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アニミ物語  作者: カボバ
入学編
4/243

3




引っ張って開けた扉がすぐさま閉まり短い廊下の先にある扉を押して開けた。



誰もいない部屋を見回す。

中は小さな教室のような場所だった。


と言っても大きな机に6脚の椅子、机の上には数冊の本が置かれているが誰もいないこの部屋に似つかわしくないほど色褪せた感じもなく真新しい感じがして手に取ろうとは思わなかった。




適当な椅子に座り、もう一度足元を覗き込む。




やっぱり真っ黒だ。




恐る恐るという態度が伝わってくるかのように手を伸ばしてみる。


すると影の方も恐る恐ると端の部分を持ち上げるようなかたちで動き出す。



そっと触れてみる。

やっぱり冷たくて柔らかいが中に何かが動いているような流れているような感触が伝わってくる。


両手でそっと掴み立ち上がる。



なんの抵抗もなく伸びた。

手を離してみれば、物が落ちるよりもゆっくりとした速さで影が戻っていく。


手をそのままにしていると再び手の中に戻ってこようと影が動き出す。





しかし、扉がノックされる音で気がそっちに向いた瞬間影は足元へ素早く戻っていった。





「失礼します。」


入ってきたのは頭の上からつま先まで余す事なく鎧に包まれた人だった。




「あなたは神に選ばれました。よって今後、成人するその日まで学ばねばなりません。」


やっぱりそうかと心の中の奥底から誰かが言った気がした。




噂には聴いたことがある。


基本的には適性よりも個人の意思主張が重視されるが、何事にも例外がある。


数年に一度、儀式の直後に街からいなくなる子は確かにいた。

その理由は仲の良かった友達にも近所に住む人たちにも知らされていない。

突然ぽっかりその人が居た日常が切り取られて繕われる。


その瞬間はとても不思議な光景でもあっという間にそれが日常になるのだ。




(アズ姉さんもそうだったな。)


3つ年の離れた友達のことを思い出した。



分け隔てなく優しかった彼女は当時兄が居なくなった頃の私をとても気にかけてくれた。


彼女の周りには彼女の友人とそのまた友人といった感じでいつも人の笑顔で溢れていたのを覚えている。



しかしやっと彼女の周りに咲く笑顔の花の1人になれたと思っていた頃、彼女も居なくなった。


彼女だけでなく彼女の両親も営む街1番の菓子店とともに街から姿を消した。





(教会から大きな悲鳴が聞こえたとか、神様が預けずに懐にしまってしまったとかいろいろ言われてたなぁ。)


実際その日に教会の近くに居た人は女性の悲鳴が響き渡ったとちょっとした混乱状態になったらしい。






「さぁそんなわけで、今すぐ出発しますよ。」



鎧の人は机の上にあった本を持ち上げ入ってきた扉の右隣にある扉を開けた。


そこは教会の裏側にある普段子供達がかくれんぼや大人達に聞かれたくないいたずらの計画などをする空き地だった。



今はそこに立派な馬車が停まっている。


馬車というにはいくつか疑問がある。

まず荷台が小さな小屋に見える。側面に入り口があり屋根の上には小さな煙突も見える。

絵に描いたような小屋に四つ車輪をつけたような作りなのだ。


そしてそんな荷台を曳くの2頭の木彫りの馬だった。といっても見たことのある馬より2回りほど大きいと思う。

ナイフで削り出されてヤスリで表面を整えられたようにみえるその生物はその動きまで馬そのものだった。




「さぁ、お早く。」


鎧の人が扉をあけ中から簡易的な階段を出して設置してくれた。



「あの、出発前にせめて両親とお別れを…。」


「ミリア!!!」



これまで一度も聞いたことのない母の声が聞こえ、思わず声のする方を振り向くと同時に鎧の人が肩を掴んだ。

きっと走り出した時の制止のためだろう。


ずいぶん離れた場所だったが母はこちらに駆け寄ってこようとするのを2人の大人達に止められていた。


母の後ろから父も母を止めるように肩をひいているが母は何度もその手を振り払っていた。




今すぐにでも母のもとに走り出したいと思ったがすぐにそれをやめた。


母を止めている2人の大人は同じ制服を着ている。


その服はずいぶん昔に見たことがあった。



その日は何の変哲もない日だったが授業中に突然扉が開いたかと思うとすぐに初老の男性がそこに立っているのが見えた。

その顔を確認するや否や先生は血相を変えて部屋を飛び出し、その日は教室に戻ってこなかった。


翌日みんなが不安で色々なことを憶測で話した。

そのせいで2度と先生には会えないのではないかと思っていたが、先生はいつものように子供達を出迎えてくれた。


みんなが寄ってたかって昨日の人は誰だったのかと聞くと先生は困った顔をしながら「先生が知っている中で1番神様に近いところにいる人ですよ。」とだけ教えてくれた。


その初老の男性の後ろに居た人たちと同じ制服だった。



つまり神様に近い人たちと一緒に働く人が今母を制止している。


神様の一部を預かり共に暮らしているからこそここで周りの指示に反くのは神様の意思に反するということかもしれない。


そうすれば今日静かに寝る場所さえ失うことになるかもしれない。




「・・・・。」


そう結論付けたら行動は素早いほうがいい。

父と母の方を向いて、頑張って笑って手を振る。


泣かないようにと強く唇を噛み締めたせいでうまく笑えていないかもしれないが、それが精一杯だった。




必死に抵抗していた母が驚いた顔で止まり、父も母と同じようにびっくりした顔でこちらを見ている。


ほんの数秒、かなり遠い位置だが父と母との別れはこれで済ませたと自分に言い聞かせて馬車に乗り込む。




私の両足が馬車の中に入ると、続けて鎧の人が私を押し込むように乗り込み素早く扉を閉めた。


その音を合図に馬車は動き出す。





扉には手のひらよりも少し大きい窓がついている。必死に背伸びをしてそこから外を覗く。




泣き崩れる母と母に覆い被さるように抱きしめる父の姿がどんどんと離れていき景色の一部になるまで見ていた。






8月10日から18日まで毎日更新予定。

20時前後の更新を予定しています(その後はどうするか検討中)

 

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