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アニミ物語  作者: カボバ
交換留学生と花見
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2






そう言ったミチカの声は普段の自信にあふれるものではなく、遠慮がちを通り越して消えそうなものだった。



「僕は全然譲ってもいいんだけど、行きたい理由は?」


テルマが返す言葉には100ではないにしろ自分も言ってみたかったという意思が感じられる。




それなら譲るにたる理由を聞いておきたいと思うのは当たり前のことだろう。



「私には、夢があるの!」


少し考えてから話し出したミチカの声には力が宿っていた。




「私は将来、『リルドヌール』になりたい。」


ミチカが目指すもの。



それはまだまだ少ない知識の知っている限り女性の頂点群。



言葉を選ばずに言えば役人と呼ばれる女性の最上級。





「あっちこっちを駆け回って、仕事したいの。」


特有の仕事があるが、その中でも有名なのは各都市や街を回ることだろう。



生きているうちに2度同じリルドヌールに会うことはない。


そう言われるほど各地を移動し、人々の要望に耳を傾け時には争いの間に立つ。


ほとんどの街で数年に1度訪れ、数日の滞在でまた次の街へ向かうこともあれば数ヶ月滞在することもある。



当たり前だが並外れて優秀であり、尊敬を集める存在だ。




「そのためにできる経験はどんなことでもしたいし、いろんな人との繋がりも作りたい。」


ミチカが人一倍勉強に気合いが入っていることも、それ以外のことにも積極的に関わろうとしていることもこの部屋の中にいるメンバーは知っている。





「俺はミチカが行ってくれるなら安心かな。」


そう言い出したのはコナミだ。




「ミチカがこの中では1番この機会に学べそうだし、やりたいって思ってるならそれが1番だよ。」


それにとさらにコナミは続けた。



「ミチカは誰かと違って音信不通にならなそうで心配いらないだろうし。」



「急に流れ弾飛んできたんだけど…。」


「コナミの言いたいことはわかるなぁ。」


あれだけちゃんと連絡してと言われ送り出されたのに、1月に入ってから帰るまで連絡できる状況ではなかった。




何かあったのだろうと察してはいたが、心配しないわけではない。


「それじゃあ、このクラスの代表はミチカでいい?」



これ以上針で突かれるのはいたたまれないので、無理やり話を本筋にもどした。


それぞれがうなずくなどして同意を示したことを確認してミチカの方をみる。




「みんな、ありがとう。」


ミチカは立ち上がりそういうと、先生に伝えてくると言って小走りで部屋を出ていて行った。



あまりにも早い決定に、本当にいいのかミチカと確認しに戻ってきたノオギの表情はまあそうなるよなと言うほど驚いていて少し笑ってしまった。








「まぁ、本人の希望をみんなが納得して決定したって理解してもらえました。」


「そう、それはよかったね。」


作業をする手を止めずに返答したのはワマ。



みんなでお昼ご飯を食べさて午後は何をしようかと話をしていたところに暖炉の中から現れ、手伝って欲しいことがあると花園のクラブハウスに連れてこられた。


親指の爪くらいの大きさをした白く丸いものを紙というには柔らかいもので包みカラフルなリボンで結ぶ。



1度隣に座って説明しながら実演し、注意点を伝えてから黙々と作業する。



時折パチパチと暖炉の中から弾ける小さな音が聞こえるだけの静かな部屋。




「あなたたちのクラスはみんな仲がいいみたいだけど、何かあったの?」


静かな部屋でワマが聞いてきた。




(そういえば、前にも仲が良い的なことを言われたような…。)


作業する手を止めずに午前中にあった出来事を言えば、関心があるのかないのかよくわからない返答が返ってきた。




「ところでこれはなんですか?」


できあがったものを籠に入れながら問いかける。




「花見の準備。」


ワマもできあがったものを籠に入れながら答えた。



「花見のことは誰かに教えてもらった?」


「今日そういう行事があるということを聞きました。」


各自で読むようにと言われたものもまだ読んでない。





「これは種。3月1日の朝に学園内に住むすべての女性と女の子に届けられるの。」


そう言うとワマは作業する手を止めて、形が悪いからと避けていた白く丸い種を手に取った。




(種っていうにはかなり大きいような…。)


ワマは左の手のひらにそれをのせると、右手親指で押し潰すようにして割った。



中は空洞になっていてポロポロと黒い種子が出てきた。



「これは花菱草の種ね。どんな花の種が入ってるかは咲くまでわからない、誰かが受け取って大事に持って3月3日になったら花が咲く。」


手の上の種と殻を紙に包み完成品とは混ざらないように机の端に置いた。



「この白い殻は祝福って言われててね、余すことなく人々の手に行き渡って立派な花が咲きますようにって願いがかたちになったものだそうよ。」


そう言ってワマはまた作業を再開しだしたので、同じく手を動かす。




「花は朝日が登る頃に咲いて、日が暮れる頃までには花びらを散らして消えてしまう。満開の花を髪や服に飾って、その日限りの美しさを楽しむ。…でも例外もあるわ。」


手を休めずに話を続ける。



冬祭りの時は口数が少ない静かな人かと思っていたけど、おしゃべり好きな面もあるようだ。




「3月1日に受け取った種は受け取った人の手の上で不思議な成長の仕方をして次の日の夜までには蕾の状態になる。そして翌日には花が咲く。でも稀に花が咲かず蕾のまま日が暮れても消えない事がある。」


そこまで話してワマは顔を上げる。



「どうしてだと思う?」





ワマ、いい子なんです(作者談)

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