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「どれもこれも危険度で言ったらほぼ100なんだからとりあえず私がわかるコレかコレにしておきなさい。」
赤い封筒と白い箱を指差した。
姉さんがわかると言うことは見たことがある、つまり姉さんの所属するクラブの招待状ということだろう。
迷っていても仕方がない。
覚悟を決めて白い箱にかかるリボンを解いた。
上箱を持ち上げ中を見ると真っ黒なティーカップが入っていた。
いや、、黒く見えるが光の当たり具合によっては青や緑に見えるところもある。
陶磁器の色を付ける素材はガラスのようなものだと聞いた事がある。
つまり青や緑を何度か重ねてこのティーカップは艶やかな黒色になっているのだろうと思う。
「あら、趣味がよくないわね。女の子にこんな地味な色を贈るなんて。」
姉さんはあまり気に入らないようだ。
「新月の夜空みたいで綺麗だと思う。」
両手で持って箱から出すと、一瞬重さを感じた後に急に軽くなった。
ティーカップは急にその姿を煙のように揺らがせたかと思うと手のひらから右ポケットに入っていった。
そこには先ほど受け取った学生証を入れていたはずだ。
慌てて学生証を取り出し見てみると、片面は変わりは見られないが、裏返すと縁取りに一本線が入っていた。
「学生証をこう持って親指でグッと押せる?」
姉さんが学生証を上から握るような形で持ち直させてくれた。
親指だけ力を入れるようにしてから裏返してみると先ほどまでにはなかったティーカップの模様が表示された。
「そうそう。今後クラブ関係で使う事があると思うからその時は表示させて使ってね。」
次に花の枝がとめられた封筒を手に取る。
封蝋を無理やり開けるにはあまりにも崩したくない美しさだったため、フタ部分の隙間に指を入れ折り返しの折り目を割くように封を切った。
すると封筒の中から色鮮やかな花びらが飛び出し包み込むように舞った。
驚き声も出ないうちに花びらは学生証に向かい消えていく。
「もう一度学生証で表示させてみてくれる?」
そう言われて再び学生証を握ると、今度は大きなバラの花が表示された。
「ちゃんと機能してるわね。」
「次はどれにしましょう?」
ここからは私はもちろん姉さんも未知の領域。
ノオギはもしかしたら何が出てくるか知っているかもしれないが、何も言わずこちらを見守っている。
「迷ってても仕方ないわ。ここまできたらどんどん開けていきましょう。」
姉さんに促され次に筒状の箱を手にとった。
開けると中には3本の矢が入っていて、手に触れるやいなや消えてしまった。
「ハンターね。戦闘や狩り、対人戦に特化したティーの使い方をする人たちが多いクラブよ。戦いの神ってたくさんいるからね。」
なるほど、戦闘面でも有効活用できると期待されているわけかと納得した。
学生証の確認は後にして、次を開けることにした。
木の箱はよくみなければ蓋と本体の継ぎ目がわからないほど精密に作られている。
蓋部分を持ち上げて横に置き中を確認する。
「・・・・。」
最初はこの中身は何もないように見えた。
よく見れば、箱には一面の土が敷かれている。
その中央から新芽が出たかと思うと一気に樹木へと成長した。
風もないのに波打つように全ての枝が揺れたかと思うと、そのうちの一本の枝がパキッと音をたてて折れ手元にゆっくりと落ちてきた。
両手で受け止めるとそのまま細かい光の粒に変わり学生証の中に消えていった。
「演出が派手ね。世界樹は博愛主義者と完璧思考の人が多いイメージがあるのよね。」
博愛主義者とか完璧主義者に関しては姉さんの言い方に棘があったのでとりあえず聞かなかったことにしておこう。
「これが、わからないのよね。他は聞いたことも見たこともあったから安心して開けさせることができたんだけど…。」
姉さんが黒い封筒を見ながら言う。
「開けます…!」
とにかく開けないことにはわからないし進まない。
黒い封筒を手に取ると、特に封がしてあるわけではなくフタ部分を上げれば中身の半分が見える。
中身は1枚のカードが入っていた。
取り出してみると片面は白紙、もう片面には複数の丸や四方向に複雑に絡み合いながら向かう蔦。
そして中央に獅子とそれを取り囲む複数種類の動物の絵。
不思議な模様に角を丸くした形状はまるで…。
「…トランプ?」
ガダーン!!!
突然大きな音がしたと思い音の方向を見ると姉さんが後退りしたのか机の足に躓き尻餅をついていた。
「ちょっとまって…。」
「姉さん、大丈夫?」
「あぁ、うん。大丈夫だけど大丈夫じゃない。」
なんとも歯切れの悪い返事だった。
「おめでとう、ミリア。」
その言葉を言ったのは開封作業を見守っていたノオギだった。
「トランプの意思、この学園で29番目のトランプ所持者に選ばれました。」
「ちょ、ちょっとまって。」
そう言ったのは姉さんだった。
「新入生でトランプ!?」
「ごく稀にそういう事もある。」
「そんな2日連続で同じ時間に流れ星を見ました、みたいな言い方…。」
「実際そのくらいかそれ以上に稀な事だしな。」
どこか他人事のように聞こえるその会話にどうリアクションすべきか悩んだ。
実力も実績もないけど勝手に周りが最強にしていく系主人公(の予定)




