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翌日金曜日の語学の授業後、教職員室に向かうノオギを追いかけた。
「両親と兄に手紙を送りたいので、お願いします。」
そう言って2通の封筒をわたした。
「わかった、預かる。それから薄々察してると思うが、プレパートリーの間は学外から出す手紙も来る手紙も基本的には一度こちらで内容を確認することになっている。」
「はい、わかりました。」
それは昨日、姉さんから手紙の出し方を聞いた時に薄々察していた。
「普通に納得するんだな。」
「今更、それくらいのことで驚かないというかなんとなくそうだろうなぁとは思ってたので。」
普通にこの歳でいきなり親元から離れた悲嘆するか非行するかだろう。
口に出せない不満や体調不良やわだかまりを書く場合もあるし、中には外部に漏らしたくない情報を書く場合もある。
「5人に1人くらいは出すのをやめるんだけどな。」
「それは人によるとしか言えないですね。」
手紙の内容はシンプルに無事到着したことと健康に過ごしていることを書いた。
なんとなく予想はできていたから当たり障りのない内容だけにした。
「わかった。ちゃんと出しておく。」
「ありがとうございます。」
ノオギが立ち去るのを見て、逆方向の部屋に向かう。
「おかえり、どこに行ってたの?」
1213室にはすでにミチカが居た。
「両親と兄に手紙を書いたから出してもらえるようにノオギ先生にお願いしてきた。」
「そうだったのね。」
そう話ながら隣の1212室に入る。
いつものように暖炉の前で円になるように座り昼食を食べ始める。
「ミリアはお兄さんがいるのね。」
ミチカがそう言った。
「そういえば、みんなは兄弟とかいる?」
そう話を広げたのはテルマだった。
「私は一人っ子よ。」
「僕も。」
ミチカが1番最初に答え、テルマもそれに続いた。
「俺は兄が1人。」
そう言ったのはコウヤだ。
「私も兄が1人。」
「俺は兄2人姉1人、弟1人の5人兄弟。上の兄弟はみんなグランセスに行ったしたぶん弟もグランセスに行くんじゃないかな。」
兄弟が多いのはユウガだった。
「俺は兄2人だよ。」
そう言ったのはコナミ。
「じゃあさ、兄弟がこの学園にいる人いる?」
その疑問を最初に口にしたのはミチカだった。
「俺の兄がプロフェッションだ。」
「そうなんだね。」
コウヤの答えにすかさずテルマが言う。
「俺の家は俺しか来てないし、ミリアのお兄さんは?」
「私の兄も違うよ。兄さんは騎士になりたいって別の街の学校に行ってから会ってないけどたまに手紙もくれるよ。」
「ってことはうちの兄貴たちと一緒だな、俺の家系は騎士というか武人ばっかりだから。」
「もしかしたら同じ学校か知り合いくらいにはいるかもね。」
騎士の学校はいくつかありどこの入学試験を受けるかは自由である。
兄の場合というよりそのほとんどが両親のどちらかもしくは師と同じ学校に入学を希望する場合がほとんどで、兄も例に漏れず父の通っていた学校に進学した。
そして、複数ある学校はそれぞれが独自のカリキュラムでその技術を磨き年に数度学校の垣根を超えてその技術を競い合う。
だから学校が違ってももしかしたら知り合い、もしくはどちらかが一方的に知っている可能性は無いわけではなかった。
「さて、みんな午後はどうする?」
語学の授業前に今週の課題を回収された。
そして次の課題は月曜日のクラスミーティングでわたされるため急いでやらなければいけな課題もない。
「私は多目的室が空いてたらそこで少しこの子と遊んでくるわ。」
そう言い自身のティーを摘み上げたのはミチカだった。
「俺も参加していいか?」
そう乗っかったのはコウヤだった。
「僕は先輩に呼ばれてるから午後はそっちに行く。」
その答えはテルマだった。
「ミリアもし暇だったら、この間の実技の時にもらったアドバイスをもう少し具体的に教えて欲しいんだけど。」
「今日は午後は何も用事入ってないから大丈夫だよ。上の部屋でやろうか。」
「俺はティーと一緒に散歩してくる。それなりに運動させないと大暴れするかもって先輩に言われてるからさ。」
みんなそれぞれやることが決まった。
片付けをしてそれぞれ行動に移る。
「たぶん、コナミのティーと私のティーって少し似てるところがあると思うんだよね。」
そう言いながら影を手のひらからニョロニョロと出して見せる。
「俺のは線だけしか出せないって思い込んでた可能性もある?」
「それはどうだろう。ペン先から出すっていう都合上それしか意識してなかったのかも。」
そんな話をしながら、何度か試してみる。
さすがに最初からできるわけではなく、何度出しても同じような線しか出てこなかった。
試しに紙の上に書いた線と同じ形状のものを出す事を強く意識したら何度目かの挑戦で太さの違う線を出すことができた。
「やっぱり似た性質なのかもね。私も何日も練習していろんな形を出して維持できるようになってきたから。」
そう言って影でつくった傘をさしてみせる。
「こんなに大きくなくて最初はコップを横に置いて同じ形を出してみてたりとかしてたよ。」
「なるほどね。ペンは文字を書くものってのに囚われすぎてたのかも。」
書くことができるなら塗りつぶすこともできるかもしれないし、もっと他の可能性もあるはずだ。
「コナミのブーケットの先輩は似たようなティーじゃないの?」
「全然違うティーだよ。学園案内の後から会ってもないし。」
コウヤやユウガが話ているの中で似たようなティーの持ち主だったので、もしかしてと思ったがあてがはずれた。
「確かに先輩に話を聞けたりすれば、もっと使い方の幅が広がる気もするなぁ。」
そんな話をしていて1つ思い出したことがあった。
「私の先輩の同じ寮の人に絵筆で描いたものを一定時間現実に出せる先輩が居るんだけど、話を聞けるか先輩に聞いてみようか?」
「本当に!?」
「まぁ、聞いてみないとわからないけど。」
そう言って影の中に手を入れ目的のものを引っ張り出す。
「それ便箋?」
「うん、使い方が特殊なんだけど学園内だったらすぐに出せるんだって。」
昨日買ったレターセットを取り出す。
簡単な挨拶と本題、それから使い方を試してみたかった旨を書き封筒に入れて封をする。
そして机の上に置き手を離すと封筒が勝手に動き出した。
何度かの折ると広げるを繰り返すと封筒は小さな鳥の形になり両の翼を羽ばたかせて飛び上がった。
慌てて窓を開けに行くと空いた窓からスーッと空に飛んでいった。




