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アニミ物語  作者: カボバ
入学編
3/244

2




扉の向こうはこれが部屋かと疑うような光景だった。


部屋全体が夕焼けのような優しい橙色の灯りで照らされている。

そして天井からはいくつもの飾りが下げられている。


一つはランタンのような形をしており別のものは鏡のような素材で作られた鳥のようなものもある。

中央の台を囲むように切り株のようなものに座った大人達がいる。


大人達がいると聞いていなければその光景に恐れ慄いたかもしれないどの人も頭からすっぽりと白い布を被りある人は金属のある人は木の蔦で作られた冠をつけている。




後ろで扉が閉まる音で我に帰った。




部屋の中央に行くことができる道が一本だけ空いている。少しかけ足になる。歩く速さよりも速い心臓の鼓動が体を進む方向とは違う方に揺らしている。


中央にある台に足を踏み込んだ瞬間体が止まった。止まったように感じただけかもしれない。

出した足をいくつもの手がもっとこっちにと引っ張る感覚に無意識に抵抗して妙な止まり方をしてしまっただけかもしれない。


台に両足をのせさらに一歩前に進む。



「ーーー。」




言葉だったか音だったか、それとも静寂に耐えかねた耳鳴りだったか。


何か判別できなが確実に耳に届いた何かに続いて鈴が2つ鳴った。



続いて右側から両手を打つ音が一つ。次に左それから後ろまた右、と続くとだんだんどこから音がしているのかわからなくなってくる。


動いてはいけない動いてはいけないと自分に言い聞かせて待つ。

 



ふと甘い、どこかで嗅いだ事のある匂いがした気がした。



その時頭上から強い風が吹き下ろす。吹き下ろした風は床にぶつかり噴き上げる風に変わる。



思わず目を閉じる。



上に下に吹く風に両腕で顔の前に空間を作るような体勢をとると、急に足元がグニャリと揺れたように感じた。


後ろに傾く体を立て直そうと前に屈むように力を入れる。



風の音の合間に歓声なのか恐怖なのかわからない声が聞こえる。






始まりも突然なら終わりも突然だ。風が止んだ。ほんの僅かの静寂のあと聞こえてきたのは戸惑いの声だ。


何が起きたかわからないと辺りを見回すが、大人達は誰もこちらを見ていない。


布を被った人の向く方向など予測でしかないため正確には向いていないように感じたというところだろうか?

 




「大丈夫ですか?」



戸惑う私に声をかけてきたのは先生だった。


いつの間にこちらに来たのだろうか。なんてことは今考えなくてもいいことだが、意外と頭の中は冷静なのかもしれない。


 

「あの、終わりですか?」


なぜそう聞いたかと聞かれれば、誰もこちらを見ていないけれど彼らの興味なのか恐怖なのかの中心は間違えなく自分だという居心地の悪い感覚から早く逃げてしまいたかったからだったと思う。



「そうですね。」


「えっと、ティーは?」



 

終わりということはここでどういう方法かわからないが受け取るものだと思っていた。


しかし自分が何かを受け取るということをしたとは思えない。何かを手に持っている感覚もないし、ポケットの中身が増えたような気もしない。






何も言わず先生は指を指す。


それは私の靴、いやそれよりも下の地面を指差しているようだ。



視線を指された方の先へ、自分の足元を見てもすぐには違和感に気づかなかった。





そこにあるのは自分の影。

 




しかし次の瞬間違和感に気づいた。

 



(…影が濃い。)


頭上だけでなく壁や色々な角度から光源が私を照らしている。



少し視線をずらして先生の足元を見れば影ができているがその上に別の角度から来ているた光が影を薄くしている。




自分の足元に戻る。真っ黒だ。


夜に全ての明かりを消して目を閉じた時よりも、人の目をまっすぐ見たときに映る自分の姿の瞳の中よりも。吸い込まれそうなほど真っ黒な影が足元に広がる。



違和感はそれだけではない。



その影は明らかに自分の影にしては大きすぎる。


恐る恐る右手を正面に突き出してみる。



手の影が何かしらの形で平面的に動くはずだが、それが見られない。そこまですっぽりと影であるということだろうか。




すると影が突然波打ち、突き出した手に触れた。


何が起きたかわからず、思わずすぐに手を引っ込めた。


手に残る感触は冷たくて柔らかかった。無理やり何かに例えるなら、時間をかけてしっかりこねたパン生地だろうか。



それが意思を持ったかのように動いたのだ。

 




まだ部屋の中は小さな話し声があちらこちらから聞こえる。

難しい話をしているのか、理解しなくてもいいと頭の中が処理しているのか何を話しているかわからない。

 



「とりあえず、あちらに扉があるのはわかりますか?」



先生が指差す先、入ってきた方とは別の扉。周囲の大人達が先生の言葉を合図にしたかのように動き道ができる。

 


「あの扉のを通ったらすぐに次の扉があります。そちらの部屋で待っていてください。ご両親は別の部屋で別にお話がありますので。」

 



先生はそう言って私を扉の方へ向かせた。

が、すぐに不安になって振り返ってしまった。


視界に入った両親の顔は困惑を描いたかのような顔だった。

 



「大丈夫です。何も不安になることはありません。あなたは素晴らしい才能の持ち主ですよ、それだけはこの部屋の中にいるみんなが同じことを思っています。」

 




それは嘘ではないがだいぶ誤魔化された事実だった。




 

8月10日から18日まで毎日更新予定。

20時前後の更新を予定しています(その後はどうするか検討中)

 

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