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今朝到着した時に降りた場所と同じ場所から今度はタモンがトラムを呼ぶ。
すぐに来た車両に2人で乗り込み前方の座席にタモンが座ったため、後方の座席に座った。
「ティーパーティーのクラブハウスは21号棟だ。8時の街、エレメンタリーの学舎近くにある。」
それだけ言うとタモンは自分のカバンから取り出した本を読み始めた。
(そういえば先輩のティーって何なんだろう…。)
特にすることもなくその大きな背中を見上げる。
(あれは痣?いや刺青…?)
首の襟で隠れるギリギリのところに黒い線が2本見えた。
「何かついてるか?」
見続ける視線に気付いたのだろうタモンが言う。
「いいえ。」
ずっと見続けるのはさすがに失礼だったかとすぐに目線を外す。
「後ろからも見えてるかもしれないが、俺は全身がこんな状態だ。」
そういって袖を捲った状態の片腕を上げて見せてくれる。
その腕にはたくさんの線状の刺青のようなものがほぼ元の皮膚がわからないほどに描かれている。
「これが俺のティーの姿だ。能力は今ここで説明するのは難しい。」
それだけ言うと袖を元に戻した。
「本当は知らなくてもいいんだが、ミリアの場合はそうも言ってられないからな。」
その言葉の真意がど言うものなのかは深く追求しないことにした。
またしばらくの静寂が続き空の景色に飽きてきた頃車体がゆっくりと傾き高度を下げ始めた。
窓から下の様子を見てみると、ここはかなり建物が密集している地域のようだ。
「この辺りはエレメンタリーの学舎と生徒たちが生活用品なんかを買ったりする街が混ざっている。クラブハウスは1番賑やかなところからは少し離れているが、いつでも歩いて行ける距離だ。」
ここに来てから学校も住むところも孤立した建物ばかりだったので、街というものに行く文化の懐かしさを感じる。
少し建物の密度が薄くなったと感じた頃に一つの建物の前に停まった。
建物の入り口には2人の男性が立っている。
車両から降りて、扉の前に立つとその2人が建物の扉を開ける。
「この2人は建物を守るブラウニーズだ。」
「本当にいろんな仕事をしてるんですね。」
「女性型は家の中を守り、男性型は外を守る。」
そう言いながら中に入る。
入ってすぐに少し広い空間がありその先は降る階段がある。
「学生証を。」
タモンに言われて学生証を取り出す。
するとすぐに学生証は手から飛び出し宙を一定の高さを保ちながら飛んでいく。
スッと階段の下に行ってしまい見えなくなったところでタモンも追いかけるように歩き出した。
それを追うように付いていく。
階段を降りた先にあるのは真っ白な石造りのテーブル。
中央奥に1脚、そして両サイドに8脚ずつ。
17のそれぞれ作りも形の違う椅子が並んでいる。
1番手前右側椅子のない場所に見覚えのあるティーカップがある。
クラブの招待状を開封する際、最初に受け取った黒く艶のあるティーカップ。
恐る恐るその前まで行きティーカップに手を伸ばすと手に取る前に後ろに押されたような力を感じ体が少し後ろに倒れる。
すると腰部分に何かがぶつかる。
振り返るとそこには先ほどまでなかった椅子があった。
綺麗な木目を火で炙ったような濃い色の木製の椅子。
背板には細く整えられた木材が外側に向かうにつれ隙間の幅を狭くし、座面と肘掛けには藍色の布を丁寧に張ってある。
「・・・・。」
椅子の後ろに来たタモンが椅子に座るのに合わせてサポートしてくれた。
座るのを待っていたかのようにティーカップの一部がゆらりとその輪郭を揺らし、夜空のような色合いの蝶になった。
一つ二つとその数を増やしていきティーカップ全てが蝶に変わったと思いきや一斉にどこかを目指して飛んでいく。
「部屋に案内してくれる。着いて行ってみろ。」
そう言うタモンは1番奥の席に座って部屋の奥にいたブラウニーズに給仕を受けていた。
一度降りてきた階段を登り、扉を出ずに左に曲がると階段がある。
大きなテーブルを遠く下に見ながら登っていく。建物の壁に沿うように半周ほど上がっていくと2つの扉がある。
それを通り過ぎ少し短めの階段を登ると外を見るための大きめの窓と丸い可愛らしいテーブル。
斜めに進む廊下には右に1つ、左に2つ扉がある。
(作りがめちゃくちゃだ。)
そう感じずにはいられないほどに自由な方向に伸びる廊下と現れる扉。
そして少し広い空間に出たかと思うと小さな丸いテーブルに2人から4人分の椅子が置かれていたりする。
たぶん今は4階だろうと思う廊下は建物の中央を斜めに伸びる廊下。
非対称な位置にある左右3つの扉。
蝶たちを一瞬見失ったかと思ったら、右の1つ目の部屋の隣はさらに上に行く階段になっているようだ。
その階段を上りきると今まで散々幅も向きもチグハグな廊下を歩いてきたのに、急に規則正しくまっすぐに伸びる廊下になった。
窓も同じ高さにズラッと並んでいる。
外を見てみるとこの建物に入ってきた入り口のちょうど真上にいることがわかった。
遠くを見れば街というよりもっと小さな建物と露店の密集が見える。
人が住んでいるというよりはマーケットという方が適切かもしれない。
道を沿って角を曲がると左には二つの扉、右には大きなガラスの外にベランダがありそこには鉢植えがいくつも置かれている。
ベランダへの出入り口は10歩前後歩くごとに設置されており、外に置かれている鉢植えを見ながら進む。
やっと蝶のあつまる扉を見つけることができた。
扉にとまり羽を休める蝶がいればその周辺をヒラヒラと飛び回る蝶もいるが、どの蝶もこの扉の近くを離れようとはしない。
丸いドアノブに手をかけると内側から鍵を開ける音がした。
少し扉を開くとその隙間からわれ先にと蝶が入っていく。
蝶が全て入った後、扉をしっかり開け中を見る。
何もない部屋にポツンとテーブルと1人掛けのソファーがあった。
テーブルはやや低めで縁が少し上がったトレイテーブル。
ソファーは正方形のクッションを座面の分だけ長方形に切り取ったような形をしている。
座ってみれば見た目よりもしっかりと硬く、座面だけはフワリとほんの少し沈む。
体に見合わない大きな椅子に包まれているような感覚に浸る。
目線を上げてみれば部屋の奥には先ほどの廊下のベランダと同じ作りになっているのか一面がガラス張りになっていて端に扉がある。
座って見える景色は空だけだった。
部屋中を飛び回っていた蝶がテーブルに集まり出す。
ぼんやりと眺めている間にあっという間にその形は崩れ、気がつけばテーブルの上には学生証だけが残っていた。
部屋の扉をノックする音が聞こえる。
描くには楽しく書くには頭の痛かった21号棟。
廊下を歩くだけで疲れる(筆者が)




