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アニミ物語  作者: カボバ
1月編
185/276

21







ほんの少しの間に人はさらに増えていて、左右から違う音楽が演奏されているはずなのに不思議と不快感は感じない。




「あっ、その子知ってるよ。ユリのお姫様だよね。」


誰かがそう言った。



「ユイトも外に友達がいるなら、もっと連れてきてもいいのにね。」


また誰かがそう言う声も聞こえてきた。




片手に名前も知らない楽器を持ち時より演奏しながら、誰かの手を取りクルクルと踊っている。


いつの間にか先ほどの男子生徒を見失うほど人の手から手へ引っ張られその人その人のリズムでクルクルと踊る。




またワッと歓声が上がったかと思うと一気に人が階段の方へ流れて行った。


すぐにユイトが降りてきたのだろうと察し、しかしもみくちゃにされてるユイトを助ける勇気もなく人目から離れるようにホールの壁際に逃げた。




「とっても賑やかでしょ?」


いつの間に降りてきていたのかチナリのティーが変身した姿でそこに居た。




「ここにきた時の静けさが嘘みたいですね。」


降りてきた時はどこからか聞こえる音楽が風の音と混ざり幻想的だったが、今は音や声があちらこちらで響き混ざりとても賑やかだ。




「賑やかなのが好きな人たちが多いのさ。だからみんなここで毎日音楽に浸ってる。」


今まで聞いてきた海底神殿の印象はミステリアスな話が多かった気がするが、この光景が崖下の街に留められているだけで噂だけが勝手に歩き回っているのだろう。




「ミリア、無事?」


どんな手荒い歓迎を受けたのか、ユイトの髪はボサボサで全身からくたびれ感が伝わってくる。



「愛されてますね。」


膝に手をつきため息をつくユイトの髪に着いた何かを払いながら言う。




「あのノリに巻き込まれるのは大変なんだよ…。ミリア、今は触れるの?」


ユイトの口にした疑問に手のひらを差し出して見せる、


先ほど書いてもらった線はいろんな人に触れたせいだろうか、ずいぶんとかすれてしまっているがまだ残っている。




「あぁ、なるほど。書いてもらったんだね。」


手のひらを見ただけで、ユイトはすぐに何が行われたかを察したようだ。



「それを書いてくれた彼と、あそこにいる人。それからあの中心で踊ってる女の人とチナリが海底神殿4人のコンダクター。僕の代わりにメンバーをまとめてくれる頼もしい存在だよ。」



ユイトが指差しながら教えてくれたチナリ以外の3人はそれぞれが少人数のグループの中心にいる。




「僕は代表だけどトランプで居ないことも多いし、それ以前に人をまとめる立場に不安しかなかったんだ。でも前の代表がそれなら中のことを任せられる人を作ればいいって言って今の形になったんだ。」


「なるほど。」


代表というのをどうやって決めるかはクラブそれぞれのやり方があるのだろう。




「俺たちの可愛い弟が憂いないように。」


「いつまでも繁栄輝く場所であり続ける。」


「私たちが面白おかしく過ごせる場所を守るために。」


ユイトとチナリのティーの3人だけしか居なかったはずが、いつの間にか3人増えていた。




「私たちの可愛い弟を外に出してくれてありがとう。」


先ほど遠くで踊っているのを見た時も思ったがこの人は動くたびに小さく軽いたくさんの金属が触れ合う音がする。


それが楽器なのかそれとも装飾品なのかわからない。




「ミリア、上まで送るよ。」


そう言ったユイトの顔は明らかに恥ずかしいとか照れていると言った感情が混ざっている。




「またいつでも遊びにおいで。」


「君ならいつでも俺たちは歓迎する。」


軽く頭を下げてから先に行ったユイトを追いかけた。






時刻は日が暮れるにはまだ少し早いが、崖下のこの場所は傾いた陽が見えなくなるのが早い。


崖を登る階段の入り口まで来た時、ユイトが入り口横にある小屋から何かを取り出した。



小さなガラスでできた筒は上部に2ヶ所紐が通してあってそこを持つようだ。


そしてユイトはおもむろに筒を川の水に浸す。



筒には底がなく水が溜まることはなかったが、引き上げるとボンヤリと光っている。




「不思議でしょ?」


やっと気持ちが落ち着いたのか振り返って少し笑いながらユイトが言う。


手に持っているものも同じように流れる水に浸して上げると同じように光った。




「不思議ですね。誰がどうやってこれを作ろうと考えついたんでしょう?」


光るガラスの筒にそっと指先で触れれば目には見えなくてもかすかな凹凸があることがわかる。



これもまた、作ったものが不思議なことになるティーを持った誰かがこの場所で使えるように作ったのだろう。





「ここに住むように居着いてる人たちも多いけど、日が暮れたら帰るべき場所に帰りなさいって言われてるみたいでしょ?」


「ユイトさんは、今日はどっちで寝ますか?」



一緒に上まで上がったあとユイトはどちらを選ぶのか。




「僕はミリアが帰ったのをちゃんと見届けたらもう1度ここに戻ってきて、みんなの音が鳴り止むまで付き合ってから自分の家に帰ろうかな。」


「そうですか。」


少しホッとした。





灯りは乾いてしまえば消えてしまうらしく、その前に登ってしまおうと言われ2人で並んで階段を登る。



道中はここ数日にあった出来事の中で印象の薄い、自分の中ではどうでもいいことを話したりした。


なぜだか今は静かな中で足を進めるだけの時間にしたくなかった。




さすがにプロモーションの事についてはユイトも半ば呆れたように注意をしてきたし、オベロの誘いに乗らなかったことは褒めてくれた。


やっぱり最後の石の段を上がる時だけは少し恐かったがなんとか登りきり久しぶりの地面に足をつけた。





「もう、ここまでで大丈夫ですよ。早く下に戻って引きこもってた分、可愛がられてください。」


そう言いながら光源をユイトにわたす。



少しからかうような言葉を使ったのにユイトは何も言い返して来ない。




両手を見れば、書いてもらった線がもうずいぶんと薄れてしまっていたがまだ残っていた。



「私はこれが消える前に帰ってあげないと行けないので。」


消える前に帰れれば、彼女から行われる連日のイタズラも少しは止むかもしれない。



「…それじゃあ、またね。」


「いつでも連絡ください。」


ユイトはここにきて目の前の不安や胸に抱えるモヤモヤを口にしなかったように見えた。




それを無理やり突いて出すのは無作法に思えて口にはしなかった。




昼にきた停留所への道へ歩き出せばしばらくしてガラスの筒が触れ合う音が聞こえたので、振り返ることはしなくてもユイトが下に戻って行ったのだろうと察することができた。






活動報告、更新しました(2025.03.19)

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