたのは確かに脱げたはずの片方の靴だった。
しかしその靴は中央の部分、靴紐やタンがバッサリと裂けていた。
「なんで…?」
靴を受け取りながら思わず言葉が漏れる。
「俺たちが拾った時にはもう靴はその状態だった。」
「ミリアのティーが影を拡げる時に裂けた可能性は?」
そんな感覚はなかった。
「それはないと思う。別に靴を裂いてまで飛び出す必要はなかったし。」
影はどこからでも出せるし、どこにでも発生できる。
足元からしかできないなどの条件は今のところないのだ。
「何があったか詳しく教えてもらえるか?」
そう言ったのは3人の後ろで聞いていたノオギだった。
ノオギにとりあえず教職員室に誘導されて、4人全員が今日職員室に入った。
そこで何があったかそれぞれの目線から順番に話した。
「つまりミリアは誰かに足を引っ張られたと。」
「引っ張られたというか掴まれたというか。」
言葉は難しいがとにかくそういう感覚だったということだけは伝わった。
「なるほど、怪我がないようならこれからは注意するようにな。」
それ以上のことはなく4人揃ってラウンジに戻ってきた。
靴はとりあえず裂けている部分を靴底からぐるぐると紐で縛って帰宅してから処分しよう。
「なんか変だよね?」
「というと?」
コナミの言葉にコウヤが疑問で返す。
「結果的にミリアも下にいた2人も怪我がなかったけどさ、これってちょっとした事件じゃない?」
「そういえば最近多いよね。物がなくなったり誰かに引っ張られたって言ってる人。」
「そういえば少し前にミチカも何かに引っ張られたって言ってなかった?」
ミチカが数日前に教えてくれた情報を再び出したかと思えばさらに追加で話が出てきた。
「私がっていうんじゃなくて、私のティーがね。」
話を聞いてみれば1人で1211室で勉強をしている時に、ミチカのティーが聞いたこともないような鳴き声をあげたので何事かと思ったら部屋の外にズルズルと引っ張り出されるところだったという。
「後ろ足か尻尾を掴んでズルズル引っ張られてるって感じだったわ。慌てて外に行ったらティーだけ居たからその足ですぐに先生に言いに行ったのよ。」
「誰かのイタズラかな?」
だとしてもすぐに姿を消すというのは不思議すぎる。1211室のすぐ横は階段なのでできなくはないが。
「他のクラスの人のイタズラって可能性は?」
思ったことを質問してみた。
「あぁ、そっかミリアは知らないのか。」
その答えに首を傾げる。




