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アニミ物語  作者: カボバ
入学編
2/242

1



「ただいま…」


希望をあふれさせて帰宅できる子はこの街でもごく少数だろう。


だいたいは口数が少なくなったり、準備のために早めに帰宅している両親に神経をビクビクさせたりする子が多い。


親もなるべく普段通りに振る舞おうとするが、明日着る服の心配やその後に待ち構えている進路の相談、その後の準備で普段よりほんの少しだけ忙しなく動いてしまっている。



そうして決まって子供達には早く寝なさいと常套句を言い1人不安な夜を過ごすことになる。


小さな灯りで何度も何度も明日の持ち物や着る服そして数日前に届いた手紙を確認する。

 


『ティーを預かる子供達へ』


少し厚手の紙で包まれた封書には両親宛の手紙と子供宛の手紙の2種類が入っている。

両親宛の手紙には事前に記入しておかなければいけない者も多く多くの子供たちはその内容を見ることはない。


重要なのは子供達に宛てられた手紙の方である。


『まだ見ぬ才能に胸を踊らせる子供達へ

君たちは7月の最も最良な日に一生の相棒を受け取ることになります。

当日は両親と一緒に教会に来て下さい。

持ち物は必要ないよ。でも、もし君が不安になりそうならポケットに入るくらいの君に小さな勇気をくれるものを持ってきても大丈夫。』

 


多くの子供達はちょっとおしゃれな服や自分が1番気に入っている靴、もしくはこの日のためにお店を何軒も回って探したお気に入りの1着を着ていくことになるだろう。


そしてポケットには母親から何度も確認された上で押し込まれたハンカチか、普段使っているバックの中から発見された甘いキャンディーか祭りの日にみんなで買った小さなキーホルダーが入っている。

 


『まずは時間に遅れないこと。

そのあとは何も心配しなくていいからね。

君たちに素晴らしい出会いを。

きっと素晴らしい日になるから。』



 

そうは言われても不安になるのは仕方ない。


それでも夜が更けていき部屋の外の少し離れたところから聞こえる両親の声もとっくに聞こえなくなってきた頃、ウトウトと夢の世界に引っ張られていく。



翌朝些細な物音で起きるか、もしくはいつもより少し早い時間に忙しない声で起こされるか。


その瞬間までは、空を自由に飛ぶことも絵でしか見たことのない大海で自由に泳ぎ回る事も見たことのない大きな生き物の背に乗って走り回ることも、自由な夢の中で不安など一切なく過ごすことができる。

 

 





「…おはよう。」


朝身支度を済ませて食卓に向かうと父も母もすでに起きていて朝食をとっていた。


「おはよう。」


「おはよう、ミリア。急いでご飯食べちゃってね。」

 



ミリア。私の名前だ。


父も母も普段は各々の仕事があるためそろって食卓につくのは珍しい。



父は剣のティーを持ち元軍人で今は街の警備隊に所属している。


母は羽ペンのティーを持ち街の博物館で歴史編纂の仕事をしている。



家族は他に4つ歳の離れた兄がいるが、父と同じく剣のティーを持ち幼い頃から父に稽古をつけてもらっていたおかげで20の学校に進学して行った。優しかった兄と離れるのはとても悲しかった思い出はあるし、年に1度は家族宛に手紙をくれるが私は正直兄の顔は朧げだ。

 



朝の時間は想像以上にあっという間に過ぎていく。


家の戸締まりを確認し、先を歩く父の後ろを母と並んで歩く。



「おや、家族でお出かけですか?」


この辺りの住宅街は比較的裕福な家の集まりなので数ブロックごとに警備所がある。


屋根と簡易的な壁椅子に机の簡単な作りの建物の中に警備隊の人員が日中は1人常駐している。


といっても物騒なことなど滅多に起きずおおよその仕事は、道案内や落とし物の預かり目の届く範囲なら出入りも把握できるので誰それが何時ごろに尋ねてきていたよなど。街の痒いところに手の届く人たちという認識だ。


 

「娘が11歳なのでね。これから教会に行くところだ。」


父が手短に答える。たぶん気軽に話をするくらいの仲ではあるようだ。



「それは、今日は吉日だ。お嬢さん、きっと良い1日になりますよ。」


身を乗り出し声をかけてくれたので、会釈を返す。


「それじゃあ、そろそろ。」


「あぁ、いってらっしゃい。」



住宅街を抜け広場に出る。



同じように両親と教会に向かう姿が一つの流れをつくり最終的にはゾロゾロという音と共に教会に向かう。



「おはようございます。書類確認しますね。」



入り口で机を並べ待っていた大人たちに挨拶すると手早く父から書類を受け取り確認作業をする。



「それでは中でお待ちください。」


建物の中はいつも以上に賑やかだ。


親同士で談笑する声、子ども同士で話す声。



部屋の奥の普段人の出入りしない扉から子供の名前を呼ぶ声。


とにかく賑やかだ。父も母もそれぞれの仕事のコミュニティだろう人たちに挨拶からの談笑をしに行ったため家族は自然に解散。



仲のいい友達を探すために少し見回したが、あいにく見当たらない。仕方がないので適当なところに座ってぼんやりと時間が過ぎるのを待つことにした。





「ミリアさん、ミリアさん居られますか?」


なかなかの時間が経ったと思う。



母は話が終わり隣に座ってくれたが特に会話もなく呼ばれる人たちを見て時間が過ぎていく感覚が鈍ってきた頃ようやく呼ばれた。


母と2人で立ち上がったところに父も話を切り上げて帰ってきたので3人で呼ばれた場所へ向かう。



この教会のホールは教会としての役割よりも学校の延長で使われることが多い。


今は長椅子をたくさん置いて1人でも多く座れるようにそして呼ばれたらすぐに動けるように通路と規則正しく並んでいる。



しかしあるときには奥から立派な台を一段置くことで立派な劇場になったり、広いホールとしてレクリエーションの場として使われたりしている。



そんな部屋の中で唯一出入り口として使ったことのない扉がある。


外から建物を見れば、その場所が奥に続く別の建物を無理やりくっつけたようなところへ向かうのだとわかる。




「緊張していますか?」


扉を越えるとすぐに閉められた。




先ほどの明るく広い場所から急に普通の廊下に普通の照明、それに慣れるまで少しの間だけ多く瞬きをすると廊下の向こうから歩いてくるのは見慣れた先生だった。



「ご家族の方もお揃いですね。それではご案内します。」


小さな教室のような部屋をいくつか通り過ぎる。中からは時より話し声が聞こえるので誰かがいることはわかるがあいにく窓はこちらからはみえないスリガラスになっている。


そして突き当たり奥の部屋の扉の前で止まった。




「ミリアさん、あなたは今からティーを受け取ります。そのためには部屋の中に入り部屋の中央にある台の上に立たなければ行けません。中にはたくさんの大人がいますが、気にすることはありません。いつも通りの姿を神様達に見てもらって、神様の一部をお預かりする。それで終わりです。まあその後に少し難しい話をする事もありますが…。」


背中を押され扉の前に立たされる。



「私もご両親も部屋の入り口で見ています。」




そう言われて部屋の扉を自分の手でそっと開けた。




8月10日から18日まで毎日更新予定。

20時前後の更新を予定しています(その後はどうするか検討中) 

追記:大変遅くなりました!!

 

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