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アニミ物語  作者: カボバ
間話 少し昔の話をしよう
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間話と言いつつ前回の続きから始まります(お知らせは活動報告へ)






翌日の土曜日。



昨日わたされた番地と簡単な地図を頼りに8時の街を歩く。


街の中でも南東のエリアはお店よりも事務所や工房が多くほとんどきたことがなかった。




角にある番地の看板を頼りに目的の建物を見つければ、ここも事務所と工房の合わさった様な建物だ。


見たところ1階に入り口はなく、横の路地から裏手に回ると大きなシャッターと階段が現れる。




階段を登り扉をノックすれば中から駆け寄ってくる足音。



開錠する音は一瞬ですぐに扉が開いた。



「おはよう、迷わず来れたようでよかった。」


出迎えてくれたのはアマジ。



今日はいつも背負っているティーは無かった。




「おはようございます。」


挨拶もそこそこに中に入るよう促される。




中は至って普通の事務所という感じだろうか。



机が4つに椅子が4つ、その組み合わせでできた島が3つ。


そのほとんどが使われていないようだが、巻いた大きな紙や薄い木片が隅に置かれている机もある。




さらに向こうは窓、その先にあるのは外の景色ではなく別の室内のようだ。


窓と窓の中央に扉があるのでそちらにも行けるようになっている。



3つの島の奥にはソファーにテーブル。


簡易的な応接スペースに案内された。




「ここは?」


「父さんの工房だ。これからする話は学生たちに聞かれるわけにはいかないからな。」


私も学生と言い返す前にアマジがため息をひとつ。



「その時代のことを知るには、その当時の人から話を聞くのが1番だと言ったんだが…。」


断られただろうことは聞かなくてもわかる。




「いつもの授業だとおもって話を聞いてくれればいい。」


「わかりました。」



資料もなく、メモも取れない。


少し特殊だが授業と言われれば少し安心をしてしまう自分も居る。






「さて話を始める前に、これから話すであろうことに心当たりは?」


「…なんとなくですね。」




知る権利がない、話ができない。


そして断片的に聞いた戦争という言葉。



どれも何か重要なことを隠すというより、何かから守って居るような印象を受けた。





「公然の秘密なんて言い方をされるが、一種の契約だ。話す権利がある人も限られるし、話す場合は話す側の契約によるプロテクトを一時的に解除する必要がある。」



契約というのもいつかは自分が当事者として当てはめられる日が来るだろうとは思っていたが、こうも早く来るとは思っていなかった。




「難しい言い方をしたが話す必要があると認識されてから許可が降りるまでにひと月も待たせてしまった言い訳でしかない。」


私が嘔吐感で毎日苦しんでいたころに大人たちが話し合っていた議題の1つらしい。





「その契約を破って誰かに話してしまった場合はどうなるんですか?」


「契約の種類にもよるが、今回の話に関しては誰にもどうなるかわからない。」



以前聞いた守秘義務を了承した上で集められた人たちの契約は、破れば手や舌を焼く。


本当かどうかわからないがそう聞いた。




「数年に1度くらいの頻度で、自称活動家や思想家がこの件について大っぴらな動きを見せることがある。だがそう言った奴らは世間の目が集まり始める前に消えてしまう。」


考え行動に移したらアウトということだろう。



「人だけでなく全てが消える。職場の机の中で転がるペンも、自宅で朝飲みかけのまま放置していたであろう飲み物まで。そいつが居たという証は周りの人間の記憶以外全て消える。」




そう言いながら手帳を取り出し、そこから1枚の写真を出した。


机の上に置かれたその写真はずいぶんと古いもののようで、4人の男性がどこかの建物の前に並んで撮ったもののようだ。



すぐに気付ける違和感としては、被写体になった4人は写真の中央や均等に並んで立っているわけではなく左端から4人並んで右側は建物の壁。




その様子はまるで。



「本当はあと2人居たみたいな写真ですね。」


「その通り、この写真はもともと6人で撮られていた。しかし、ある日を境に写真から2人の姿が消えた。」


物理的だけではなく、本来不干渉であるはずの写真の中まで消えてしまう。


その証拠がこの不自然な写真というわけだった。




「消えてしまった人物を知る人が全ていなくなったら本当に何も残らない。契約とは恐ろしいものだという話のために、これを見せることにしている。」



人の記憶だけは消せないのか、はたまたその恐ろしさを再認識させるためにあえて消さないのか。





「さて、ずいぶんと話が外れてしまった。」


そう言いながら写真を手帳にしまい、アマジは座り直して姿勢を正した。




「本題に入ろう。ここからが歴史の授業だ。」



返事はせずに小さくうなずけば、聞く体制に入ったことは伝わった。





 

顔も名前も憶えているのに、なぜかアルバムや連絡網に一切残っていない子供のころの友人っていませんか?


私は1人います。


名前も顔もどこでどんな話をしていたかも確かに覚えているのに、私以外が一切知らない。



なんなんでしょうね…?


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