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数日前にタモンが大丈夫と言った。
その言葉を少し深掘りして聞いた内容を思い出す。
今体に起こっているのはティーと歩み寄ったことで、ティー側からの影響がより反映された状態。
わかりやすく言うなら成長に伴うアップデートだという。
しかし非日常的な変化は簡単には受け入れられず、初めのうちは提示された新システムの方にばかり無意識に比重を傾けてしまう。
それが限りなく100と0になっていたところを、タモンがティーを介して元の人である姿を残した。
ティーとの対話を終えて目が覚める頃には98と2程度だろうとタモンは推測する。
そうだったからこそ、扉をすり抜けることも途方もない広さを覆い全てを飲み込むこともできた。
何をやったのか追想し人と会話をして行くうちにだんだんとティーが占める割合は時間をかけて分つ様になり、学園に戻ってきた頃が70と30。
まだ非日常が強いけれどそれが日常と共存できるようになって、焦りよりも受け入れられるようになる。
そうすると、ふとした瞬間に釣り合いが取れる瞬間がおとずれる。
何か心当たりはないか?と聞かれた時、暖炉の前に座っていたときいつの間にか真っ黒な人が隣に居たことを思い出した。
そういう合図を経てアップデートは完了。
びっくりしたり危険と判断されない状況ならもう他の人にも触れることができるはずだとタモンは言った。
(正直本当に触れられる自信はなかったけど…。)
強い力でハグをしながらよかったよかったと言うミチカと、左右の手をそれぞれ触るユウガとテルマ。
その足元をバタバタと走り回るのは3人のティー。
「ミチカ、そろそろ離してやらないとミリアが潰れる。」
「もしくは口からいろいろ出る可能性もあるね。」
コウヤとコナミに言われてやっとミチカから解放された。
「…そういえば1つ確認したいことがあるんだけど。」
そう言いながらテルマの方を見れば、テルマは自身を指差し首を傾ける。
「コレの声はあなたに聞こえてますか?」
いつの間にか隣に現れた真っ黒な人と2人で、テルマのティーの前にしゃがむ。
ティーは真っ黒な人をしばらくじっと見つめた後、何かをアピールするように前足をあげた。
その意を汲みとった真っ黒な人は、両手にティーを乗せて自身の顔の前までもっていく。
その様子をみんなで見守っていたが、やがてワンっとティーがテルマの方を見て鳴いた。
「ティーはなんて?」
うーんと考えながらテルマは質問の答えを探す。
「やっぱりわからないって。でも、前と違ってすごく小さな声?遠いとか近いとかじゃなくて壁の向こうとか水の中から誰かが話してるようなのはかすかに聞こえる。それが話しかけてるこえなのか、鼓動なのかまではわからない。」
って言ってるとテルマが言うと同時に真っ黒な人の手からティーが降りた。
「そっか、ありがとう。」
テルマとテルマのティーにお礼を言うと、ティーはもう1度はっきりと吠えた。
その声に応えるように手を振って真っ黒な人は消えた。
「もしかして、テルマのティーが何か言ったのにはちゃんと反応してる?」
立ち上がりながらテルマに聞いてみると、テルマは確認するようにティーの方を見る。
「そうみたいだよ。さっきも『もっと近くで聴かせて』ってお願いしたら手に乗せてくれたんだって。」
これも成長だろうか。
ふと少し前のことを思い出す。
リンカのティーがまだ今ほどリンカの言う事を聞いていなかった時、テルマのティーが影の中に頭を突っ込んだ拍子にその大きな耳が拾っている声が私の耳にも届いた。
あれ以来同じことは起こっていないが、また何かきっかけがあれば真っ黒な人が聞いている事や見ているものが私にも届くのではないだろうか。
そんなことを考えたが、すぐに頭を少し振り自身の考えを否定する。
(急にいろいろできる様になったからって求めすぎたら、成長痛じゃすまなくなる…。)
今回のことで悩んだ期間を成長痛と表現するなら、さらに求めて今度は大怪我になってしまうかもしれない。
そうなったら笑えないので急ぐ必要もないと求める事をやめた。
「そろそろ帰ろうか、残ってるの俺たちだけみたいだし。」
ユウガの言葉に見回せば、数人の先生はまだ残っているが他のクラスの人たちはとっくに帰ったあとのようだ。
「明日の夜みんなでパーティーしようかって話してたけど、ミリアも来るよね。」
「もちろん。」
みんなが立ち上がり、周囲で遊んでいたティーたちを各々が迎えに行く。
「ミリア、ちょっといいか?」
さて終わったしとりあえず部屋に戻っておしゃべりの続きをするか、それとも早めに帰宅して彼女に明日何か特別なものを作ってくれるようにお願いするか考えていたところで後ろから声がかかった。
声の方を見れば、アマジが出口とは少し離れた場所で手招きしている。
みんなが先に行ってるねと言いながら退室して行くのを見送ってから、アマジの元へ向かう。
「何かありましたか?」
そう声をかけアマジの顔を見れば、何かすごく悩んでいる様な表情だけはわかった。
「この間のことで大人たちや先生がたくさん話し合って、ミリアには知っておくべきだと結論が出た。」
授業の時とは違い、はっきりしない言い方に戸惑う。
「ホズミを惑わし、その後2度もミリアの前に現れたあの男。それから、この壁の中で過去に起こった争いについて。」
知らなかったこと、知る機会がなかったこと、
そのいつの間にか頭の奥底に沈んで見えなくなっていた疑問を、言葉が思い出させる。
「ミリア、少し昔の話をしよう。今も残る戦争の爪痕と必要な知識とトランプが抱える問題について。」
それは自分のためだけに行われる、特別授業への誘いだった。
1月編、終わり!
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